マーシャの日記(清水 陽子 (翻訳) 新日本出版社)/amazonより

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マーシャの日記【リトアニアのアンネ・フランク】が綴ったもう一つの物語

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マーシャは前歯をたたき折られ、持ち物検査では父の写真を破り捨てられてしまいます。
そのあと、シュトラスデンホーフ強制収容所へ送られたのでした。

「囚人No.5007」
それが、マーシャを示す番号でした。

マーシャは重たい石を載せたトロッコを押す仕事や、工場での仕事をさせられます。
そんな中でも、すり減った鉛筆をなんとか手に入れ、この壮絶な経験を書き留めるのでした。

 

収容所を転々とさせられ

戦線の状況が変わる中、収容所にもその波が押し寄せました。
脱走者が出始めたのです。

数人の集団が、あるときごっそりいなくなる。そんなことが続くようになりました。
あれほど威張っていたナチスの看守たちも、この状況に焦りを感じ始めているのが、マーシャにもわかりました。

そんな中、シュトラスデンホーフ強制収容所も「撤退」することになります。
撤退といっても、素直に喜べません。ナチスが去り際に収容者を殺さない、などと、どうして断言できましょうか。

死ぬかもしれない——まさに悪夢の中にいるような、マーシャ。
恐怖に震えながら移送されたのは、シュトットホーフ収容所でした。
今度は「囚人No. 60821」。
以前の収容所より、さらに劣悪な環境でした。

シュトゥットホーフ強制収容所のゲート/Wikipediaより引用

そこではまるで奴隷のように「どれだけの労働に耐えられるか」を選別され、フランス人雇い主の元へ送られます。

僅かな食事だけを与えられ、厳しい農作業に従事する日々。
主人のフランス人も、ドイツ人同様マーシャに親切にするわけではありません。
それでも収容所よりはまだマシな生活を送ることができました。

収穫を終えて、秋が来ました。
三ヶ月という期限付きの労働であったため、マーシャたちは収容所に戻されることになりました。
マーシャの耳には、収容所に戻るのを拒んだ若い女性が首を吊った、という不穏な噂も入ってきます。

収容所へ戻ったマーシャを待っていたのは、伝染病の流行と冬の寒さでした。
病に倒れ、マーシャは死の淵を彷徨います。
せっかくここまで生き永らえたのに、なぜ、神様はそんな酷い仕打ちを……。

 

1945年、そして解放へ

1945年。
ナチスドイツは敗退を重ね、戦線が収容所に近づいてきました。
囚人たちは追い立てられ、ノロノロと移動させられることとなるのです。

護送兵に追い立てられる中、なんとか移動してゆくマーシャたち。
周囲では囚人がバタバタと倒れてゆきます。
爆発音や戦争の気配も、移動する彼女らに迫ってきました

マーシャは移動中、溝の中に転落しました。ナチスドイツ兵にロシアのスパイと間違われ、射殺すらされかけました。
しかし、運命はマーシャを見捨てていませんでした。

ドイツ兵は突然逃げ去ってゆきます。
そして、誰かがマーシャの痩せこけた体を起こし、涙を拭ったのです。

「泣かないで、娘さん、もう二度とこんなひどい目には遭わせませんよ!」

amazonより

力強い声で苦境から救い出してくれた兵士の帽子には、赤い星が光っていました。
ソ連の赤軍兵士です。
長いこと、彼女はこのときを待っていました。

それはヒトラーが自殺する一ヶ月前。1945年3月のことでした。

マーシャは18才になっていました。

 

ホロコーストの小説を書き続ける

その後、マリヤ・ロルニカイテとして、作家になります。
そして語り部の役割を果たすため、リトアニアのホロコーストをテーマにした小説を書き、発表し続けました。

マーシャの日記の価値は、決してアンネ・フランクに劣るわけではありません。
ではなぜ、彼女の知名度が低いのか?

それは冷戦が関係しているのでありましょう。
東側、ソ連の作家であった彼女が日本で受け入れられるようになるには、あまりに意識の壁も高かった。
そんな政治的事情もあって、マーシャのことはあまり知られていません。

しかし、その迫真の筆致は一読に値すると言えます。
「絶対にこのことを書いて伝える」
13才の少女がそう決意し、18才で解放されるまで記憶し、書き綴ったこと。
まさに奇跡のような日記です。

リトアニアのアンネことマーシャ。
彼女の残した壮絶な体験を、是非一人でも多くの方にお読みいただければと思います。

なお、戦争を描いた少女たちの記録は他にもあります。
以下は『レーナの日記』に注目した記事です。よろしければ併せてご覧ください。

100万人死んだレニングラード包囲戦~少女『レーナの日記』が凄絶すぎる

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文:小檜山青

【参考】
『マーシャの日記―ホロコーストを生きのびた少女』(→amazon

 



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