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篤姫の警護
西郷どんは桂久武に呼ばれて、篤姫の警護役になってくれと頼まれます。
ところで桂久武は、お由羅騒動で自害させられたあの赤山先生(赤山靭負・沢村一樹さん)の弟です。
もったいないですよね。
その辺の個性をきちんと印象づけておけば、そのつど、無念の思いで散った赤山靭負の顔がチラッと浮かび、後の桂久武の活躍でも活きてきそうなものです。
せっかくの脇役の人間関係や個性が消し去られてしまうのは、本当に罪だと思います。
西郷の弟妹は正助に、兄が江戸に行けるようにしてくれと懇願。
本作って、こういう幼い子供たちの懇願場面が好きですよね。
西郷ファミリーは内職で金を稼ぎ、須賀はどこか冷めた目で見ています。
一方、西郷どんは、篤姫の警護。
ロケをしている風景など絵は、相当美しいと思います。
ただ……、予算は大丈夫ですかね?
今からこの調子ですと、肝心の戊辰戦争や西南戦争が『八重の桜』映像の使い回しだらけになりそうで。
そしてその場面が一番ましということになったりして。
美しいけれど気品を感じられない篤姫
篤姫はニッコニコです。
下級藩士相手ににスマイルです。
北川景子さんが笑えばそりゃかわいい。そんなことは当たり前。
でも、それでいいのでしょうか。
この篤姫はなんだか美しすぎる受付嬢のようで……。
幕末大名家の姫君らしい気品や、島津を背負って嫁ぐ意志も感じさせないのです。
それはこれから身につくのかもしれませんけど、誰が見ているかわからない場所で、お供もつけずに下級藩士の西郷どんデレってなぁ。
別に史実からの逸脱は構いません。
ただ、この逸脱が物語を面白くすればよいのですが、今回は、本来の西郷が近寄りがたい篤姫の絶対的存在感などを損なってしまっているような気もしてしまうのです。
このまま「愛の江戸無血開城」になるんでしょうか。
この篤姫は、言うことがよくわかりません。
篤姫が御前相撲で西郷どんに賭けていたことを知っていたかのように話しかけます。
そんなのは当事者と視聴者でなければわからないでしょうに。
それに、篤姫が選ばれた理由が賭けに勝ったからというのも、いくらなんでもバカにしすぎではありませんか?
なんでもかんでも、西郷どんに絡めればよいというワケではないでしょう。
「ともに江戸で会おう! 殿のために尽くそうぞ」
うーん、それはよいのですが……
この二人のヤリトリで、緊張感や知性を感じさせるにはどうすれば良かったのでしょうか。
すみません、私には答えは出せませんでした。
10両どうしても足りん……ってお金の話ばっかり
正助は金策に走ります。
そして西郷家に金を貸してくれた板垣の元へ。
以前借りた100両すら帰ってきていないと渋るのですが、正助がポエム詠んで土下座したら貸してくれました。
もうこれでコンプでいいと思ったのですが、まだ足りません。
いろいろあって、愉快な郷中フレンズからもかき集めましたが、10両どうしても足りません。
もういいよ。いいからペリーのことやろうよ。
ここで突然、伊集院家から、離婚してくれと言われます。
須賀は西郷の弟妹の面倒を見るのも、貧乏暮らしもイヤ。
夫が江戸に行っている間、留守を守るのもごめんだと。
そして手切れ金だと10両渡したいと言います。不足分の10両ですね。須賀はつんつんしていますが、本音は違います。
要するに、
「あなたみたいに優しい人、日本一のお婿さん、私にはもったいない。このお金で江戸に行って立派になってね」
だそうです。ツンデレ的な。
こういう離婚することになった嫁から勝手に離婚ルートへ進むのは、今度再放送される『軍資官兵衛』における黒田長政の妻・糸でもありましたねえ。
主人公サイドの手を汚させない、勝手に相手が動くやり方、どうなんでしょう。
江戸での挑発行動、益満休之助とか相楽相三とかどうするんだろう。
やらないのかな。
勝手に彼らが暴れて西郷どんは困るパターンかな? それともそのへんはカットかな? 幕府が一方的に悪いことにするつもりかな?
そんなこんなで西郷どんは江戸へ向かいました。
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総評
もう今週は前振りで結論でてしまっていましたようね。
「黒船来航してからもチンタラホームドラマやるのは駄目だ」
って、もう本当に勘弁してください。
ペリー来航したのに、借金、内職、土下座、都合のいい嫁。どうなっているのでしょう。
本作『西郷どん』と『花燃ゆ』を合わせて「薩長同盟」と呼ぶ人がいるそうです。
しかし、幕末初期段階、吉田松陰生前は『花燃ゆ』の方が緊迫感があった気がするんですね。
吉田松陰の気迫、狂気、焦燥はちゃんと出せていましたから。
お茶をティーカップからすかした顔ですすっている斉彬よりちゃんとしていたと思うんですよね。
おそらくこれが本作の持ち味なんでしょう。
このゆるい明るさが。
本作の、
・一話完結スタイルで伏線を次の会以降まで引っ張らない
・明るく主人公が理由もなくモテる青春劇
というスタイルが、おっさん接待としては受けるんだと思います。
でもこの手のやり方は古い。
海外ドラマだと「クリフハンガー」という手法があります。
主人公が崖からぶら下がった状態で、「つづく」と出すようなスタイルですね。ドラマによっては、これをエピソードどころかシーズンまたぎであります。
「ビル屋上から転落した彼の生死がわかるのは、たぶん3年後だよ」
とかね。それでもこれがおもしろい。姑息なことをやりおってと思いつつも、ついつい引き込まれます。
それに反して本作の緊張感のなさはなぁ……たぶん、これも視聴率対策かもしれません。
幕末というのは明るい時代ではありません。
明治維新がきっかけとなって人生終了、破滅、一家離散、没落した人は大勢います。
維新の勝ち組に入った人でも、危機感と切迫感をおぼえていました。仲間や家族、大事な人々を失わなかった勝者だっていないのです。
武士だけではなく、どの身分の人も江戸時代という社会システムのゆらぎを感じていたのです。
政治動乱だけではなく、災害や疫病も発生していました。
そういう暗さを近年の幕末大河で几帳面に描いたのは、『八重の桜』でしたね。
かけがえのない日々と慈しみつつも、じわじわと迫る危険性や切迫感を出していました。
その結果が「暗い」「負け組の愚痴見たくない」と言われました。
冗談じゃない、勝ち組だろうと暗いからこそ幕末だろう、と私は思ったものです。
黒船来航の政治的意味もやる気がない本作。
それよりも問題なのは、かつてあったいとおしい日常が壊れてゆく悲しみであり、そこから新たな出発を目指す、そういう幕末の意味や空気を軽視している点です。
前述の通り『八重の桜』のようなきまじめで暗い幕末ものは、敬遠されるようです。
しかし、私は常に明るく、にこにこ笑顔の若者が叫んでいるばかりの幕末明治維新のドラマなんて、まがいものだと思います。
そういうご都合主義の幕末青春劇を描きたいなら、フィクション寄りの別枠でやって、大河では扱わないようにしたらどうでしょう。
そもそも幕末大河はどう扱おうが人気のでない、コスパの悪い素材です。
『花燃ゆ』や本作と同じ轍を踏むのなら、あと10年、20年くらい幕末は封印してもらってかまいません。
次の幕末大河は明治維新200年のタイミングがちょうどよいのではないでしょうか。
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著:武者震之助
絵:小久ヒロ
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【参考】
西郷どん感想あらすじ
NHK西郷どん公式サイト(→link)等