ちょっとくせのある本作のサブタイトルには、元ネタがあるそうです。
◆【直虎】実はゆるくないサブタイトル 映画や小説をモチーフに(→link)
そんなわけで今週は検地がやってきたヤァ!ヤァ!ヤァ!というわけですが。
井伊家の面々は当然楽しくはありません。
ただし、番宣の「今川の魔の手が迫る!」というのは言い過ぎではないかと。
今川側としては脱税をしていないか調べに来るわけで、いわば税務監査です。確かにうっとうしく憎たらしいものではありますが、魔の手は言い過ぎではないでしょうか。
そんな今週の始まりです。
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直親の帰参と引き換えに検地(税金徴収)のやり直し!
自ら選んだ道とはいえ、井伊直親と結ばれる道を断った次郎(井伊直虎)は複雑な気分です。
直親とその新妻・しのが笛と鼓を合奏する音を聞き、かつて直親を待ちながら鼓をうった幼き日を思い出す次郎。
しかし自分自身の存在が、しのにとっても棘になることを次郎は気づいていないのでした。
目付である小野政次と新野左馬助は、直親の帰参と詳細の家督を相続することを、駿府の今川義元へと報告しに行きます。
義元は直親が還俗した次郎と結婚するつもりか確認し、そうではなく奥山の女(むすめ)と結婚したと聞き安心したようです。
今川義元は直親帰参を咎めはしなかったものの、検地をし直したいと言い出します。
井伊谷に戻った政次と左馬助がそのことを報告すると、井伊直平がまた文句。
今川が甘いなら次郎の還俗も持ち出せばよかったのに、とだだをこねているとしかいいようのないクレームの付け方です。
さらに検地に激怒し、自らが治めている川名に立ち寄ったら血の雨が降るぞ、と脅し文句を吐いてその場を去ってゆきます。
税務監査が嫌だと言い張る人は、後ろ暗いところがあるものです。実は直平の治めている川名には、隠し里があるため、検地に抵抗を示しているのでした。
直親は隠し里を見に行くことにします。
このとき直親は隠し里の存在に驚いていますが、そんな場所があったからこそ、直平は先週次郎を死んだことにして、そこに隠す策を出したのでしょう。
直親は直平の案内で、隠し里を見に行くことにします。馬も入れないその場所は、なかなか見事な棚田が広がっていました。
この場所は井伊家にとっては緊急避難先であり、直平はただ単に賦役を課させるのが嫌だったわけではないのでした。
だからといって今川は看過できません。脱税といざという時の避難先なんて、絶対に探りたいところでしょう。
脱税のための接待材料を探させるが……
井伊家の皆は「指出」(土地の広さや収穫高を記した書類)の作成の大忙しです。
そんな中、直親は隠し里を隠し通すために策をめぐらせ、対処することを直盛に申し出ます。
直親にとってはこのまま隠し里が判明してしまっては、自分の帰参のせいになるという負い目があります。張り切って出かけてゆく直親の背を、新妻のしのは複雑な思いで見送るのでした。
しのが複雑な顔をしているもの当然です。
直親はよりによって次郎を頼っていたのです。直親は、次郎を使って、瀬名から検地役を丸めこむための情報を得ようとしています。
身も蓋もない言い方をしますと、脱税のための接待材料が欲しいわけです。そんな策でよいのかとちょっと心配になってきました。
しのは夫が、夫が深く愛した初恋の人に会っていたことに、不安を抱いています。
これがもし瀬名なら怒りのあまり平手打ちくらいするかもしれませんし、昨年の春ならば襖の穴を開けているところですが、奥ゆかしいしのは違います。
本音を言わず、健気な態度を見せるだけです。
直親の鈍感さが何とも歯がゆいですね。
まさか昨年の信繁が見せ付けた「女性への鈍感対応」を上回る男が、こんなに早々と出てくるとは思いませんでしたよ。
天真爛漫な直親は心の機微に気づかない!?
直親は川名に通い、隠蔽工作にいそしみます。
小野政次は検地においてもフル回転で働いています。
露骨に誤魔化そうとする中野直由相手に「誤魔化してバレたら余計まずいことになりますよ」と正論を述べても、相手は改心するどころか「今川に尻尾を振りやがって!」と悪態をつく始末。
目付というのは辛いものですね、と弟の玄蕃がフォローを入れますが、見ているこちらまで胃が痛くなりそうな場面です。
直親は、瀬名(築山殿)からの書状が届いたのかと、また次郎に会いに行きます。
次郎はもし政次が隠し里のことを今川に報告したら全部無に帰すのではないかという懸念を、直親に告げます。
直親は、政次は俺と同じ気持ちだから大丈夫、と言います。さらに「甘いかな?」と次郎に聞きます。
はい、大甘でしょう。
この甘さが将来的に彼の命取りになる気がします。甘い男にシビアな女、本作の特徴的な対比です。
直親の尋ね方も何か人を不快にさせるものを持っています。こういう相手に否定させないで尋ねるやり方が、人の気持ちを試し、弄んでいるように思えるのです。
しかし直親は性格的にわざとそんなことはしていないと思います。全ては天然です。
気づかぬうちに人を不快にしてしまう人物といえば、昨年の石田三成もそうです。
三成と直親の差は、人当たりのよさです。三成は見るからに傲慢で無愛想ですが、直親は一見さわやかで人当たりがよいのです。
こういう相手への怒りというのは、相手が敏感ではないと気づかないものです。
そしてここで考えたいのが、直親へ最も不満を募らせる存在である政次です。
直親とは対称的に、中身は誠実でも外から見れば陰性、しかも今川に近い彼が抱く直親への不満を、誰がまともに取り合うでしょうか。
鶴亀コンビに亀裂が入る日はもうすぐそこまで迫っているのではないでしょうか。
直親の策がガバガバ過ぎて、政次の心をガリガリ削る
直親は政次の元に向かうと、川名の指出を提出します。その内容は、なんと隠し里は白紙提出するというものでした。
そしてさらに、はい、ストレートに「俺が信じるからお前も俺を信じろ」作戦に出ました。
直親得意の、相手の良心に訴えかけて退路を防いでおきながら、相手に自分が選ばせたい答えへと誘導する作戦です。
政次が今川に報告したらお前の良心は痛むだろうけど、どうするんだと試しているわけです。
見ていて辛くなってきました。
検地なんてたいしたことないかと思っていましたが直親の策がガバガバ過ぎて、しかも政次の精神をガリガリと音がしそうなほど大胆に削っていて、ものすごくスリリングです。
これが本作の持ち味か!
直親が帰ったあと、呆然とする政次。気遣う玄蕃に対して、怒りをぶちまけます。
政次の気持ちはよくわかります。完全に直親は、政次を試していますし、幼なじみという立場に乗っかって無茶ぶりをさせているわけです。
政次の魂がどんどんと濁ってゆくパターンです。
かくして政次は今川家への指出をまとめて、直親に提出します。
直親は隠し里の分は政次が破棄したと知って満足げです。彼には政次の心がきしむ音など聞こえないのです。
井伊家の井戸に、政次が祈りにやって来て、次郎とでくわします。俺の思うようことが運ぶように、願う政次の姿に、次郎は胸騒ぎを覚えるのでした。
今川検分役の岩松は堅物で賄賂なんか通じない
かくして今川家から検分役の岩松がやって来ます。
アバウトなところがまったくなさそうな岩松は、縄で土地を採寸して数値を確認します。これはごまかしが利きそうもありません。
直親や直盛は、酒を飲ませて岩松をもてなそうとしますが、岩松は断ります。これで成功するとは思えなかった接待作戦も失敗に終わりました。
取り付く島もない岩松に、直親は悩み、そしてまた次郎の元へと出かけてゆきます。
次郎は井戸の前にいました。次郎の元に瀬名からまだ書状が来ていないと知った直親は、動揺を見せます。
次郎は、政次の「俺の思うよううまくことが運ぶように」と願っていたことがひっかかる懸念を口にします。
しかし思い過ごしだと打ち消すのでした。
それでも次郎の不安は消えません。次郎は政次の屋敷に赴き、どうか直親を裏切らないで欲しいと頭を下げます。
亀に言われてきたのかとむっとする政次に、次郎はそうではないと言います。
政次は「そこまで覚悟するなら還俗して俺の妻になる気はあるのか?」と言い返します。
政次は今まで直親のせいでチャンスを逃してきた、これ以上そうなるのは御免だ、覚悟がないなら寺で教でも読んでおれ、と次郎を突き放すのでした。
政次は強がって憎まれ役を演じていますが、相当辛いと思います。
次郎は一晩明けても政次の屋敷にいます。
そこへ南渓和尚がやって来て、やっと届いた瀬名からの書状を手渡します。それを見た次郎は馬にまたがり川名へと急行。
さらにそれを見たしのは、己の無力さを思い知ったのか、泣き出すのでした。
瀬名の書状によれば、岩松は堅物で一切の賄賂が通じないタイプ。
しかし松平竹千代と馬が合うようで、竹千代が言うには岩松は数、算術、亡くなった妻が好きなのだそうです。
これが一昨年ならば岩松が好きな菓子について書かれていて、それをヒロインが作り食べさせて解決するところですが、今年はそうはなりません。
女性主人公という雑なくくりで一昨年と今年を無理矢理同じカテゴリに入れようとするニュース記事も見かけましたが、そう話は単純ではありません。
川名では、あっさりと岩松に隠し里が見つかりました。
直親が頑張ってしたという隠蔽工作は入り口を隠して丸太を置いたくらいでした。
うん、これは直親の襟首をつかんで本当にやる気があったのか、と言いたくなる流れ。
昨年の真田屋敷のからくりを思い出して、改めて腹が立ってきました。何故、もっと本気で隠蔽しなかったのか!
岩松はあっさりと突破し、隠し里を発見しました。
直親……お前の本気はこの程度なのか!
政次は、直親から無理難題のビーンボールをブン投げられ……
はたして隠し里はあっさりと見つかりました。
「これは井伊の里ではないのか? まさか我等をたばかろうとしたのではあるまいな!」と迫る岩松。
そこへ次郎もやって来ます。
直親は「この里は井伊のものではありませぬ。それゆえ指出に入っていないのだと思います」と答えます。
「それでは誰の里だ?」と聞かれた直親は、「まだ帰参したばかりなのでよくわかりません。政次、お前ならわかるよな、井伊の里じゃないよな」と無理難題のボールをそのままブン投げます。
ひ、ひどい!
ブラック上司の無茶ぶりを思い出してうめいた勤め人が日本中にいたと思います。
いきなりボールを投げられたにも関わらず、焦りながらも政次は「ここは南朝の皇子がいた土地なので、井伊の里でありながらそうではないのです」という咄嗟の言い訳を思いつきます。
政次がフォローできなかったらどうするつもりだったんだ、直親!
ここでやっと一行は次郎に気づきます。
次郎は瀬名から今日が岩松の妻の月命日だから、供養のために読経したいと言い出します。
次郎が読経する美声にうっとりと聞き入り喜ぶ岩松。結果的に次郎はあまり活躍していませんが、彼女の立場なら検地への関与はこのあたりが限度でしょう。
こうしていきあたりばったりの直親の尻ぬぐいを政次が行い、なんとか隠し里は守られました。
直親はほとんど隠し里隠蔽に貢献していないと思います。それなのに直親は政次に感謝するどころか、「怒っているのか?」と聞くのだからとことん無神経です。
直親の試すような態度に政次がチクリと嫌味を返すと、「おとわが好きなら一緒に井伊を守ろう!」とまた無神経ぶりを発揮する直親。
政次は「お前のそういうところが好かぬ」と吐き捨てますが、私も彼に同意します。
直盛と千賀は、直親としのが次郎から離れた場所に引っ越すように言い出します。
直親は「別に次郎とはなんともない」とまた鈍感さを発揮しますが、千賀はたとえ男女の仲でなくても精神的な絆があるでしょう、と言います。
ここで直盛が「早く子を作ってしのと絆を作れ」とフォローし、その場をおさめるのでした。
それにしても直親、どこまで鈍感なのでしょうか。直親の株が底値を更新し続けています……。
このあと、小野家と井伊家の仲を結ぶため、しのの妹が小野玄蕃に嫁ぎます。
縁談はもうひとつあり、駿府では竹千代改め松平元信が、瀬名を娶ることになったのでした。
このぼんやりした男が今川と井伊の命運を握ることになるとナレーションが言いますが、昨年からの後遺症で「さらに真田の宿敵となり、乱世を終わらせるのであった」と続けたくなります。
瀬名は不満そうですが、彼女が生き延びていたら、阿茶局とともに乱世の終局を最高の立場で迎えていたのだと想像すると、切ない気持ちになるのでした。
MVP:小野政次
だんだんと目つきが荒んでいく高橋一生さんが素晴らしい。
そして荒んでしまう理由はよくわかります。
一生懸命今川と井伊の架け橋になろうと働いても「今川に尻尾を振りやがって」と言われるわ、直親は隠し里の弁解を押しつけてくるわ。
おまけに直親が「お前は俺が嫌いかもしれないけど、初恋のおとわのために頑張ろうよ」と神経を逆撫でしてさらに傷口に塩と辛子をすり込むような真似をしてきます。
政次は直親と拳で対話してもよいんじゃないかな、と個人的には思いましたね。
演技面でのハイライトは隠し里が発覚したとき、目を泳がせて不安げながらも平静を装い、南朝の皇子云々言い出したところですね。
昨年大河の策士どもはハハハと笑ったり、汗一つかかずにすっとぼけて嘘を平気で言いましたが、これが常人の反応です。
今年の大河は愛すべき常人たちの奮闘だと、改めて感じさせられました。
総評
二週連続井伊直親ネガティブキャンペーンでもしているんじゃないかと思うほど、先週に続いて直親がろくでもない奴でした。
今週の直親は、先週の愛ゆえの暴走行為ではなく、言い訳がしがたいほど無能なのです。これは辛い。フォローのしようがない!
あれだけ川名を隠すと言っていろいろ準備しておきながら、その策が検分役に酒を飲ませて接待すること、次郎に頼んだ瀬名の書状、隠し里の入り口に丸太を置くことってどういうことですか!
まあ、先週の策の中身が「次郎偽装自殺」というものだったことを考えればそんなものかもしれません。
そしてこの先がよくない。隠し里が見つかったらボールを小野政次にブン投げるとは。
政次が適当な言い訳を思いつかなかったらどうするつもりでしょうか。
しかしそんな本作が救われるのが、別段直親を有能だという前提にしていないところです。
ものすごい軍師や切れ者設定でこんな行動を取っていたらどうしようもありませんが、本作の場合「これが『信長の野望』だと平均智謀50台の世界……」と納得できてしまいます。
ある意味国衆のリアルでしょう。井伊家の頼りなさに脂汗をかきながら、それなりにハラハラできるのが本作の持つ魅力なんだと思います。
直親ってだんたん直平に性格が似てきているんですよね。
直平も若い頃、直親のような爽やかイケメンだったのかもしれません。そうやって振り回してそのまま歳をとりああなったのでしょう。
直親の曾祖父・直平ゆずりの天然トラブルメーカーぶりは一応擁護できますが、どうしても許せない点があります。
直親、しのさんを泣かせるな!
貫地谷しほりさんが哀しそうにしているとそれだけで胸を抉られるような辛さがあるんですよねえ。
よくも悪くも直親が物語を引っかき回しているのは確かです。
トラブルメーカーは物語を面白くするスパイスです。
直平も直親もいい加減にしろとは思いますが、彼らが物語を動かすエンジンであることは否定できないんですよね。
来週はいよいよ、今川義元と織田信長による歴史的転換点へと踏み込んでいく場面。
このじれったくて奇妙な物語を、来週も噛みしめたいと思います。
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著:武者震之助
絵:霜月けい
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【参考】
おんな城主直虎感想あらすじ
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link)