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【文徴明と唐寅】
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文徴明の書斎を訪れた人は、その狭さに驚きました。
「もっとコレクションいろいろあると思ったんですけど、結構こじんまりとしてますねえ」
「私の書斎は、みんな紙の上に建てたものばかりだもん!」
文徴明はそう笑って答えました。
みなさんも、紙の上でも、頭の中でも、書斎なりどんなものでも建ててゆきましょうね。想像と創作とは、あくまで自由なものなのですから。
自由で、文化を楽しむその生き方は、憧れの目で見られてきました。
彼らの愉快な生活や友情は、小説から映画まで、様々な姿で描かれて来たのです。
日本語版も存在するものでは、香港映画界の喜劇王・周星馳(チャウ・シンチー)が唐寅に扮した1993年『詩人の大冒険』(原題:唐伯虎點秋香)があります。2019年版も作られました。
※1993年版
※2019年版主題歌
そんなスゴイ人が題材のコメディ映画があるんだ――そう意外に思うかもしれませんが、何世紀にもわたって愉快な人々だと愛されて来たとわかれば、納得できるかと思います。
生誕から550年を経ても、うらやましいこのバディ。作風だけではなく、人生のお手本にしてもよいかもしれませんね。
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文徴明、短い公務員生活との別れ
極めてマイペースな生活を送っていた文徴明。
53歳で9度目の科挙受験に失敗し、そのころ病気にも罹り、転機を感じるようにはなります。
そして嘉靖2年(1523年)。
李充嗣(りけいし)が文徴明の才能に感銘を受け、歳貢生(さいこうせい/推薦枠官僚)として朝廷に推薦したのです。
翰林院につとめ、薄給ながらも名誉ある仕事をこなした文徴明。若い周囲からも理解があり、そこそこ順調な官僚ライフかと思われましたが……だんだんと公務員適性がないことに悩むようになります。
しかもこの歳、唐寅が没しています。享年54。
「臨終詩」唐寅
生在陽間有散場
生きて陽間に在りても 散場有り
生きてるってことは、死ぬ時が来るってこと
死歸地府也何妨
死して地府に帰すとも 也(ま)た何ぞ妨(さま)たげんや
死んであの世に行っても、そういうこと
陽間地府倶相似
陽間 地府 倶(とも)に相(あ)い似て
この世もあの世も、似たようなもんよ
只當漂流在異鄕
只(ただ) 漂流して異鄕に在(あ)るに 当たるのみ
旅していて見知らぬ場所に行っちゃうようなものだな
その翌年、宮廷は死者も発生する事件【大礼の議】が起こっております。
明朝は官僚への処罰が厳しい時代です。錦衣衛(きんいえい/秘密警察)が暗躍し、政治的事件に巻き込まれると棒で殴られる「廷杖の刑(ていじょうのけい)」の犠牲となることもありました。
「完膚無きまで」という言葉があります。傷のない皮膚がないまで叩く、拷問の様子が由来なのです。明朝の官僚は、無傷の箇所がないほどまでに殴られる危険とも表裏一体でした。
文徴明本人は巻き込まれずに済みましたが、ストレスが溜まり続けます。
嘉靖5年(1526年)までに、三度辞職を願い出て、ついに受け入れられました。公務員としての就職ライフは3年間。短い!
偉大なる知の巨人
かくして故郷の蘇州に戻った文徴明は、我が子や後進を見守る、仙人のようなレジェンドとなりました。
嘉靖38年(1559年)、墓碑銘を書き終え筆を置くと、ふっと昇天するかのように大往生を遂げます。享年90。
その後の蘇州において、後進の銭謙益らはしみじみと振り返っています。
「文徴明先生のあとは、どうにも蘇州はダメだな。みんな先生の真似ばっかりして。偉大すぎたんだな……」
それほどの知の巨人でした。
文徴明の偉大さは、海を超えて日本にも伝わっています。
彼のような書画を目指すこと。与謝蕪村、河東碧梧桐……多くの文人たちが、どれだけ文徴明に近づけるか。修練に励んで来ております。
今日もどこかで、どうすればもっと文徴明のような字を書けるのか、筆を握る人はいるのです。
書画だけではなく、マイペースな生き方、楽しい友情。
そんな生き方も目指したい。そんな二人が、明代蘇州にはいたのです。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
『生誕550年記念 文徴明とその時代』東京国立博物館(→link)
文徴明『中国法書ガイド50 文徴明集 明』(→amazon)
井波律子『中国の名詩101』(→amazon)
鈴木洋保/菅野智明/弓野隆之『中国書人名鑑』(→amazon)
井波律子『中国の隠者』(→amazon)
井波律子『奇人と異才の中国史』(→amazon)
井波律子『中国文学の愉しき世界』(→amazon)
丸橋満拓『シリーズ中国の歴史2 江南の発展』(→amazon)
平田茂樹『科挙と官僚制』(→amazon)
他