武者震之助です。
今週も厳しい内容ですので、この先をご覧になられる方は、予めご承知ください。
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浦賀にペリーがやってきた
今回は幕末の重大イベント「黒船来航」です。
1853年のこの衝撃、当時の人々は「嘉永以来」とか「嘉六(嘉永六年)以来」、あるいは「癸丑以来(きちゅういらい)」なんて言い方もしました。
ただし、外国船の到来は、このときのペリーが初めてではありません。
それまでも幕府ではその脅威を感じておりまして。
地域差や身分差によって、外圧の認知度は大きく異なり、のほほんとしていたモラトリアムもこの黒船によって打ち砕かれてしまいます。
1853年という年以来、人々は以前の生活へは戻れなくなりました。
運命の転換点。
つまりは、これまで、のほほんとしていた本作も、今回からずっとシリアスに、深刻になるかもしれないということです。
ともかく幕末ドラマは、黒船が来航しなければ何も始まらないようなところがあります。
2010年代の幕末大河では、いずれもかなり序盤に黒船が来航しておりました。
◆2010年『龍馬伝』第5回(全48回)
◆2013年『八重の桜』第2回(全50回)
◆2015年『花燃ゆ』第3回(全50回)
◆2018年『西郷どん』第8回(全47回)
西郷どんにおける、その遅さは一目瞭然でしょう。
さすがに、スローペース過ぎやしませんか?
資料残存が八重や美和子より多く、人生は龍馬より長く、しかも放送回数は少なめで全47回。
なのに、このノンキさ……。
しかも、です。
先程からシリアスになるかもしれない、とは書いておりますが、正直、期待は全然抱けてません。
だって、サブタイトルが「不吉な嫁」。
番宣では新妻のほっぺを挟む西郷どんばかり出てくるんですからねえ……。
不吉といえば、嫁よりも「『西郷どん』の検索関連ワードとして『花燃ゆ』がサジェストされる」 というものがあります。
早い話が死の宣告レベルの危険性を感じます。
なんということでしょう。
知名度、活躍度、史料の残存状況、創作のしやすさ、イベントの多さ、比べものにならない両者が並ぶとは。
本来、西郷隆盛は八重、美和、直虎といった女性とは勝負にならない題材です。
坂本龍馬よりも、ここ十年のどの主人公よりも描きやすいはず。
それでこの状況。底なしの恐怖を感じます。
そんなわけで本編へ。
「不吉な嫁」と呼ばれ
家族三人を失った悲しい一年。
そんな年も終わったわけですが、どうやら須賀は「不吉な嫁」と呼ばれているんだとか。
割とどうでもいいです。
橋本愛さんの演技に一見の価値はあるかもしれません。
しかし、わざわざ彼女がこんなことを言うのは、「そんなことなか」とフォローする西郷どんのやさしさアピールのためのように見えてしまうからです。
このあと西郷どんは祖母から鰻をとってこいと言われます。また鰻サービスタイムかと思ったら、今回はやりませんでした。
大久保正助は、西郷どん必死の嘆願で謹慎解除。
喜んでおります。
ほのぼの薩摩ホームドラマの合間に、しれっと黒船が来航していました。
CGを駆使した黒船は非常に出来栄えがよいですね。
だからこそ、辛い。他に見えてしまう粗。
それ以外のとこは、いたるところで綻びを感じてしまいます。
最大の問題点は、黒船一行は白旗を掲げねば砲撃すると脅していることです。
こんなひどい設定を通した脚本家と、考証担当者には、膝詰めでちょっと話し合いたいくらいです。
ペリーは、むしろフレンドリーにお酒を振る舞い
ペリー提督およびアメリカ合衆国の目的はあくまで通商です。
たしかに、その始まりが軍事力で威圧する「砲艦外交」であったことは確かです。
しかし、いきなり「おまえら白旗を掲げろ」というのは無茶苦茶。
ペリーはむしろ幕臣たちをフレンドリーにおもてなしをしているくらいです。
ワインやスパークリングワイン、家紋つきケーキをわざわざ用意しておりました。
幕臣が酔っぱらって抱きついても笑顔を浮かべました。
すべては条約のため。
ドラマとは正反対で、ペリーはごく友好的にことをおさめたかったのです。
※詳しいことば以下の記事にて
あのペリーが日本人を接待していた?日米和親条約の交渉で用いたほのぼの作戦
続きを見る
にもかかわらず、なぜこんな脚本になったのか。
理由は想像がつきます。
史実通りに描いたら、迫力や脅威を感じさせるのにある程度時間を使うから。
脚本家さんは、そんな小難しい歴史よりも、西郷どんが初めての奥様と別れる愁嘆場を優先したのではないでしょうか。
「知ってた、俺、ペリーも黒船も知ってた」
一方、斉彬は、やたらとかっこよく
「知ってた、俺、ペリーも黒船も知ってた」
アピールをしています。
家臣は驚いていましたが、斉彬だったら当たり前ですし、むしろ薩摩の重臣ならば、その辺の事情を知っていなければおかしい。
斉興の代で既に黒船や琉球、鹿児島湾まで来ているのですから。
世界のケン・ワタナベという存在感で見栄えはとても良いですが、すかした顔で紅茶を飲むのが、ちょっとイラッとしてしまいます。
斉彬は「集成館」事業にダメ出ししておりました。
この事業は、現在も鹿児島の特産品である美しい薩摩切子、美味しい薩摩焼酎を生み出したもので、かなり重要なはずです。
しかし、一瞬だけ突然でてくるのでは内容がぶつギレになってしまい、その功績や目的がいまいち不明なのがもったいないと思います。
こういう経産ネタへの注目って、大河だからこそ描けるところの一つだと思うんですよね。
それが非常に中途半端で。
鹿児島県民のみなさんは納得できているのでしょうか。
「30両かかる」と苦い顔
そんな中、西郷どんもついに江戸行きに選ばれました。
大喜びする西郷ファミリーですが、須賀だけは「30両かかる」と苦い顔をしています。
支度金くらい藩で用意して、ともかく江戸にはサクッと素早く行って欲しいんですけどね。
しかしそんな願いがかなうわけもなく、ここからはだらだらと金策タイム。
黒船来航したの暢気だなあ。ほんの数回前にこんな金策回ありましたね。ネタ切れですか。あのとき借りた金は冠婚葬祭で使い果たしましたか。
正助がやってきて、金のせいで江戸に行きたくないという西郷どんを叱り飛ばします。
そこで須賀が口を出して、彼はこう言い出すのです。
「このやっせんぼがあ! こげな嫁の言うことを聞いてー!」
「こげな嫁とはなんだー!」
互いの気持ちをぶつけるためにケンカするのはいいのですが……。
これはドラマに対する熱中度の問題で、私が悪いのかもしれませんが、今回の2人にそこまで感情移入できないから、駅で酔客がおっぱじめた口論、殴り合いと、あまり違わないようで、げんなりしてしまいました。
本当なら手に汗握って『2人ともやめろって><;』と泣きたくなるのかもしれません。
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