お好きな項目に飛べる目次
お好きな項目に飛べる目次
南北戦争に参戦
1861年、南北戦争が勃発。
黒人たちも北軍兵士として銃を持ちました。
この戦争が奴隷解放のものだけであったのか。
諸説は分かれるところです。
アメリカを揺るがす「リー将軍の銅像撤去問題」とは何なのか? 歴史的見地から紐解く
続きを見る
リンカーンは黒人奴隷を解放するもインディアンは迫害&虐殺していた!?
続きを見る
重要なのは、黒人自身らが、自らの権利のため果敢に戦ったと認識したことではないでしょうか。
※南北戦争での黒人兵を描いた『グローリー』
この戦争には、女性のタブマンも参加しました。
兵士としてではなく、料理人兼看護婦。
そしてスパイとしての顔もあったのです。
1863年6月1日、満月の夜が明ける頃。
タブマンは北軍兵士を案内役として率い、カンバヒー川を哨戒艇で遡上しています。
機雷を仕掛け、橋や鉄道を爆破する大胆な作戦のためでした。作戦は成功します。
この帰りの哨戒艇には、750人もの解放奴隷を載せていたというのですから、見事な活躍ぶりではありませんか。
しかし、彼女は黒人であり女性です。栄誉も富も得られません。
報酬は、白人男性の半分ほどにしかならないのでした。
自由のために戦い続けて
南北戦争で勝利し、北部の白人が黒人を暖かく迎え入れたのか?
と言いますと、そうはなりませんでした。
「黒人どもが俺らの仕事を奪ったらどうする?」
そんな猜疑心は消えません。
しかもそんな白人たちは、黒人を愚かしいものとして描いた寸劇を見て、笑い転げていたのですから。
ガキ使「ブラックフェイス」は何が問題か?歴史アプローチで本質が見えてくる
続きを見る
タブマンはある時、汽車で車掌からこう言われました。
「おい、黒人は煙車両(※煙が流入する車両)だろ。出て行け!」
タブマンは断固拒否したものの、車掌に無理やり連れ出され、結果、腕を折られてしまうのです。
「僕が一部始終目撃しましたよ。あなたは何も悪くない、裁判に訴えるのであれば証言します」
そう彼女をかばう若い白人男性もいましたが、あくまで一部の例外。
多くの乗客は、車掌を応援していたのです。
残念ながらこの親切な男性とは連絡先を交換しなかったためか、タブマンは結局訴えることはできませんでした。
知勇兼備のタブマンであるのに、肌の色と女性というだけで長年困窮に苦しめられていました。
家畜と共に穏やかに暮らし、親子ほど歳の差がある黒人奴隷と金銭支援目的のために結婚したタブマン。
この夫にも先立たれてしまうのです。
困難な日々ながら、タブマンは講演会や事前事業に参加し続けました。
そんな彼女を救おうと伝記を発表したのは、サラ・ホプキンズ・ブラッドフォードという白人女性作家でした。
伝記で知名度が上がり、生活はやや安定します。
軍からも僅かながら恩給を支給されました。
子孫や救った奴隷ととともに、慎ましやかに暮らしながらも、タブマンは自由のために闘志を燃やし続けます。晩年には、婦人参政権運動にも参加しました。
そんなタブマンは1913年、91歳で激動の生涯を終えます。
生年不詳であるため享年はハッキリとはしません。
91から93まで諸説あり、90を超えていたことは確かなようです。
2020年、そんなタブマンが紙幣の顔になる歳とは、やはり感慨深いものではないでしょうか。
女性参政権が付与されてから一世紀という節目にあたります。
黒人として、女性として、戦い続けたハリエット・タブマン。
彼女こそ、紙幣の顔にふさわしい。
アメリカはそう判断したのでした。
英・50ポンド紙幣にチューリングが採用される
イギリスでは、2021年末から流通する新50ポンド紙幣に、アラン・チューリングが採用されます。
※チューリングたちの暗号解読を描いた『イミテーション・ゲーム』
チューリングは第二次世界大戦中、ナチス・ドイツの海軍作戦の暗号通信「エニグマ」を傍受・解読することに貢献。
現在のコンピューターやAIの基礎を築いたとされる数学者です。
しかし戦後、イギリスでは1967年まで違法とされていた同性愛行為のため、有罪とされてしまいます。
そのうえ科学的去勢を強要されてしまうのです。そのことを苦にしたのか、シアン化カリウムを口にして命を断ちました。
彼の死後から長い時間を経て、名誉は回復されました。
2009年には英政府が謝罪、2013年には恩赦により有罪判決が取り消されています。
そしてついに、紙幣の顔となるのです。
黒人で女性であるため業績を過小評価され、偏見と差別に苦しんできたタブマン。
同性愛者であるため、犯罪者とされてしまったチューリング。
以前ならば日のあたらぬところにいた人物が、国の歴史を代表する紙幣の顔になる。
そんな時代が訪れました。
紙幣の顔にも、人間の意識や歴史への認識が表れているのです。
あらためて、以下、日本の新しい顔の人物伝をご覧いただければ幸いです。
渋沢栄一には実際どんな功績があったか「近代資本主義の父」その生涯を振り返る
続きを見る
6才で渡米した津田梅子が帰国後に直面した絶望~女子教育に全てを捧げて
続きを見る
東大とバトルし女性関係も激しい北里柴三郎~肥後もっこす78年の生涯
続きを見る
文:小檜山青
【参考文献】
『反逆者たちのアメリカ文化史(春風社)』(→amazon)
『自由への道 自由への道 奴隷解放に命をかけた黒人女性 ハリエット・タブマンの物語(学研プラス)』(→amazon)