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『周―理想化された古代王朝』佐藤信弥 注目度高まる古代中国の実態とは?

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「今の若者はなっとらん! 昔はもっと礼儀正しかった!」
という言葉は昔からあると言われています。古代エジプトでも、古代ギリシアでも、同じような嘆きがあったともよく言われる話です。

この程度の愚痴ならばまだわかりますが、
「今の人たちまったくなっていません。昔はもっと礼儀正しかったんです。見せてあげましょう、本当の昔の理想とやらを」
とまで言う人がいたら、私は胡散臭さを感じてしまいます。

それでも「昔の理想を取り戻すなんて素晴らしい! 是非教えてください」と乗り気になる方は古来多いようです。
現代に限った話じゃありません。何世紀も前の話です。

「本当の昔の理想」を思想にまで高め、現代に至るまで残した人がいます。

孔子です。

周公を崇め、夢に出てこなくなると「もう俺駄目かもしれない、周公が最近全然夢に出てこないんだもん」とスピリチャルなことを口走っていた孔子。
彼の広めた儒教とは、「重度の周オタク・孔子がレクチャーする理想の王朝・周しぐさ」と言えなくもありません。なんだか酷いまとめ方ですけれども。

では、そもそもその孔子や昔の人が理想とした「周」ってどんな時代だったのでしょう?
そのことを解明したのが本書です。

 

エピソードが大量にある、文物も出土する――されど実態不明な「周」

周には何があったのかということは、実のところ知る物語はたくさんあります。

西周滅亡を描く『封神演義』、宮城谷昌光の小説でもあつかわれる東周(春秋時代)の英雄偉人たち、そしてバラバラだった国々が始皇帝の秦によって統一されてゆく原泰久の漫画『キングダム』。「周ってぴんとこなかったけど、その物語なら読んだことがある!」となる人も多いのでは……。

こうした物語だけではなく、青銅器等も発掘されているわけで、それならば周のことは今更言うまでもなくまとまってあるのではないかと思うかもしれませんが、話はそう簡単ではありません。
あまりに面白い物語があふれ、後世の人間が「俺の考えた理想、最強の周」をあふれさせてしまったため、かえって実態がわからなくなってしまったわけです。現在進行形で当時にあったとは思えないほど派手なメイクと衣装の『封神演義』はドラマや映画が制作されています。

 

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継承過程で魔改造される「周」の理想

本書の価値は、わかっていたようで実は実態がわからない周の出来事を、史料をもとにして時系列まとめたことにあります。それだけではなく、後世いかにして周が継承され、その過程で利用され変化していったかがわかります。

はじめに周を理想化したのは、各王国の諸侯でした。
自分たちこそ天命を受けて世界を統治する、正統な周の後継者であるとアピールしだします。自分たちこそが西周以来の制度や儀式を維持しているのだというアピールは、青銅器や儀式を通じて行われてゆきます。

さらに時代がくだると、儒家が登場します。
彼らはさらに細かく、理想の周としてのマナーを確立していきます。ところがこれをよくよく調べてみると、どういう根拠なのか、本当に周以来のものなのかわからないものが含まれています。

例えば、儒教では親の服喪期間は三年間とされていました。三年間も政務に穴を開けるとなると非効率で、後世になると短縮するものも出てきます。
そうすると政敵から「あいつは親の喪にも服さない、孝の精神が欠けたとんでもない奴だ。そんな奴に政治を任せるなんてとんでもない!」と攻撃材料にするわけです。それでは何故三年間なのか、周にその根拠があるのかと後世の人間が調べてみると、儒家が定めたものであり周とは関係ないようだと判明します。

つまり「俺の考えた最強の周儀礼」を儒家が勝手に決めただけです。そんなことでいいのか、と思わず儒家に突っ込みたくなります。
意図的に俺流カスタマイズをしようとしたわけでもないのに読み間違う、写し間違う、伝言ゲームのようになって、だんだんと周の儀礼が変化していった場合もあります。

 

「俺は現代の坂本龍馬!」って自称する奴、痛いよね

周の理想がだんだんと変わっていくのはまだよい、仕方ないとして、悪用する人間が出てくるとなると困ったことになります。
中国統一をはたした秦のあと、前漢末期に登場した王莽です。

娘が平帝の皇后となったことをきっかけに出世した「外戚」の王莽は、平帝の死後、孫を擁立し権力を握りました。
孫を補佐しつつ政務を行う自らを「周公」にたとえた王莽。権力を握りつつも玉座に座らない人物が自らを周公になぞらえるのは他にも例がありますが、王莽の場合はさらに周マニアぶりが暴走します。

王莽は周公が儀礼を行ったとされる建物を建設し、「俺の考えた最強の周の政治」を行います。この建物が実際の周のものとはまったく違うということを、本書は情け容赦なく突っ込み、検証しています。
王莽の理想先行政治は現実にまったくそぐわないもので、経済は破綻し、周辺の民族から農民まで反乱を起こします。

結局王莽のたてた王朝「新」は、たったの十五年で滅び、王莽自身も混乱の中で殺害されるのでした。我こそが理想の君主だ、周公の再来だと自称していた王莽は、稀代の姦臣として語り継がれていくことになるのでした。
「俺は現代の坂本龍馬!」と自称する奴って痛いのはなんでだろうと疑問に思っていましたが、王莽の生き方を見ていると、理由がわかる気がします。

周という時代は確かに存在しました。
けれども後世の人々が想像する理想の中の周は実物とはかけ離れているし、ましてやそんなものを悪用する奴がいたら要注意という、古代中国史を学ぶだけではなく、現代にも通じるような歴史の警告がわかる本書です。




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滅びた昔の理想をわざわざ引っ張りだして、自分の好きなように改造してふりかざすのは、今も昔もやめておくのが無難なようですね。

 





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