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【白虎隊の生き残り・酒井峰治】
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飯沼貞吉と再会 自刃を知らされる
そして、そこには意外な人物がいました。はぐれたはずの日向内記隊長です。
「日向隊長ではないですか!」
「おお、酒井か。お前無事だったのか!」
「はい。篠田たちはどうしましたか?」
「何? お前、一緒じゃなかったのか」
いったい篠田たちはどこへ行ったのだろうか。
その答えは、熾烈な籠城戦を生き延びた後に、酒井は知ることになります。
開城後、生き延びた会津藩士たちは、謹慎のために猪苗代へ預けられました。そこで酒井は、あの時はぐれたうちの一人である飯沼貞吉と再会します。
やつれ、喉を突いた跡のある飯沼の姿に、仲間たちがショックを受けたことでしょう。
「飯沼、生きていたのか! あの後どうなった? 篠田たちはどうしたんだ」
戸ノ口原に出陣した白虎隊士のうち、生存者は彼らを含め22名いたと伝わります。
生存隊士らは、かつてともに戦った飯沼の口から、篠田たちの自刃について聞かされるのでした。
あのときはぐれた仲間たち二十人は、飯盛山で自刃。
飯沼だけが蘇生し、こうしてここにいるのだ、と。
酒井たちの胸に去来したのはどのような感情なのか、彼は書き残していません。
東京での謹慎を経て、明治になると、酒井は北海道旭川で暮らしました。
生前、彼は白虎隊のことを語らなかったと言います。
それが平成になって、酒井家の仏壇から彼の手記が発見され、ようやく酒井峰治の生き延びた状況が明らかになったのでした。
教の談:軽視などしていない 命と絶望とは紙一重
まだ若い命を、自刃というかたちで散らした白虎隊士たち。
その死を悼むため日本国民の間で回想されてきた悲劇は、そのうち別のカタチを帯びてゆきます。
軍国主義です。
若くとも主君のために自刃した白虎隊こそ、武士道の華である――。
「義は山嶽より重く死は鴻毛より軽しと心得よ」という軍国主義に合致したものとして、美化されていったのです。
美化されると同時に、軍国教育にも利用されました。
会津藩校である日新館での厳しい教育が、白虎隊士らに忠義の切腹をさせたのだろうとされています。
しかし、生存した酒井の行動を見ると、そうは思えません。
彼らの選んだ自害という道は、武士道というよりも極限状態で追い込まれたゆえの判断ではないか、と感じるのです。
悪天候、下がる気温と体温、睡眠不足、疲労、空腹、極度の緊張とストレス……こうした厳しすぎる要素が重なり合っていました。
彼らは洗脳されていたわけでも、命が軽いと思い込み、喜んで死んでいったわけでもありません。
ただただ、絶望していたのでしょう。
追い詰められ、絶望した者には他の道が見えなくなってしまう。そんな哀しいことは今でも起こりえます。
運が悪かった。その側面もあることを忘れてはなりません。
彼らがもし、腹を切る前に酒井や飯沼を助けたような親切な農夫に出会っていたら?
何か小さな希望がそこにあれば、結果は違っていたかもしれません。
彼らと途中まで行動をともにした酒井峰治は、生きることに必死でした。
火災や空腹に遭遇しながらも、伊藤と愛犬クマとともに懸命に城を目指しました。
一時は死の寸前まで追い詰められるものの、自害を止めた庄三の親切と勇気、伊藤又八という仲間との絆、道中でふれあった人々のあたたかさ、そして愛犬クマの健気な愛情に触れることで、彼は生命力を取り戻し、生き延びることができたのです。
酒井の行動に命を軽視するような素振りはなく、16才の少年なりの知恵と勇気で、生きるために奮闘しているのです。
自害した隊士と酒井との間に、大きな隔たりがあるとは思えません。
彼らは武士として忠義を尽くすことはたたき込まれていますが、その前に生き抜きたいと願うまだ若い少年たちでした。
もうひとつ気づかされるのは、農夫たちの態度です。
会津藩の町人が「武士を憎んでいた」というのは、一側面ということです。
確かに白虎隊士の遺体から金品を盗むような者もいました。
その一方で、酒井を匿った庄三のように、危険を冒してでも目の前の命を救う者もいました。
長いこと知られなかった酒井峰治の物語は、極限の状況下を生き延びようとする人々の姿をみせてくれます。
そこにあるのは美化されていなくても十分に人の心を打つ、己や誰かの命を守る為に力を尽くした人々、そして忠犬の姿でした。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考】
酒井峰治『戊辰戦争実歴談』(→link)
等