杉元佐一

漫画『ゴールデンカムイ』31巻/amazonより引用

ゴールデンカムイ

『ゴールデンカムイ』杉元佐一を徹底考察!真っ直ぐな生き様 そのルーツに迫る

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梅子の目を治すために

フラットで何にも縛られない杉元佐一には、金塊を探す動機づけとして梅子がいます。

故郷では、寅次と梅子という幼馴染三人組で日々を過ごしていた杉元。

梅子とは淡い相思相愛でした。杉元と駆け落ちすら願うものの、彼は応じません。

杉元が村を捨てたあと、彼女は寅次に嫁ぎます。寅次は、梅子が杉元に恋しているとわかっており、それが心の棘となっていたようです。

日露戦争】に出征した杉元は、寅次と戦います。その寅次は【奉天会戦】の激闘で杉元をかばい戦死しました。

梅子の眼病を治療するために、渡米することを考えていた寅次。そのことができなかったのが、彼の心残りです。

杉元は寅次の指の骨を持ち、故郷に戻ります。

視力が衰えていた梅子は杉元だとはっきりとは判別できません。

彼の臭いからそうだろうか……?とは思ったものの、恐ろしい戦場で身につけた血生臭さを察し、怯えてしまいました。

このとき、杉元はもう戻れないほど己が変貌したと悟ったのです。

せめて梅子の目を治したい――親友の願いを受け継いだ杉元は、砂金採掘のため北海道へやってきました。

そんな彼が、網走監獄にいる「のっぺら坊」という囚人が隠した金塊の話を聞く。そのありかを示す刺青人皮の話を知り、金塊探しに身を投じる……。

梅子は古典的な女性といえます。

個性があまり感じられず、杉元の動機付けとして出てきた都合のいい存在にも思えてしまう。

存在感も薄く、杉元自身もそこまで思い出しているわけではありません。

梅子は杉元にとって故郷を擬人化したような存在かもしれません。杉元の好物は干し柿です。柿の木は本州ではどこにでもあり、それを干したものは庶民にとって気軽な軽食でした。

ところが北海道には柿の木がない。いわば杉元にとっては故郷の象徴のように思えます。

この好物には、のちに「塩をかけた脳みそ」も追加されます。本州の和人ならば思いつかない好物が加わったのです。

杉元は金塊探しに奔走するうちに、北海道そのものに惹かれてゆき、馴染んでゆく様がわかってきます。

そもそも杉元が金塊探しに興味を失ってしまったら、物語は終わってしまいます。そうならず、アシㇼパのために戦うようになり、樺太まで彼女を奪還するために向かう。

金塊探しが終わったあとで、杉元の動機とは結局何だったのか?が明らかになります。

梅子は眼病が回復し、再婚し、妊娠していました。嫁ぎ先では幸せに暮らしているようで、花屋の店先に立っています。

杉元が無謀なことをして金を用意せずとも、彼女は目を治すことができ、新しい人生を歩んでいました。

寅次があまり正しくない治療法の情報を得ていたか。はたまた名医が見つかったのか。

詳細はわからないものの、ともかく杉元の知らぬところで、金塊探しの動機づけそのものが消えていたのでした。

では杉本の奮闘は無駄だったのでしょうか。それとも、そもそもの病状把握がおかしかったのか、純粋な医学の進歩か。

ともあれ、梅子は故郷を擬人化したような存在でした。

 

アシㇼパさんと「契約」を結ぶ

梅子の治療という動機は、ヒグマに襲われた杉元をアシㇼパが救うことで上書きされたようにも思えます。

杉元はカネ。

アシㇼパは金塊争奪の過程で死んだ父の仇討ち。

杉元は殺人を厭わない。

アシㇼパは殺人は嫌だ。

大まかな枠組みを決めて、このコンビは動き出します。

二人の旅は、金塊争奪戦で争うことになる土方陣営、第七師団の紹介とともに、ゆるやかに始まります。

刺青人皮入手という目的はあるものの、実はこの過程は曖昧です。

アニメや実写版ではカットされることも多く、実は刺青人皮の暗号は全て揃えなくても解けるのではないか?という疑念はつきまとうものでした。

アシㇼパの父・ウイルクと友人であったというキロランケが登場します。

キロランケは、網走監獄にいる「のっぺら坊」がウイルクであると言い出します。

一方、アシㇼパを知る謎めいた女・インカㇻマッは、ウイルクはキロランケにより殺され、「のっぺら坊」がその共犯者であると言います。

かくして網走監獄にたどりつき、「のっぺら坊」の正体を知るという目標が設定されます。

そして杉元たちが確認した「のっぺら坊」の正体は、ウイルクでした。

結果的に「のっぺら坊」はウイルクだったのです。

杉元はウイルクの口から金塊争奪戦にアシㇼパを巻き込んだ意図を聞かされました。

その直後、キロランケと尾形により、杉元とウイルクは撃たれてしまう。

ウイルクは死に、杉元は生き延びました。

そしてアシㇼパは、キロランケに連れ去られてしまう。

この折り返し地点である網走監獄で、杉元は目的が再設定されています。

・アシㇼパを取り戻す

・奪還したアシㇼパは、これ以上闘争に巻き込まない

・金塊を得たら、二百円を分け前として獲得する

かくして杉元は、いったん鶴見率いる第七師団と共闘し、樺太に向かうことになります。

キロランケと尾形を倒し、アシㇼパを奪還することでこの旅はいったん終わり、北海道へ戻るまでが「樺太編」になります。

この樺太編で、キロランケはアイヌの独立のために戦う意図をアシㇼパに教え込もうとします。

キロランケとウイルク、そしてロシア人のソフィアを紹介し、戦う意義を教えようとするのです。

杉元はこのキロランケが教えようとした意義からアシㇼパを引き離しつつ、金塊争奪戦を続行することになります。

ただし、この金塊争奪戦の終焉はあまりスッキリしないという疑問は原作終結時点で見られました。

これは鶴見たちにも言えることではあるのですが、杉元の目的において金塊争奪戦はそこまで重要でないとも思えます。

 

干し柿を食べても元には戻らないけれど

最終回で、梅子に金塊を渡しに来た杉元。

北海道にはない干し柿を頬張り、アシㇼパに感想を聞かれます。

かつて杉元は、アシㇼパの前で干し柿の話をしました。

日露戦争で殺し合い、傷をつけられ、傷をつけてしまった杉元に、干し柿を食べれば戻れるのか?

そうアシㇼパは問いかけ、杉元は静かに涙を流しました。杉元は梅子が自分のから死の臭いを嗅ぎ取ったことが心に刺さっていたのです。

最終回の杉元は、昔に戻らなくてよいとアシㇼパに告げます。

全部忘れず、背負ってゆくと。それに東京で食べるエビフライのような旨いものは、金がかかると。

でも、アシㇼパさんと一緒にいれば、金をかけずともうまいものが食べられる。

そんな照れ隠しのような伝え方で、杉元はアシㇼパに「故郷」へ帰ろうと言います。

家はなく、何にも縛られず、偏見もない――そんな杉元だからこその道といえました。

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