関羽

中国・関公義園にあった関羽の巨大銅像/wikipediaより引用

関羽は死後が熱い!「義」の代表が「万能の神」として崇敬されるまで

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「荒唐無稽な登場人物を面白がるだけでは不十分。三国の物語を読み、人々が『義』とは何であるか考える、そんな道徳的に学べる作品にしよう。そのためには『義』を象徴する関羽のキャラクターを、もっと素晴らしいものにするべきだ」

『演義』に筆を入れた李卓吾、毛綸・毛宗崗父子といった文人たちは、教養に溢れていました。彼らは版を重ねるごとにより洗練された「義の人」関羽像をつくりあげていくことに力を注ぎます。

三国志の物語は、盛り場で面白可笑しく語られるだけではなく、教養や道徳のために読まれる本へと洗練されていったのです。

そしてその過程で、不純物とみなされた史実の要素が削られてゆきます。

例えば正史から読み取れる、「関羽が呂布の部下の美人妻に気があって未練たらたらだった」という話は、バッサリとカット。

代わりに、曹操が美人を使って関羽を誘惑しようとしても頑として拒むという話が作られました。

『義』の人・関羽に色気は不要なのです。

史実の関羽はどんな人であったか?

それはどうでもよいのです。

関羽には、その時代の人々が求める理想像、最高の『義』が投影されました。

 

義の人・関羽 やがて万能の神になる

関羽は物語で活躍するだけではなく、唐時代から神としても祀られていました。

ただ、この時点では三国時代の名将の一人という扱いで、張飛、張遼、周瑜らも同時に祀られています。

周瑜
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それが彼だけ別格になるのは、前述の通り北方異民族の脅威にさらされた北宋以降です。ここでの関羽はあくまで武勇の神であり、なんとなく納得できます。

さらに時代がくだると、関羽は財神にグレードアップします。

彼の出身地・山西は、古来より塩の産地でした。塩は生活に欠かせないものであり、貴重なものです。山西地方は商人が多く、中国商業界において大きな力を持っていました。

彼らが地元の神様として崇拝した関羽は、商人に信仰される過程で、お金を儲けさせてくれる御利益がある「財神」に変貌していったのです。

しかも商人というのは移動しながら商売を広げてゆくものです。彼らが移動した先でも関羽信仰は根付きました。

さらに関羽には治水の効果もつきました。

これは明代、治水担当者が地元の関羽に祈りを捧げたところ、工事が成功したことがきっかけだとか。

武勇も商業も治水もカバー。

もはや彼は万能神へと進化を遂げるのです。

これだけ御利益があったら、誰だって信仰しますよね。

関羽はついに「文」の孔子と並ぶ「武」の神様となり、上は皇帝から下は庶民まで、多くの人々に敬愛される存在となったのでした。

 

世界に広がる「関帝廟」

時代がくだるにつれ、理想と御利益がグレードアップしていった関羽像。近代以降も、そんなものは迷信だと捨てられることもなく、関羽信仰は現代も存在します。

華人が海外に進出すると、その先には関羽が祀られる関帝廟が作られました。

関帝廟はただの信仰の場ではなく、コミュニティの共有財産を所有していました。商売に失敗した人や、親を失った子の学費として利用。

華人のたすけあいの象徴として、関帝廟は機能していたのです。

関羽信仰には、各地に積極的に進出し、かつその地に根を下ろし生きてゆく、そんな華人のネットワークが大きく関わっているわけですね。

日本にも横浜中華街をはじめ、多くの場所に関帝廟(→link)があります。関羽の一生や人々の信仰心を思いながら、参拝してみてはいかがでしょうか。

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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

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『三國志14 TREASURE BOX』WIN版 PS版/amazonより引用

【参考】
渡邉義浩『関羽: 神になった「三国志」の英雄 (筑摩選書)』(→amazon
横山光輝『三国志 (6) 玉璽の行くえ (希望コミックス (24))』(→amazon

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