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【パンダの歴史】
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日本、パンダにラブコールを送る
日本人も、パンダが大好きですよね。
強烈なパンダ愛で知られる著名人と言えば、黒柳徹子さんがいます。
黒柳さんが語るパンダの思い出は、歴史と噛み合っています。
幼い彼女にアメリカから叔父がパンダのぬいぐるみを買ってきたことがきっかけだったとか。
◆日本パンダ保護協会 黒柳徹子名誉会長からのメッセージ(→link)
なぜ彼女の叔父がそうしたのか。
世界初のパンダブームに乗って、グッズも作られていた世相が見えてきます。
かくしてパンダと出会った黒柳さんは、ご存知のとおりテレビの黎明期から活躍をはじめ、日本では知られてなかった可愛いその動物の魅力を伝える役割を果たしてきました。
不幸な戦争を経て、隔絶されてしまった日中間――その国交が結ばれる前夜、日本では中国への理解を深めようという試みがなされていました。
一例が1971年に連載が開始された横山光輝『三国志』です。これぞ日中関係の象徴ともいえます。
かつて、ベストセラーとなった吉川英治『三国志』は、日中戦争時代という背景も影響を与えていました。戦争で支配する中国に親近感を抱かせる役割も担っていたのです。
中国を進軍する兵士が『三国志』を読み、ロマン溢れる古戦場を訪れ、英雄と己を重ね戦意を昂揚させる。そんな役割を担っていました。
そんな不幸な時代は過去のものとせねばならない。
“横光三国志”は、子供たちが楽しみながら中国を理解できる役割を果たすべく、世に出されました。
あの作品は日中友好を担う特別な作品でもあるのです。
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こうした古典への憧憬だけでなく、斬新な動物・パンダも日中友好の役割を大きく担いました。
ニュースだけでなく、漫画雑誌やアニメ映画に登場し、子どもたちの興味をそそる。
1971年、昭和天皇が訪欧の際にパンダを見学し、それが報道されると日本はまたも沸き立ちます。
そして1972年――日中共同声明の調印後、記者会見で待望のニュースが披露されました。
カンカンとランランの雌雄一対が日本に贈られると発表されたのです。
上野動物園で公開されるとたちまち人々が押し寄せ、「2時間並んで50秒しか見られない」と悲鳴が上がるほどの人気ぶりでした。
サブカルチャーのお約束となるパンダ
日本人とパンダとの関係で欠かせない作品があります。
日本初の長編アニメカラー映画『白蛇伝』です。
中国古典のラブストーリーを題材としたこの作品には、パンダが出てきます。
原作は四川から遠く離れた杭州が舞台。
原作者の馮夢龍だってパンダを知っていたとは思えませんが、それでも中国を題材にするならパンダを出さなくちゃ……と、その経緯は不明ながら、愛嬌を振り舞くキャラクターとして登場しました。
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日本の人気漫画・アニメにパンダが出てくる現象は今も御馴染みですね。
古くは『らんま1/2』であり、現在では『呪術廻戦』が代表的でしょう。
『らんま1/2』は、中国の青海省バヤンカラ山脈の拳精山(けんせいざん)にある「呪泉郷」で呪いにかかったという設定ですが、四川省から遠く離れた土地でパンダが溺れたとはちょっと考えにくい……。
にもかかわらず、象徴としてわかりやすいから登場させられるのでしょう。
パンダは笹をずっと食べている、基本はおとなしい生き物ですが、日本の格闘ゲーム『鉄拳』シリーズでも、アメリカの『カンフー・パンダ』でも戦っていますね。
中国には、他に格闘に適した動物はいる。それでも人気やイメージ、愛くるしさからパンダが採用されるのでしょう。
「日本って、中国というとお団子ヘアーとパンダを出すよね」
中国ではそんな風に認識されているほどです。
パンダか? ドラゴンか?
今、アメリカには
◆パンダ・ハガー(パンダを抱くもの)
◆ドラゴン・スレイヤー(龍を屠る者)
という言葉があります。
前者が親中派、後者が反中派という意味であり、パンダは抱くもの、龍は殺すものという、相反するイメージがあります。
愛くるしい、アイツ――どれだけ中国に反発しようと、パンダに危害を加えようとは思えないのでしょう。
WWF(世界自然保護基金)のマークもパンダが用いられています。
◆WWF パンダロゴが生まれたわけ(→link)
一目でわかる白と黒の愛くるしい姿は、龍にはない愛嬌を体現しているんですね。
★
2022年は日中友好50周年の年でした。
様々なイベントも開催される一方、政治外交面から見た中国の危険性を懸念する声も多く、現在、両国の関係も決して順風満帆とは言えないでしょう。
だからといってパンダを貶めるような声はありません。
パンダは世界で愛される存在になったのです。
なんと不思議な動物でしょうか。
現代では中国の象徴であるにもかかわらず、多くの人々に認知されたのは19世紀末のこと。
以降、二度の世界大戦を迎え、冷戦も乗り越え、20世紀の激動に揉まれながら世界中で愛されるようになりました。
日本からすれば、虎や龍の方がずっと付き合いが深く長いにも関わらず、今ではパンダの方がはるかに格上の存在。
初めて日本の動物園に来てから半世紀を経ても、その熱意が薄れることはありません。
コロナ禍の中、上野動物園での公開が再開されると、たちまち檻の前には人だかりができました。
実は、生態も謎が多く解明されていないところがまだまだあるパンダ。
生物として不思議なだけでなく、歴史的な外交ツールとしても、今なお唯一無二の存在です。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
家永真幸『中国パンダ外交史』(→amazon)
黒柳徹子と仲間たち『パンダとわたし』(→amazon)
野嶋剛『新中国論』(→amazon)
他