不死川実弥(鬼滅の刃・風柱)

『鬼滅の刃』17巻/amazonより引用

この歴史漫画が熱い!

不死川実弥と玄弥の兄弟が示す“男毒”からの解放~鬼滅の刃・風柱

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鬼にとっては罠となる稀血

実弥には【稀血】が流れています。

鬼にとって類まれなごちそうであり、そのために狙われてしまう。

災厄としか言えない、そんな【稀血】についてちょっと考えてみたいと思います。

日本では、さして知名度が高くないためか、指摘されているところを見かけませんが、実は似たような設定のフィクションがあります。

『トゥルー・ブラッド』です。

この作品のヒロインであるスーキーはフェアリー(妖精)の血を引いている設定。ただし血はかなり薄くなっていて、妖精としての能力は、心を読める程度しか特徴がありません。

しかし、吸血鬼にとっては人間の血よりもはるかに美味でたまらない、特別なものでした。

スーキーは恵まれない家庭の出身です。

しかもこの特殊な血のせいでむしろトラブルを抱えてしまい、仕事も選べない。レストランのウェイトレスくらいしかありません。

南部の貧しい女性労働者として生きていくだけでも楽じゃないのに、特殊な血液のせいで吸血鬼やその他特殊生物を惹きつけてしまい、次から次へと災厄に見舞われてしまいます。

その過程でスーキーは強くなるしかない。

そんなパンチの効いたドラマシリーズです。

自己流で対処法を学び、災厄を押しのけてゆくスーキーは、現代アメリカ性別逆転版・不死川実弥のようなたくましさがあります。

これまた鬼舞辻無惨のような吸血鬼もウロウロしているのですが、「なんだイケメン吸血鬼と恋愛するドラマかよ」なんて思っていると、血しぶきまみれになっている傑作。

吸血鬼の過去を通して人類史を振り返り、問題提起を図る点でも『鬼滅の刃』と共通する世界観があります。

個人的な話ではありますが、やっとこの作品を人に勧める契機ができ嬉しい限りです。

ちなみに完結から10年を経過していないのに、リブートもされる予定。海外では大ヒットしております。

話を実弥に戻しましょう。

◆ 「トゥルーブラッド」早くもリブート、HBOで企画中(→link

 


叩き上げの典型

エリートどころか災厄のもととなる【稀血】をもち、生まれ育った環境も劣悪。

そんな逆境にもめげずに、実弥は生き抜こうとします。

自分の血を餌にして捨て身で相手を倒す、そんな自己流でがむしゃらに戦い抜いてゆくのです。

結果、彼の戦闘力は柱でも上位と思われるほど際立ったものとなりました。

これも彼が生まれた時代らしい特色ともいえます。

その血統から鬼殺隊加入を望まれた霞柱・時透無一郎と対比するとわかりやすいでしょう。

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世界史的に見ると、江戸時代のあたりから中世が終わり、次の時代へと進んでゆきます。

ナポレオン戦争は、徴兵制度と身分を問わない士官登用の威力を証明しました。

一世紀前ならば下士官どまりであったものたちが元帥にまで上り詰め、大活躍を果たしたのです。

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そんなフランスと対峙したイギリスのような国でも、活躍した軍人層はアッパーミドル階級でした。

ナポレオンの野望を挫いたネルソン提督は、牧師の子であり、まさしくこの典型例です。

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いいから日本の歴史や風柱の説明しろよ!と言われそうですが、あと少しだけ堪えてつかぁさい。

この時代、世界史的に見ても

【人間の能力は、血統よりも本人の努力や資質にあり】

と人類は目覚めたのです。

近代という時代は、そうした叩き上げが道を開ける時代となりました。

会津の貧家に生まれながら、紙幣の顔にまでなった野口英世は時代のロールモデルともいえます。

野口より師匠である北里柴三郎の功績の方が上とも思えるのに、紙幣採用の順序が逆転したのはなぜか?

そこにはそうした理由もあるのでないでしょうか。

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鬼殺隊の柱の中で、この叩き上げ最大の体現者が不死川実弥といえます。

 


義勇とは対照的ながら相性は抜群?

知性も理性もないと思われるほど粗暴。家庭環境は劣悪。はじめから育手につくわけでもなく、自らの【稀血】で鬼をひきつけ、喧嘩殺法で血祭りにあげてきた不死川実弥。

こういう人物像は、フィクションではおなじみです。

軍隊を舞台にしたものですと、軍曹が典型例ですね。

士官学校は出ておらず、一般兵として戦い抜き、戦う場所に居場所を見出す――這い上がってきて、新兵を鍛え上げる。

“鬼軍曹”という言葉は、厳しいしごき役の代名詞です。

それも叩き上げということをふまえれば理解しやすくなることでしょう。

軍隊と似た制度の警察ものでは、ノンキャリア、略してノンキャリ。町の巡査からスタートし、警視長を超えては出世できません。

最終話で姿を見せる彼の子孫も、このノンキャリア警察官ですね。

学園ものでも、推薦入学でなく、実力でレギュラーを掴んだ選手などなど。

士官学校卒の将校、名門大学卒のキャリア、推薦入学のエリート。そういうキャラクターの対比として出てくる、オラオラした人物像――実弥はそういう系統に入ります。

産屋敷耀哉にいきなり失礼な態度を取って絡む。

そうかと思えば、序列や礼儀作法に正しい。

反逆心を胸に秘めつつ、組織の秩序を遵守しなければならないと思うからこそ厳格です。

空気は読めます。むしろそこは厳しく守ります。

そういう近代以降の叩き上げとしての風格と特色が、不死川実弥には宿っています。

ちなみに水柱である冨岡義勇は、彼とは対照的です。

鬼殺隊以前の家庭環境はそれなりに恵まれており、育ちがよさそうではある。

しかも実弥からすればエリート意識が漂い、鼻につくようなことをいう。

ただ不器用なだけですが、それが実弥には理解できません。

それゆえ相性が最悪なのは必然といえます。

ただ、このすっとぼけ知性派エリートと、腕っぷしが強く空気が読める叩き上げは、フィクションではゴールデンコンビにもなりえます。

ホームズとワトソンのようになってもおかしくない。

 

相性最悪のようで、最高かもしれない。

そのことは本編でも証明済ですね。

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