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ハルパゴス、面倒事を牛飼いに押し付ける
さて、王命を受けたはよいものの、ハルパゴスはすっかり困ってしまいました。
というのも、アステュアゲスは高齢なのに男児がいない。
となれば王位を受け継ぐのは王女マンダネとなろう。
いかにアステュアゲスの命令とはいえ、息子に直接手を下せば、マンダネが女王になった時に責めを負わされるのは目に見えている。
しかし、アステュアゲスはどうやら本気で、赤子を殺さなければ、自分が殺されるのはハルパゴスの方となる。
そこでハルパゴスは一計を案じた。
アステュアゲス王自身の部下に赤子を殺してもらえばよい。
ハルパゴスはアステュアゲスの牛飼いの一人を呼び出して、赤子の処分を命じた。
牛飼いは、赤子を抱いて悄然と家路についた。牛飼いには、明日にも子どもが生まれそうな妻がおり、それを心待ちにしていた。
ゆえに託された赤子を殺す気にはどうしてもなれなかった。
牛飼いが妻に事情を説明すると、彼女は牛飼いに泣いてすがって赤子を見捨てないでほしいと頼むではないか。
なんと彼女は、ちょうどその日におなかの子どもを死産させてしまっていたのだ。
夫が抱いていたその赤子は、生まれてくるはずだった自分の赤ちゃんの代わりに思えたのであろう。
牛飼いは妻の願いに応え、水子の死骸を山に捨て、ハルパゴスの部下に検分させた。
赤子の殺害を命じたことに後ろめたさを感じていたからか。
ハルパゴスは、牛飼いが王の息子とすり替えていたことに全く気付かなかった。
“王様ゲーム”で頭角を現したキュロス
“牛飼いの子”はスクスクと成長した。
誰にもその出生を知られることなく……。
しかし、10歳になったとき、ひょんなことからその素性が明らかになってしまう。
キッカケは、“王様ゲーム”である。
と言っても、現代のように「○番が△番にチューする!」みたいな破廉恥なゲームではない。
一人の王を選んでみんながそれに従う――おままごとを少し本格的にした遊びであり、当時の子どもたちの間で流行っていたものだ。
牛飼いの子はこの“王様ゲーム”で王に選ばれ、言うことを聞かない貴族の息子を鞭で打つという、迫真の演技を見事に演じきってしまった。
鞭打たれた貴族の息子は、アステュアゲスに言いつけた。
「王よ、あなたの牛飼いの息子からこのような狼藉を受けました」
子どもの喧嘩まで仲裁せねばならぬ王様も楽な商売じゃない。アステュアゲスは牛飼いの子を呼びつけ事情を聴いた。
「お前は賤しい身分の子どもなのに、わしの重臣の息子に狼藉を働いたのだな」
牛飼いの子は胸を張ってこう答えた。
「みんなはちゃんと僕の言いつけを守ったのに、こいつは守らなかった。みんなが僕が王に向いていると思い、僕を王に選んだのに」
10歳にしては堂々としている牛飼いの子を見て、アステュアゲスは感心する一方、不審に感じた。
なんだか顔に見覚えがある。
自分や、娘のマンダネの面影があるような……指折り数えれば、捨て子にした孫と年齢も一致するではないか?
すっかり気が動転したアステュアゲスは、牛飼いを呼びつけ、問い質した。
牛飼いは観念し、すべてを洗いざらい白状した。
「王よ、彼はあなたの孫、キュロス様です」
アステュアゲスは、真実を述べた牛飼いにはさして気を留めなかったが、任務を果たさなかったハルパゴスには怒りを覚えた。
しかし、面には表さず、ハルパゴスをねぎらってこう言った。
「わしもあの子に加えた仕打ちについては痛く悩んでおったし、また娘からも恨まれて心安らかでなかった。
幸い運よくかようなめでたい結末になったのであるから、お前の倅を、生きて帰ってきたあの子のところへよこしてやってはくれぬか。
また子どもを救ってくだされた神に、命拾いのお礼にお祭りを務めたいと思うから、わしのところへ食事に来てくれ」
――ヘロドトス『歴史』より
ハルパゴスは、内心肩の荷が下りた気持ちで王の晩餐に呼ばれたことだろう。
しかし、そこに生き地獄ともいうべき凄まじい仕打ちが待っていた。
肉料理をたらふく堪能した後、よろしければお代りはいかがですか、と差し出されたのは【自分の息子】の残りのパーツだったのだ。
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