渋沢兼子(伊藤兼子)

渋沢栄一や孫たちと渋沢兼子(右端)/wikipediaより引用

明治・大正・昭和

渋沢栄一の後妻・渋沢兼子(伊藤兼子)はどんな女性でどう結ばれた?

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明治のシンデレラは幸せだった?

没落豪商の娘から、華麗なる渋沢栄一夫人、華族へ――。

それはまさにシンデレラストーリーのようではありますが、兼子は果たしてその生活に満足できたのか?

明治というのは大変な時代です。

女性がまだまだ物を言える時代ではなく、没落すれば衣食住すら危うい。

通俗道徳
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その点からすれば幸せとも言えますが、人生とはそう単純なことでもないでしょう。

栄一に付き添いながら、兼子は夫の女癖に悩まされました。

そして、ここが渋沢栄一という人物の厄介な二面性なのですが、彼は大変に外面がよろしく、自己プロデュース力に長けています。

新聞が、渋沢栄一の妾についてスクープしたところ、世間ではこんな反応もありました。

伊藤博文とか、桂太郎てえならわかるぜ。しかしまさか、あの渋沢栄一が!」

政府高官、特に長州閥の女癖の悪さは周知の事実ですが、渋沢栄一はそうでもない。

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皮肉にも栄一の潔癖であったパブリックイメージが露わになりますが、妻・兼子からすればトンデモナイ話。

人徳者として『論語』を説き、むしろ「孔子様でも遊びが好きと思える箇所はある」と言い逃れをするような夫に言いたいことはあります。

兼子はしみじみと語りました。

「あの人も『論語』とは上手いものを見つけなさったよ。あれが『聖書』だったら、てんで守れっこないものね」

キリスト教圏では、嫡子相続が原則でした。

庶子は不名誉の証。カトリック教国のフランスではその抜け道があり、国王や貴族は愛人を持つことが当然でしたが、日本で明治以降急速に広まったのはプロテスタントでした。

イギリスやアメリカといった国との関係も影響していると思われます。

八重の桜』で描かれた新島襄と八重の夫妻を思い出してください。

夫の言いなりにならないという理由で八重を妻とし、容姿ではなく生き方が「ハンサム」(気丈で堂々としている)だと評した夫。

そんな夫を、周囲の目を気にせず「ジョー」を平然と呼んだ八重。

むろん、襄に妾はありません。

敬虔なプロテスタントである襄は考えただけでゾッとしたことでしょう。

かたやそんな夫妻も出てきたのに、私達は一体何なのか?

兼子がそう疑念を抱いたとしても何もできない時代、それが明治でした。

 

現代女性は兼子より選べる道が多い

何事も近代的な渋沢栄一ですが、女性の見方は古風でした。

ここで少し『論語』の擁護でもさせていただきますと……。

西洋から「一夫多妻制はありえないのではないか」と言われた東洋の人々は、文化の違いであり野蛮だと言われる筋合いはないと抗弁したものです。

ただし『論語』はじめ儒教にそうした戒めがないかと問われれば、そうとも言い切れません。

酒色は控えるべきだという観念は東洋の儒教国家にもあります。

玄宗と楊貴妃はじめ、女性に耽溺した君主は問題があるとみなされました。

栄一は若い頃、志士であったこと。それに彼が「明眸皓歯」(めいぼうこうし・明るい瞳に白い歯で美人のこと)に目がないと語っていたことも考えましょう。

夫は女好きを隠そうとしない。

何人もの明治の女性はそうため息をついていました。兼子もその一人です。世間は騙されようとも、妻はそうじゃない。

ゴシックの瀟洒な洋館に暮らし、ドレスを着て華やかな暮らしを送る兼子。

そんな明治のシンデレラは、その時代ならではの哀愁も秘めた存在でした。

この先『青天を衝け』でいくら兼子がにっこりと微笑もうとも、史実との差異については無視しないほうが良いでしょう。

現代の女性は、兼子より選べる道は多い。

にっこり受け入れる必要はないのです。

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文:小檜山青

【参考文献】
鹿島茂『渋沢栄一』(→amazon
土屋喬雄『渋沢栄一』(→amazon

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