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【諸葛亮被害者の会】
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entry4 陳寿「どうして私が責められるんだ……」
前述の三人だけでも、結構つらいと思えてくる。そんな状況ですが、彼ら以上に悲惨な存在がおりました。
『正史三国志』の著者たる陳寿です。
はじめに言い切ります。
陳寿は悪くない!
陳寿は蜀の人であり、文才も抜群でしたが、理不尽なバッシングに苦しめられ続けた人物です。
まさしく当時の炎上王と申しましょうか。
具体的に見ていきますと……。
・諸葛瞻(諸葛亮の子)と不仲だ!
→親と子は別人格。親が優れているからって、子もそうとは限らない。逆もまた然り。
『三国志』ファンであれば、そんな悲しい実例をいくつも思い出せることでしょう。劉備と劉禅とか。けれども、人間はどうにもそこの目が狂いがちでして。
諸葛瞻は蜀の滅亡と同時に戦死を遂げた。
それに対して陳寿は生存。
陳寿が「諸葛瞻は過大評価気味です」と書いたこと。両者が不仲であったこと。これも全て、陳寿が悪意を込めていたということにされました。
もう、この時点で理不尽。
・師匠である誰周からして、劉禅に降伏勧告した根性なしだ!
→本人ですらない、師匠が現実を考慮して劉禅に降伏を促しただけで、悪評が祟る。理不尽にもほどがある。
・空気を読めない!
→蜀は宦官・黄皓が権勢を奮っていました。
陳寿はそれが嫌で、空気を読まなかったために何度も左遷されています。これは見ようによっては根性があるわけです。
・父への親不孝の極み!
→どういうことでしょう。親を殴ったとか?
これが現代人からすれば些細なことでして、父の服喪中、体調が悪いので下女に薬を調合させたのです。
儒教の価値観ですと、親の服喪中は楽をしようとしてはいけません。
飲酒、肉食、性行為、そして服薬すら禁止。それを破った陳寿は、最低の奴ということにされてしまうのです。
・母にも親不孝の極み!
→陳寿はちょっとうっかりしていただけで、別に親不孝であるとも思えません。
母が亡くなると、服喪のために辞職をしたとされています。
この母も、なかなか大変で、彼女は洛陽に埋葬して欲しいと遺言していたのです。
それを実行したところ「故郷に埋葬しないなんて最低の親不孝!」と非難されてしまいました。
・賄賂を要求するゲス歴史家!
→魏の丁儀と丁廙の子に、陳寿は「千石の米で、素晴らしい伝をゲットしませんか?」と持ちかけた……とされています。
相手が断ると、あれほど名高いこの二人の伝を書かなかったというのです。真偽不明です。ただのゴシップかな?
とまぁ、上記のように、陳寿は運が悪い上に炎上体質でした。
細かく見ていけば真偽不明だし、そこまで悪い人でもない。そう思いますが、後世の人々にすらなかなか通じませんでした。その原因は?
陳寿最大の罪とされたのは、これです。
「諸葛亮って、臨機応変の戦術は得意じゃないと思うんですよね」
こう諸葛亮の伝に記したばかりに、徹底的に嫌われます。
陳寿の父・陳式は、馬謖の参軍(ブレーン的な役割)で、馬謖が諸葛亮に処刑された際、陳式も連座して髠刑(剃髪刑)に遭ったとされています。父の処罰を逆恨みし、諸葛亮の悪口を書いたとされたのです。
そもそも、陳寿の父は記録がないのですが。ところが、流布する地獄よ。
「あいつならやりかねんな、セコいし、ケチだし、どうしようもないあいつならね」
どんどんどんどん、後世悪評が膨れてゆく。
敵対すらしていない。諸葛瞻とは確かに不仲ではあったけれども。
むしろきっちり正史を書いた。それだけでこの扱い。不遇にもほどがある!
「被害者の会」ワーストワンは決まり!
陳寿の何が悪かったのか?
諸葛亮ロマンを壊しただけのことです。
陳寿のこのコメントだって、史実を細かく見ていけばそこまでおかしいとも思えません。
諸葛亮は思想と戦略が優れており、前線で戦う技術が秀でていたわけでもありません。
認めたくない嫌な史実かもしれませんが、『三国志』の英雄において最も軍事において優れた人物は、曹操であるとは思えます。
いいじゃないですか。曹操は人間的に大問題の塊だから、それでプラスマイナス実質ゼロみたいなもんで……。
『魏武注孫子』が定着したこと。この一点だけでも、曹操はこの点において抜群の才知があります。
定期的に大敗北をかましますが、それは曹操がメンタル不安定でやらかしただけであり、基本的には優れているのです。
諸葛亮は、前線の指揮がイメージほど強くなくとも、ともかく優れた美点がいくつもある人物です。
史実をたどって、そこをじっくり考えることにして、とりあえず私の結論を書きます。
結論:諸葛亮被害者の会・ワーストワンは陳寿さんです!
諸葛亮を少しでも悪く書くだけで、叩かれる。そんな陳寿で決まりでしょう。
司馬懿は、晋の祖であり、なんだかんだで最終勝利者とも言えます。
『三国志〜司馬懿 軍師連盟〜』でイケメンにもなったし、勝ち組でしょう。
周瑜だって、『レッドクリフ』で主役を務めました。
正史での素晴らしさは広まりましたし、もう大丈夫!
では諸葛亮本人は?
盛られすぎで苦笑いしたくなるでしょうが、有名税ってことでよろしいでしょう。
そんなわけで、フィクションにも出てこないうえに、敵対していないのに叩かれる。
陳寿ということで、結論とします。
そこを踏まえ、陳寿に、もっと敬愛を!
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絵・小久ヒロ
文・小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
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井波律子『三国志曼荼羅(筑摩書房)』(→amazon)
渡邉義浩『三国志―演義から正史、そして史実へ (中公新書)』(→amazon)
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