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週刊武春 黒田家

黒田家ルーツの謎に迫る意欲作『黒田官兵衛目薬伝説』(桃山堂) 目薬とクロガネをめぐる意外な関係

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このたび桃山堂株式会社さんより『黒田官兵衛目薬伝説』なる書籍をご献本いただきました。

NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』でも、若かりし頃の岡田准一君が爺ちゃんの竜雷太さんから「黒田の家は目薬から財を成していったのじゃよ」と説明されておりましたが、このエピソード、史実では疑問符を付けられております。果たして真実はいかなるものなのか。

この本の担当編集者(桃山堂)さんで、九人の執筆陣のひとりでもある蒲池明弘さんから、書籍のあらすじをご紹介していただきましたので、早速、ご報告いたしましょう。

ドラマでは窺い知ることの出来ない、味わい深い歴史をご堪能あれ!


黒田官兵衛目薬伝説 目の神、鉄の神、足なえの神

 

調べてみたら興味深い話が芋づる式に・・・

NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』で、黒田家の目薬商いはすっかり有名になりましたが、これが歴史上の事実かどうかについては、学術的な研究者のあいだでは否定的な見解が多いようです。岡田准一さん演じる官兵衛は、歩行不自由の足なえの武将ですが、こちらについても史料の裏付けはなく、史実ではないのではという指摘が出ています。

毎週楽しみに『軍師官兵衛』を見ているのに、今さら、目薬も足弱も絵空事だといわれてもハシゴをはずされたようで困ってしまいます。

それにしても、もし、目薬や足なえの話が史実でないとしたら、ではなぜ、こうした所伝が生じて大河ドラマにまでなってしまったのでしょうか?

そんな素朴な疑問からスタートして、目薬伝承の背景を調べてみたら、面白い話が芋づる式に出てきましたので、『黒田官兵衛目薬伝説 目の神、鉄の神、足なえの神』と題して緊急出版させていただきました。

 

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目薬伝説から黒田一族の謎に迫る! 

この本で問題としているのは歴史上の人物としての黒田官兵衛というよりも、官兵衛の先祖をめぐる物語で、目薬伝説を手掛かりとして、黒田一族の謎を探るという趣向となっています。

数多い官兵衛本のなかでも風変わりな本だと思いますが、その分、ほかにはない目新しい話題が山盛りなので、いくつか紹介させていただきます。

  • 目にかかわる医療、信仰の歴史は、鍛冶、製鉄、鉱山の文化と深く結びついていること。鍛冶や製鉄の現場で、目を傷める人が多かったかららしい。
  • 日本における眼科医学は、戦国時代に急発展したこと。
  • 黒田の地名/名字は、クロガネ(鉄)に由来するという説があること。
  • 黒田一族の先祖が居住していたとされる土地には、鉄、金属の文化が濃厚であること。(備前、北近江、姫路)
  • 鍛冶が信仰する金属の神・天目一箇神(あめのまひとつのかみ)は、一つ目で片足が不自由(あるいは片足しかない)という姿であること。

五番目にあげた「一つ目で足なえ」の金属神については、武田信玄の軍師・山本勘助の身体的特徴との類似が笹本正治信州大教授らによって指摘されています。

山本勘助も大河ドラマの主人公に抜擢され、ドラマのうえでも片目で足が不自由という姿でしたが、これは足なえの金属神・天目一箇神の投影ではないかというのです。信玄の軍師、秀吉の軍師がそろって、足なえであるというのは奇妙な一致です。さらにいえば、ヤマトタケルも足なえの英雄として『古事記』などに記録されています。

 

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目の医学や信仰は金属文化と結びついていた!?

大河ドラマ『軍師官兵衛』では、目薬屋から有力大名に飛躍する一族の歴史が詳細に描かれ、初回か第二話あたりだったと思いますが、黒田家の「目薬工場」まで再現されていました。若き日の官兵衛が同僚の武将から、「目薬屋」とさげすまれる場面もありました。黒田家の目薬商いは、司馬遼太郎の小説『播磨灘物語』でも重要なエピソードとして詳述されています。

しかし、大正時代からのことですが、史料を重視する研究者からは「目薬の話は史実とは考えられない」と批判されています。

桃山堂編集者は、兵庫県姫路市にある広峯神社に参じ、宮司さんに黒田家の目薬商いのことをうかがいましたところ、神社の古文書はもとより、言い伝えによっても黒田家の目薬の話はまったく存在しないというのです。確かに史料のうえからいえば、目薬伝説は妖しげな話に思えてきます。

その一方、「目」の医学や信仰は、鉄をはじめとする金属や鉱山の文化と結びついており、黒田家の目薬伝説はそのあたりに関係あるようにも見えます。

というわけで、『黒田官兵衛目薬伝説』では正面突破の正攻法ではなく、搦め手からこの問題に迫っています。眼科医学史、民俗学、地名学、系図学などの研究者へのインタビューを重ね、関連する土地を調査し、資料を集めました。

インタビューが中心なので、起承転結のある本ではありませんが、それぞれの専門分野を踏まえて、目薬伝説の背景を検討しています。インタビューのポイントを紹介してみます。

 

眼科学の普及前は寺社でそれらしき薬を用立てていた 

第一章で登場していただいた奥沢康正氏は現役の眼科医で、眼科医学史の第一人者。生家は天保年間からつづく眼科専門の医家です。

黒田官兵衛目薬伝説1

奥沢さんが収集した江戸時代に使われた目薬製造の器具や容器

 

「私が知るかぎり、黒田家の秘伝によって作られた「玲珠膏」という目薬は、医学史料によっては確認できません。目を専門とする医師、目薬販売の業者をふくめて、黒田の苗字をもつ人も記憶にありません。
また、姫路の広峯神社の御師がお札を頒布する際に、官兵衛の祖父・重隆の秘伝の目薬をあわせて販売したという史料も見ませんが、眼科学の知識が普及する以前、寺や神社でそれらしい薬を用立てていたという事例は少なくありません。島根県の一畑薬師、宮崎県の生目神社が、目にかかわる信仰で有名です」

「現代では多くの人が専門的な医療を受けることができるようになって、想像するのも難しいことですが、長い間、医療は、宗教や呪術が肩代わりしていました。したがって、宗教と医療は、人類の歴史とともに深いつながりを持っています。
馬嶋流をはじめとして江戸時代に隆盛した眼科流派の多くが寺院から発祥しており、完全には医療と宗教が分離していない状態が続きました。明治以降、寺院における医療行為が禁止され、西洋流の医学を教える学校ができたため、馬嶋流の眼科は急速に衰えました」

「私の生家は江戸時代の天保年間から続く眼科医で、もともとは御殿医でしたが、のちに市中で開業しています。あわせて目薬の販売も手がけていました。眼科医は実入りのよい職業ではなかったようですが、目薬商いは割合と収益があがっていたと伝え聞いています」

「中世、近世では点眼用の目薬の容器は、ハマグリなどの貝殻でした。これはNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』でも、正しく再現されていました。流派によっては陶器の容器もありますが、ハマグリが一番多く使われています。大きさも手頃で大中小に別けられて、密閉性にすぐれているからです。
貝殻のなかにペースト状の膏薬を入れて販売するのですが、使うときは、夜、井戸水を貝殻の片側に入れて膏薬を一晩寝かせるのです。薬の固まりから薬効成分が染み出るので、それを点眼します。膏薬の原料は鉱物や薬草を混ぜたものです。その成分や比率が秘伝とされることもあります」

黒田官兵衛目薬伝説2

膏薬の目薬。ハマグリの貝殻に水を注ぎ、一晩寝かせて点眼する

 

「史実かどうかはさておき、黒田家の目薬は「玲珠膏」という名が伝わっています。「珠」の字には真珠の意味もあります。江戸時代の記録には「真珠散」という目薬もあって誤解されがちですが、原料は真珠ではなく、牡蛎の貝殻です。玲珠膏についても同様のことがいえるかもしれません。牡蛎の貝殻をいかにしてパウダー状にするか、異物感が無く鼻腔から吹き込めるか、どうすれば粉末を軟膏として使えるかなどにおいて、ちょっとした秘伝があったようです。
牡蛎であれば何でもいいというわけではなく、大阪府南部の海で採れる牡蛎が上質の原料であったといわれています。黒田家の目薬をめぐって、カエデ科のメグスリノキのことが話題にのぼることがありますが、これはお茶と同じく煎じて用いるものです。珍しい木ではないので、一般的な民間療法といえます」(奥沢康正)

 

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