主人公の杉元佐一以下、敵として第七師団を認識している。
それが『ゴールデンカムイ』です。
読んでいくうちに当然という認識になるものですが、これがちょっと不思議なところがあるのです。
主人公名・杉元佐一は、作者である野田サトル先生の曽祖父から取られています。
しかし、彼は第七師団。
漫画の杉元は、元第一師団です。
なぜ、野田先生は自分の先祖の所属した師団を、悪役にしたのでしょうか。
北海道が舞台だから?
それはあるでしょう。
アイヌの土地収奪が背後にあるから?
それも、重要です。
しかし何よりも「第七師団独自の歴史がいろいろと関係している」のではないでしょうか。
ということで第七師団特有の、辛い境遇をちょっと見ていきましょう。
※鶴見中尉以下、大暴れだよッ!
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第七師団のルーツは「賊軍」であり「屯田兵」
第七師団、別名「北鎮部隊」。
華々しいようで、そのスタートは混乱続きでした。
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『ゴールデンカムイ』作中において、第七師団所属である人物も同様。
負け組子孫と推察される人物が多いものです。
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聡明かつ勇猛。
それでありながら、あの年齢でありながら、中尉程度でくすぶっている鶴見。
藩閥政治が影響する明治時代なれば、出自ゆえに出世が止まっていてもおかしくないのかもしれません。
性格に大問題があることは、この際横に置いておきましょう。
「武士の誇り」が悪用される
この北海道への移住も、なかなかいい加減なものです。
武力倒幕や戊辰戦争によるメリットや必要性が疑問視されていたのは当時からのこと。
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薩摩藩は恩義ある赤松小三郎を謀殺してまで、そこに踏み込みました。
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そうまでする理由として、考えられる動機はあります。
【徹底的に反抗勢力の芽を潰しておく】
実際、そうとしか思えないほど、戊辰戦争で戦地は荒れ果てました。
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その総仕上げが、屯田兵です。
武士の心理につけ込むような、えげつない追い詰め方が実行されました。
代表例が、東北随一の大藩であり、「奥羽越列藩同盟」の主導者であった仙台藩。
支藩に至るまで、次々に移住が決定していきます。
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その中で、たとえば「伊達市」は、元の藩名を残すほど、多大な貢献をしております。
大名夫人まで開拓に励んだ話は有名です。
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まぁ、そうやって振り返ることができるのも、成功あってのものですよね。
当時は移住がそんな簡単なワケもなく、どうなるのか明日は見えない状況。
そもそも蝦夷地とは、どんな場所なのか。
幕末混乱が収束に向かっていたからといって、そこまで把握できていた状況ではありません。
そんなところで田畑を耕しながら兵士をやるというのですから、無謀にもほどが在りました。しかし……。
こんな開拓の始まり方でよいものだろうか?
開拓を成し遂げてこそ、御家の名誉を回復できる!
そう信じ、船に揺られる開拓者たち。
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あの咸臨丸も、こうした人々を運んだものです。
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こう書くと、遠大な計画に思えますが、実はものすごくいい加減なものでした。
以下、理由を列挙して参りましょう。
◆北海道の知識がない!
松浦武四郎をはじめとして、蝦夷地探検家がいたものの、彼らよりも明治新政府のパワーバランス重視人事が行われてしまいました。
当時最も知識のあった松浦は、嫌気がさして即座に退官するという恐ろしさです。
◆パワーゲームが酷い!
松浦の退職理由でもあります。
佐賀と長州が藩閥政治で火花を散らし、開拓にまで悪影響を与えるというグダグダぶりでした。
◆根性論頼りだった!
そんな酷い状況の中、ともかく武士の忠義心だけに期待して移住したものですから、当然のことながら失敗する者も多いわけでして。失敗例を聴くと、尻込みする者も出てきます。
そういう人を理詰めで説得するのではなく、「それでも武士か!」と叱咤激励するパターンが定着しました。
◆そもそも農業に向いていたの?
北海道は火山が多い。
アイヌの伝承にも、噴火や火砕流のことが伝わっていました。
彼らが狩猟に生きてきた理由も、このあたりにあったのかもしれません。場所によりますが、農業に適していない土壌も多かったのです。
◆未知の大地は恐ろしかった
想像を絶する寒さ――それだけではありません。
ヒグマ、バッタ(蝗害)、干ばつ……未経験の惨劇が次から次へと襲いかかります。
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いくらなんでも、明治政府がえげつなさすぎると思いませんか?
そんな屯田兵を助けたのが、アイヌの知恵です。
アサリを入れた食事でもてなし、寒さを防ぐ住宅の工夫を教えてくれました。
和人がアイヌに恩恵を施したという認識がありますが、それは誤解です。
多くの屯田兵が、和人が、いかにアイヌの知恵で救われたことか。
そのことを思い出しましょう。
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※アイヌの知恵が和人を救ったのだ!
開拓だけでも大変なのに。
生きていくだけでも辛いのに。
彼らにはやることがありました。
彼らは「屯田兵」。
つまり、開拓をしながら軍事訓練をしていたのです。
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