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【ディアーヌ・ド・ポワチエ】
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絶対、覗くなよ! ちゃんと言ったからな、覗くなよ!
フランソワ一世の寵姫であるエタンプ公爵夫人は、底意地悪いことを彼女に言ってのけます。
「身の程知らずの皺くちゃババア、って世間で言われているのをアンタ、知らないわけ?」
しかしディアーヌは自信があったと思います。彼女は厳しい節制によって美貌を保っていたのです。
まず朝の三時には起床し、泉の水で頭から足の先まで沐浴。それからフルーツジュースを取ると、乗馬で早駆けをします。
午前八時までにはベッドに戻り、リラックスしながら読書です。昼に起きると質素な食事を取り、それから領地経営と客人接待に励みます。
運動、適度なカロリーと栄養、休息が揃った、まさに美貌を保つための一日なのでした。
王の読みとディアーヌの賭けは当たりました。
ディアーヌを寵愛してからは、アンリは人が変わったように生き生きとした青年へと変貌を遂げたのです。
彼女の言葉通り、眠っていただけの彼の精神は目を覚ましました。
一方、このことにショックを受けたのはカトリーヌです。
19歳も年上の愛人に完敗するなんて。しかもサン・ジェルマン・アン・レイ城では、ディアーヌの寝室は、アンリとカトリーヌ夫妻の真下にありました。
ディアーヌは寝室でアンリを奮い立たせると、「さあ、下の奥様のところへ行きなさい」と一階上の夫婦寝室に送り込むのです。
この特訓のおかげか、カトリーヌは子宝に次から次へと恵まれました。フィレンツェの占い師や薬よりも、ディアーヌ効果の方があるのでした。
カトリーヌは一体下の階では何が起こっているのか気になり、スペイン人大工に命じるとこっそりと覗き穴を作りました。
そして夫と愛人の様子を覗き見たのです。
二人の秘め事を初めて覗いたカトリーヌは、ショックのあまり泣き叫びます。女官が「だから止めたんですよ」となだめると、彼女はこう言いました。
「こんなに辛いなら見なければよかった、なんでなのーッ!」
いや……そりゃあ……そうでしょうね、としか言いようがないですね。
このあとも、下で何かがあったあと、興奮した様子のアンリがやってきてカトリーヌを抱く、という屈辱の日々が続くのでした。
頭文字D&Hは二人の愛のメッセージ
父が亡くなり、王位についたアンリ。
彼は戴冠式用の衣装に、三日月を三つ絡ませたディアーヌのシンボルと、二人のイニシャルであるDとHの組み合わせ文字を織り込みました。
しかもこれだけには留まらず、愛のシンボルを宮中の使用人や護衛の制服、便せん、戦旗にも採用します。
いくら何でもやり過ぎと言いますか。結婚式の引き出物でもらうカップル写真入り食器以上に、破壊力があるんではないでしょうか。
しかもアンリは、即位を各国に知らせる公文書や祝辞の返信も、ディアーヌに書かせました。二人の署名入りにすることもありました。
ディアーヌは実質的に王の最高顧問。人々は彼女を「無冠の王妃」と呼びました。
さらにはその美しさで有名なシュノンソー城をディアーヌにプレゼントします。ヴァレンティノワ公爵夫人の地位も送ります。
シュノンソー城はカトリーヌが欲しくてたまらなかった城です。
ディアーヌとの愛で自信を取り戻し、政治的手腕も発揮するようになったアンリ。
年を経てもますます輝くような美貌を誇るディアーヌ。
その一方、カトリーヌからは愛らしく利発は少女の面影は薄れてゆいました。
立て続けに子を産み、老け込み、王妃は肥満してしまう。
カトリーヌは、ぎょろついた目を光らせる、陰謀家としての一面を強めてゆくのでした。
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