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【高橋泥舟】
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将軍様のボディガード
慶応4年(1868年)。
鳥羽伏見の戦いに敗走した徳川慶喜が江戸に逃げ戻ると、泥舟も江戸城に駆けつけました。
実際は流れた血も多かった江戸城無血開城~助けられた慶喜だけはその後ぬくぬくと?
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江戸城は大騒ぎです。
泥舟が何とかして慶喜に面会しようとしても、それどころではありません。
慶喜の方でも泥舟に会いたくてたまらなかったのですが、混乱のあまり、二人が出会えたのは十日ほど待たねばならなかったのでした。
やっと出会った慶喜に、泥舟は恭順を薦めました。
断固として徹底抗戦を主張する幕臣・佐幕派も多い中、彼が違ったのは、心情的に尊皇攘夷に近かったこともあるのかもしれません。
慶喜からこの混乱において頼られている勝海舟は、その知能をフル回転させて窮地打開策を練っています。
そして勝は、駿府の西郷隆盛のもとに向かう使者として、泥舟を指名したのでした。
「それは絶対に許さない!」
強硬に反対したのは、慶喜です。
だから徳川慶喜を将軍にしたらヤバい! 父の暴走と共に過ごした幼少青年期
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「伊勢(伊勢守・高橋泥舟)よ、伊勢よ! お前が江戸から去ったらば、残された無謀な者が、何をするかわかったものではない。お前のような勇者がいるからこそ、ああいう者はおとなしくしているのだ。お前が行ってしまったら、誰がこの江戸をおさめるというのか! ああ、うらめしいのはお前が二人いないことだぞ」
慶喜は、泥舟の腕前と、断固として戦うと主張する者すら抑え込む胆力を、ともかく頼りにしていたのです。
なんせ慶喜の行動は、東軍を相手に敵前逃亡しただけでなく、味方の足を引っ張るも同然の行動だったので、幕臣たちが怒るのも無理はありません。
ここで立候補し、泥舟も太鼓判を押したのが山岡鉄舟でした。
【彼が代わりに行くなら問題ない】
ということで、山岡が、西郷のところへ向かうことになるのです。
どうにも影が薄い泥舟ですが、この慶喜の頼り方からして並の人物ではないでしょう。
しかし、当時の慶喜には、他に選択肢がなかったのも確かです。
鳥羽・伏見の戦いで敗れた後、戦場から遠ざかるようにトンズラ逃亡してきた慶喜のことを
このあとも、泥舟は慶喜の護衛役をつとめ、混乱の中で最後の将軍を守り抜いたのでした。
顔を担保に借金を
明治の世となってからの泥舟は、慶喜に従い一度は駿府に移りました。
その後、江戸に戻り、書画骨董のを楽しむ静かな余生を過ごすことになります。
そんな彼がピンチに陥ったのが、明治21年(1888年)山岡鉄舟の死後でした。
義兄であり、実家山岡家を継いだ鉄舟は、多額の借金を残していました。
さて、困った。
他ならぬ泥舟自身も貧しい暮らしを送っています。
金策に奔走する中、門人の一人が質屋を経営していることを思い出しました。
「1500円、貸してくれんか」
質屋の主人は驚きました。どう考えても抵当なんてないのです。
「抵当があれば貸します。何があるんですか?」
「この顔でござる。もちろん私は返済するつもりではありますが、死生とははかりがたいもの。もしもというときは、熨斗をつけて私にくださらんか」
主人は呆気にとられましたが、天下の高橋泥舟がまさか踏み倒すつもりもないだろう。
おもしろい方だと感心し、1500円を貸してくれたとか。
彼の人徳、勝が「馬鹿正直」と評価した性格がプラスに働いた、というところでしょうか。
槍一筋の生き方に爽快感
そして明治36年(1903年)。
山岡鉄舟の死から15年後、勝海舟の死から4年後に、泥舟も死去。
享年69。
勝海舟をして「あれほどの馬鹿正直は最近いない」と言わしめた高橋泥舟。
策謀が渦巻く幕末において「馬鹿正直」に生き抜いた、槍一筋の生き方は爽快感があります。
活躍自体は他の二舟より低く、一番影が薄いと言われたりもしますが、慶喜が「お前がいなければどうしようもない」と嘆いたほど武勇もカリスマもあった人物です。
彼もまた、一流の男であったのでしょう。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
歴史群像編集部『全国版 幕末維新人物事典』(→amazon)
安岡昭男『幕末維新大人名事典』(→amazon)
『国史大辞典』
他