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グレンコーの虐殺の後を表す一枚の絵/wikipediaより引用

イギリス ゲームオブスローンズ解説 週刊武春

グレンコーの虐殺がヒドすぎてゲームオブスローンズ「レッド・ウェディング」の元ネタになる

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イギリス人は辛辣なジョークが好きと言われています。
その中でも、お国柄をからかうネタが定番です。

・スコットランド人=ケチ
・アイルランド人=アホ、オチ担当

これにはご想像どおり歴史的経緯がありまして。
イングランド人がスコットランドやアイルランドを支配してきたことを考えると、なかなか複雑なものがあると思います。

スコットランド人がケチというのも、イングランドが支配する際にこってりと重税で搾ったことが根本にあるのではないでしょうかねぇ。
税金を払いたくないスコットランド人は、ウイスキーを密造したりしてしのぐわけです。

それを見たイングランド人は「スコットランド人はしみったれた奴らだよなあ」と思う、と。

しかしそもそもがイングランドが搾取していたのが悪いんじゃないか、とは考えてしまうんです。
歴史的経緯を見ていくと、本当にスコットランド人は痛い目を見てきているのです……。

その一つがグレンコーの虐殺でした。

 

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スコットランド人は勇者の国だ、彼らは強い

イングランドの北部に位置するという時点で、スコットランドは宿命的にこの国と対峙する羽目になりました。

スコットランド人は、個々人という単位で見ると大変強いのです。
しかし残念なことに、この地は山あり谷あり。そしてこの山や谷ごとに氏族(クラン)と呼ばれる血族単位の一族が暮らしていて、しかも対立していました。

これは戦国時代の日本で、村単位で国衆がいて争っていたようなイメージを抱いてだければよろしいかと。
そしてこの氏族は、対立氏族に勝利するため、イングランドの助力を得ることがしばしばあり、介入を招いていました。団結すれば強いのにもったいない……。

そう、スコットランドの氏族が一致団結すればかなりの強さなのです。

一例をあげれば1815年、ワーテルローの戦いでの「ロイヤル・スコットランド連隊(スコッツグレイ)」です。
スコットランド人と葦毛の馬で構成された勇敢な騎兵隊は、多大な損害を出しながらも大活躍。あのナポレオンを戦慄させたと言われています。

団結すれば強いんです……スコットランドの人は団結すれば強い。しつこいけど何度も言いたくなりまして。

問題は前述の通り、氏族同士がまとまらない点です。

※↑映画『ワーテルロー』より、スコッツグレイの突撃

 

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北国の厳冬をようやく進むも、遅刻してしまい……

スコットランドの受難をあげればきりがありません。

そんな中でも、悪名高いのが1692年。
風光明媚なグレンコーの谷で怒った虐殺事件でした。

1688年、イングランドで名誉革命が起こります。
ステュアート朝イングランド王ジェームズ2世が王位を追われ、かわりにジェームズ2世の娘メアリー2世とその夫でオランダ総督ウィリアム3世が王位についた革命です。
王を斬首するようなこともなく成立したため、無血革命であるとされています。

しかし、王は死ななくとも、スコットランド人はこの革命に巻き込まれ、命を落とすことになります。

革命の後の1692年。
スコットランドのハイランド(高地)地方はまだ不安定な状況にありました。
革命で王位を追われたのはスコットランド系のステュアート朝の王であり、不満がくすぶっていたのです。

この不満を解消し、ハイランド人を配下に置くため、この年の元旦までに各氏族が新王ウィリアム3世に忠誠を誓う署名をしなければならなかったのです。

もし署名を拒めば、どうなるか。
その仕打ちは残酷でした。

土地は没収、家屋は破壊。
法の保護を失った氏族は殺害される可能性もありました。
そこで氏族の長は次々と署名を済ませます。

しかし、一人だけ済ませていない、年老いた氏族長がいました。
グレンコーのマキーアンです。

マキーアンは反逆心からそうしなかったわけではありません。
彼は宣誓する場所を65キロほど間違ってしまったのでした。

なんせ北国の厳冬の中です。厳しい道のりをマキーアンはようやく辿り着き、6日遅れで宣誓を済ませます。
「やれやれ、遅刻したけど宣誓は済ませたぞ」
マキーアンはホッと一息ついたことでしょう。

しかし、王への忠誠が遅れたということは、粛清する格好の口実を与えたことになったのでした。

 

これから殺そうという相手に食事を振る舞われトランプを楽しみ

遅刻にかこつけてやったれ!
絶好の好機を逃すまい!と鼻息荒くしたのがスコットランド国務大臣をつとめていたブレダルベーン伯ジョン・キャンベルでした。

一方、グレンコーのマキーアンは、マクドナルドの氏族でした。

キャンベルとマクドナルドはハイランド地方でも有力な二大氏族であり、しばしば衝突していました。
いわば宿敵なのです。

「あの憎たらしいマクドナルドの力を削ぐチャンスだ」

キャンベルはこの機に反抗的なマクドナルド氏族を誅滅すべきだと主張しました。
ウィリアム3世もこれに同意し、二人の署名入り命令書ができあがったのです。

「グレンコー谷にいる70才未満の者全てを殺害せよ」
こんな非情な命令を受け取ったのは、キャンベル氏族のロバート・キャンベル大尉でした。

2月1日、ロバート率いる連隊は、グレンコー谷に税金未納という名目で、宿営します。
彼らは客人としてもてなされ、食事をともにとり、トランプを楽しみました。

ハイランドの人々は、客人は丁寧にもてなす風習があったのです。
これから殺す相手と、どんな気持ちで歓待を受けたのか。
想像すると背筋が凍るようです。

 

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「行商とキャンベルはお断り」

2月13日。
彼らは容赦なくグレンコーの住民に襲いかかりました。

そしてマキーアン以下、子供を含めて38名が惨殺されるのです。

グレンコーの虐殺の後を表す一枚の絵/wikipediaより引用

不幸中の幸いか。多くの村人は脱出できました。
人口密度の低いスコットランドでの事件ですから、犠牲者数もさほど多くはありません。

しかし、グレンコーの人口を見れば、十分の一もの犠牲者が出た計算です。

40名以下で虐殺とは大げさな、と思われるかもしれません。
が、「虐殺」の定義に人数は関係ないでしょう。
ともに食事をとった相手を急襲して殺す。しかも、イングランド政府軍の助けを借りて。

この陰湿な手口は深い恨みを残しました。
屍にすがりついて泣き叫ぶ女性の絵が何枚も描かれ、惨劇の様子は歌に残されて語り草となるのです。

以降、キャンベル氏族は卑劣な者として誹りを受け、肩身の狭い扱いを受けます。
グレンコーのパブには「行商とキャンベルはお断り」のサインは掲げられています。

今なお残る恨みの「The sign」photo by Paul Hermans/wikipediaより引用

しつこいって?
やられた側は忘れないもんです。こちらのホテル件パブでは、この看板は現在も存在します。

 

フィクションで蘇る悲劇と怒り

犠牲者数は少なくとも、やり方が卑劣だと非難されたグレンコーの虐殺。
この虐殺はまた注目を浴びました。

HBO製作の大ヒットドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』です。
同劇中で屈指の惨劇である「レッド・ウェディング(シーズン3第9話「キャスタミアの雨」に収録)」が、この事件から影響を受けていると原作者のG・R・R・マーティンが種明かししたのです。

この場面の酷さは、何と言ってもともに食事を取って油断している相手を容赦なく殺すことです。
結婚式を迎えて安心しきっていたスターク家の人々が、突如、片っ端から殺されてしまう――そんなあまりの遣り口に視聴者は驚き、憤激しました。

「彼らは信じていたのに! 一緒に食事までしたのに! なんで殺すんだ卑怯者!」

この場面を見た視聴者の怒りは、グレンコーの虐殺のニュースを聞いた人々と似たようなものであったことでしょう。
優れたフィクションが、当時の人々が味わった怒りまで呼び覚ましたのでした。

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⑥番外編 ゲームオブスローンズ 前史
レッド・ウェディングの元ネタグレンコーの虐殺

文:小檜山青




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