芸術家には変わった人が多いと言われます。
常人とは変わった思考を持っているからこそ、すばらしい作品を生み出せるのでしょう。
しかし、それが作品から飛び出て現実の行動にまで表れてしまうと、「ハァ?」みたいな反応をされてしまうのもまた事実でして……。
1890年(明治二十三年)9月15日、ミステリー作家として有名なアガサ・クリスティが誕生しました。
この人の名前を知らなくても、エルキュール・ポアロやミス・マープルなど、彼女が生み出した探偵の名前をご存知の方は多いでしょう。
個人的にはパーカー・パイン氏が好きです。イイ性格で。
あるいは彼女の作品『そして誰もいなくなった』や『アクロイド殺し』などのトリックに
「そういうことかああああああ!」
衝撃を受けた人も少なくないでしょう。
よくあのような仕組みを思いつくものですが、もしかしたら、それはアガサ自身の生い立ちが大きく関係していたのかもしれません。
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母親の意味不明な方針で七歳まで読み書きできず
アガサはイギリスのそこそこいい家に生まれ、小さい頃は少し変わった教育を受けていました。
母親がなぜか
「七歳までは文字を書けないほうがいい」
と思い込み、ずっと読み書きを教えてもらえなかったのです。
当然のことながら幼稚園や学校には通っておらず、七歳を過ぎてもなかなか読み書きを覚えられなかったようで、しばらく難儀。
そのうち父親が不憫に思ったらしく、手紙を書かせたり本を読ませたりして、ようやく人並みになったといいます。
ずっと学校に通わなかったため、性格はどんどん内気になってしまいました。
使用人たちと遊んでいたらしいので、人見知りするタイプではなかったようですが……。
それでも後年「幸せな子供時代だった」と言っているので、本人としては満足だったのかもしれません。
11歳のときに父が亡くなり、女学校で教養を身につけた後、大きな出会いがアガサに訪れました。
母親を療養させるため、エジプトへ行くことになったのです。
「なんで砂漠だらけの国で療養?」と思われるかもしれませんが、当時のイギリスにとってエジプトは「暖かくて保養に良い」とされていたようです。
ということは富裕層がバカンスに訪れることも多いわけで、年頃になったアガサのお婿さん探しにも最適というわけでした。
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トルコやイラクにはじまり中国、日本まで
しかし、ここで彼女得た出会いは、異性ではありませんでした。
アジアや中東地域への関心を持つようになったのです。
ちょうどエジプト行きの少し前から小説を書くようになっていたアガサには、イギリスやフランスとは全く違う風土や人々、文物が大きな刺激になったようです。
すぐには魅力がわからなかったものの、その後アガサは一人でイスタンブールやバグダードといった中近東の都市へ出かけるようになり、作品にも度々このあたりの文物が出てきます。
その延長なのか、日本や中国に関する単語もいくつか出てきていますね。
さすがに東アジアまで実際に来たことはありませんが。
また、第一次世界大戦中に薬剤師の助手として働いていたとき、毒薬について知る機会があり、これも作品中に活かされていくことになります。
ミステリー作家として本格的にデビューしたのはその後のこと。
有名になったのはさらに数年後、『アクロイド殺し』が話題になってからでした。
この作品のトリックがあまりにも斬新過ぎたため、ミステリーファンの間で「そんなのずるいだろ!」「いやいや、今までなかっただけでこういうのもアリじゃん」といった大論争が起きたのです。
新しいトリックを考えないと、ミステリー小説ってほとんど模倣品になっちゃいそうで、難しいところです。
36歳で謎の失踪! 母の死? 夫の浮気? 果たしてその原因は?
アガサ・クリスティにはミステリー作家ということの他に、もう一つ有名なことがあります。
ちょうど『アクロイド殺し』が発表されたのと同じ年、36歳のときに謎の失踪をしているのです。
原因は当時の夫の浮気とか、同年に母親を亡くしたからとか、色々と詮索されましたが、アガサ本人が真相を語らなかったため、今も詳細は不明のまま。
マスコミが事の経緯を聞き出そうとして、執拗にアガサへ取材を迫ったため、かえって真相を明かすのが嫌になってしまったのかもしれません。
また、一般の人々も
「これだけ世間を騒がせておいて謝りもしないのか」
「捜索したほうの身にもなってみろ」
といった罵詈雑言を浴びせたとか。
現代の日本でもこの手の話は度々ありますが、余計なお世話にも程がありますね。
そもそも見つかったばかりのアガサは記憶もはっきりせず、体調が優れない様子だったともいわれていますので、せめて回復まで待てと。
外国の作家で「缶詰執筆」ってあるんですかね
アガサが見つかったのはハロゲイトという温泉地のホテルでした。
失踪期間もわずか11日間ですから、本当は単純に、誰にも知られずに静かなところでゆっくりしたかっただけなのかもしれません。
作家+ホテルといえば締め切り間際の”缶詰”が連想されますけども、アガサはミステリーだけでなく恋愛小説や戯曲、自伝など、生涯で200作以上も書いていた人ですから、そんな状況ではなかったでしょう。
そもそも外国にこういう意味での「缶詰」ってあるんですかね。
この事件をきっかけとして、アガサは大のマスコミ嫌いになってしまうのですが、そりゃそうでしょうよ、と。
アガサはこの後離婚と再婚をします。
しかし、もしも新しい夫の他に、彼女を元気付けてくれるような人がたくさんいたら、真相を語るか、ドコかに書き残すくらいはしていたかもしれません。
このミステリーは、謎解きされないままそっとしておいても良い気がします。
長月 七紀・記
【参考】
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アガサ・クリスティ/wikipedia