「主人公はじめ薩摩藩士が軟弱だ」
という指摘がしばしば挙げられました。
確かにそうでしょう。
ドラマにおける彼らの行動は、薩摩藩士とはむしろ真逆の行動をしていました。
・本来ならば男尊女卑思想が厳しい薩摩藩士のはずが、女性である岩山糸とつるみ、はては女装までする西郷
とまぁ、薩摩藩士が得意とする薬丸自顕流もほとんど出てきませんし、猛烈な郷中教育の様子もさほどありませんでした。
描写がぬるいと言われても致し方ありません。
ただ、それだけが原因とも言い切れぬ部分があるんではないか?とも感じました。
『西郷どん』以外の近年のフィクションで描かれる薩摩出身者は、異常なまでに強烈、人間離れした描写をされているのです。
そのギャップから、
「こんな大人しい薩摩は、薩摩じゃない!」
という印象が生まれてしまうかもしれません。
なんせ最近では漫画『3月のライオン』鹿児島編や『ポプピピテック』でもパワーあふれる薩摩描写が出てくるほどです。
そこで考えてみたい。
『実際の薩摩隼人たちは、フィクションで描かれるほどパワーに溢れていたのか?』
最近人気の作品から、史実と照らし合わせて検証したいと思います。
【表紙】
『ドリフターズ1巻』(→amazon)
『ゴールデンカムイ29巻』(→amazon)
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『ドリフターズ』の島津豊久
『関ヶ原の戦い』における島津の退き口において、壮絶な戦死を遂げた島津豊久。
ところが本作では、命を落としたと思われる瞬間、異世界にワープしてしまいます。
異世界にいても薩摩隼人らしい剽悍さで、敵と渡り合います。
◆人生はっぱ隊。薩摩が生んだ殺人マッシーン。薩人マシーン。(作者談)
→ 戦国時代の薩摩武士ならば、妥当なところではないでしょうか。首は誰でも欲しかっただろうし
◆妖怪に首おいてけと呼ばれるほどすぐ首を求める「大将首だ!!大将首だろう!? なあ 大将首だろうおまえ 首置いてけ!! なあ!!!」
→戦国時代の薩摩武士ならば、妥当なところではないでしょうか。首は誰でも欲しかっただろうし
◆牛馬を食べる
→獣肉を食べたがらない織田信長に対して、豊久は薩摩では肉を食べると説明します。これはその通りです。薩摩では、豚肉が【歩く野菜】と呼ばれたほど
◆犬肉を食べる「戦場でんえのころ飯ちうて 腹ば減ったら野犬をばひっつかまえ」
→これについては詳細を後述します
豊久のキャラクターは強烈そのものですが、戦国時代の薩摩武士と言うことを考慮すれば、ありではないかと思います。
だって島津は戦国最強だから。
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【アニメ:ドリフターズ公式サイト(→link)】
『ゴールデンカムイ』の鯉登少尉
主人公の敵である「第七師団歩兵第27聯隊」所属の新任少尉です。
優れた運動能力の持ち主である反面、軍人としてはやや注意力に欠けています。
◆自顕流の使い手
→妥当な設定です
◆興奮すると「猿叫」する
→「猿叫」とは自顕流の攻撃する際の声をこう呼びます。「チェスト!」と叫びながら攻撃するフィクションでの描写がありますが、あれは間違いです。
鯉登の場合は、攻撃動作以外でもやたらと猿叫しますが、それは薩摩隼人が一般的にそうなのではなく、彼自身の性格によるものです
◆興奮すると早口の薩摩弁になってしまい、周囲が聞き取れなくなる
→興奮して訛りがきつくなるのは、ただの彼の性格です。薩摩弁が難しいという点は、妥当な設定です
◆背が高い
→妥当な設定です。豚肉をよく食べていた薩摩藩士は、幕末の時点で長身揃いでした
個性の強いこの作品の登場人物の中で、彼も埋没しない性格を持っていますが、薩摩隼人であるからというよりも、個人の資質によるところが大きいといえます。
他作品の薩摩隼人と比べてややマイルドなのは、明治時代の人物ということもあるでしょう。
実は、彼は2019年大河ドラマ『いだてん』において生田斗真さんが演じる【三島弥彦】と以下の共通点があります(モデルではないと思いますが)。
・運動能力抜群でどの競技でもこなす
・背が高い
・親が薩摩出身
・実家がお金持ちのお坊ちゃま
・年齢
鯉登は軍人としては若干詰めの甘い性格です。
三島のようにアスリートになった方が向いているのかもしれません。
『衛府の七忍』の薩摩のぼっけもんたち
鬼才・山口貴由先生の豊かなイマジネーションが生み出した薩摩。
そのあまりに強烈な薩摩ぼっけもんの暴れぶりは、インターネットを中心に話題となりました。
人気漫画およびそのアニメ化作品である『ポプピピテック』の、
「チェスト竹書房ォ゛ーイ゛!!」
は、本作が元ネタです。
徳川家康がロボット超人である本作は、実在人物が飛躍した設定になっているため、史実について考証をする意味があまりない気がします。
が、一応やってみましょう。
「チェスト関ヶ原」とは、島津家の隠語で「ぶち殺せ」との意である→実は「チェスト関ヶ原」という言い回しはあります。
「チェストいけ 関ヶ原」という使い方で、島津義弘の「関ヶ原の退き口」を思い出して、頑張っていこうと鼓舞するニュアンスです。「妙円寺参り」で言われたりするようです。
当たり前ですが、本来「ぶち殺せ」という意味ではありません
「誤チェストにごわす」「またにごわすか」
→チェスト(いきなり相手に斬りかかりぶち殺す行為)して間違うこと。そもそもチェストはそんな意味じゃないです
「チェスト種子島!」
→刀ではなく種子島(銃器)で攻撃すること。そもそもチェストはそんな意味じゃないです
「それが薩摩だろう チェストとは“知恵捨て”と心得たり」
→薩摩ぼっけもんに感化された宮本武蔵の台詞。ちがう、チェストはそんな意味じゃない!
「臓物抜いて腹の中空にすっで 飯詰めて炊いて食ってにもし!」
→失敗を恥じて、切腹しようとした中馬大蔵の台詞。これから切腹するから、腹の中に米を詰めて炊いて食べてください、の意味。元ネタは「えのころ飯」と思われます。いや、そんな食べ方流石にしないから
ぼっけもん
→本作では「武家者」という字をあてて、バーサーカーのような薩摩武士をこう呼んでいますが、どうしてそうなった!
鹿児島弁では豪胆な者、向こう見ずな人を指します。
「木強漢(ぼっけもん)刀ん尖端で髭を剃っ」という薩摩狂句がありまして。
豪胆な薩摩の男性が、刀の切っ先で髭を剃っている様子を詠んだものです。このように、愛すべき豪胆な男性を指す言葉なんですってば
ひえもんとり
→本作における薩摩武士の処刑方法にして鍛錬。武器を携帯せず、褌のみを身にまとった若者たちが死刑囚に群がり、内臓を引き抜くこと(詳細後述)
数々の誇張されている薩摩武士の習慣。
まぁ、前述の通り、薩摩ネタでは現時点で頂点だとは思います。
漫画として大変面白いですし、是非お読みいただければと。
こうした強烈な薩摩描写。
流石に信じる人はいないと思うのですが……しかし、無から作り出されたわけではなく、一応元ネタはあります。
ここからは、こうした創作作品は史実として正しいのか、という検証です。
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