今回は、織田信長の生涯においては割とよくある【裏切られる話】です。
信長の庶兄・織田信広が、斎藤義龍に通じて謀反を計画。美濃勢と示し合わせて討ち取ろうとしました。
なぜ信広は謀反を企んだのか。
その理由について『信長公記』には記されておりませんので、人物像を推測しながら読み進めましょう。
清州城を乗っ取り信長を挟撃しよう
信広は庶子(側室の子)ではありますが、まがりなりにも前当主・織田信秀の長子。かつては最前線の城を任されておりました。
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それだけに信長が当主になってからは、
『この俺を差し置いて、なぜ家臣共に清洲や那古野の城を守らせているんだ!』
ぐらいのことは思っていたかもしれません。
他に「うつけ」と評判の弟だっただけに軽く見ていた可能性もありましょう。
斎藤義龍の美濃勢と手を組んだ信広は、次の内容のように示し合わせました。
「まずは美濃勢が川の近くまで出陣してくれ。
信長の出陣に合わせて私が兵を出すと、いつも清洲の町中を通る。
そのとき、清洲の留守を任されている佐脇藤右衛門という者が応対に出てくるので、彼が出てきたらその場で斬り、清州城を乗っ取ってしまおう。
うまく行ったら狼煙(のろし)を上げる。それを見たら美濃勢は直ちに川を渡ってほしい。
信長を挟み撃ちにして、始末をつけるのだ」
ナルホド、なかなか上手な作戦かもしれません。
しかし、こういう謀略には演技力も必要となります。
詳細は不明ながら、まず信長と対峙し、微妙な芝居を必要とされる美濃勢は殊の外ぎこちない動きとなってしまいました。
「城門を固く閉ざしてしまえ」
『何だアイツら? いつもより手ぬるいぞ……はは~ん、さてはウチの家中に内応者がいて、そいつが動くのを待っているのか?』
さすがと申しましょうか。
信長、敵の策略をアッサリ見抜きます。
そして以下のように家臣たちへ命じました。
「佐脇は今日は絶対に城を出るな。町人たちは城の外側を見回れ。
俺が出陣したら、城門を固く閉ざしてしまえ。俺が帰ってくるまで、誰も入れてはならない」
この時点で信長は「おそらく内応者は兄だろう」と思っていたんでしょう。
戦国時代だけに、日頃からその心構えは出来ていた可能性を感じます。
そうとは知らずに、信広は動員できる全ての兵を率いてやってきます。
しかし、いつもと違って頑なに入城を拒まれた上、佐脇すら出てこないので、謀反の失敗を悟ってそのまま引き返しました。
(´・ω・`)←こんな顔をしてたかも。
小競り合いの末、自ら降伏した
いつまでも狼煙が上がらないので、美濃勢も引き上げ、信長もまた帰還。
何も知らない兵たちからすれば「何をしてるんだこの人たちは」と思ったことでしょう。
信広はしばらく諦めきれなかったようで、信長と小競り合いを繰り返し、やがて自ら降伏しました。
信長も兄を許し、以降は一族の最年長者として信広は働くようになります。
後々お話しますが、信長の信広に対する評価は、
「外交を任せられる数少ない身内」
だったようです。
信長が京都入りを果たした後、信広は足利義昭をはじめとした室町幕府の人物との折衝を任されたり、公家の面々と親交を結んだりしていました。
「兄は話のできる奴」と思っていたからこそ、信長は許す気になったのかもしれませんね。
娘を養女にして家臣へ輿入れさせる
もちろん戦にも参加していて、元亀元年(1570年)の比叡山焼き討ちや、天正2年(1574年)の伊勢長島一向一揆との戦いには、信広の名が見えます。
生年は不明です。
天文17年(1548年)の小豆坂の戦いで先鋒を務めているため、1534年生まれの信長より8~10歳くらいは年上だったと思われます。だいたい、1520年代生まれと考えていいでしょう。
となると、当時の基準では老人の域に入っても、戦に出ていたことになりますね。
他には、信広の娘を信長の養女にして、丹羽長秀に嫁がせています。
長秀は信長が「友であり兄弟」とベタ褒めした家臣ですから、信広と互いに信頼し合うために、この縁組をしたのでしょうね。
しかし信長って、この頃から何度も身内に裏切られているんですよね。
人材不足のため一々斬り捨て出来ないにしても、残虐とか魔王とかのイメージとはまるで違いますね。
長月 七紀・記
※信長の生涯を一気にお読みになりたい方は以下のリンク先をご覧ください。
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◆信長公記
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【参考】
国史大辞典
『現代語訳 信長公記 (新人物文庫)』(→amazon link)
『信長研究の最前線 (歴史新書y 49)』(→amazon link)
『織田信長合戦全録―桶狭間から本能寺まで (中公新書)』(→amazon link)
『信長と消えた家臣たち』(→amazon link)
『織田信長家臣人名辞典』(→amazon link)
『戦国武将合戦事典』(→amazon link)