ワットタイラーの乱を描いた様子/wikipediaより引用

イギリス

ワット・タイラーの乱は誰のせい? 英仏の長過ぎる百年戦争が招いた不幸

1381年(日本では南北朝時代・弘和元年=永徳元年)7月15日は、「ワット・タイラーの乱」で主導者の一人だったジョン・ボールが処刑された日です。

 


ペストで人が減り、税金も上げられ、もう黙っちゃいられない

この反乱は、百年戦争真っ最中のイングランドで起きたものです。

古今東西、戦争が長引けば長引くほど、自国民の首も締め上げられていくもの。
前線で使われる物資や人命のために、農業その他における国内労働者とお金が持っていかれてしまいますからね。

しかし、どこの王様も
「お金がなくなってきたな……よし、税金をもっと上げて、足りない分を補おう! ワシ天才!^^」
としか考えないものですから、当然、民衆からの恨みを買います。

特にこの時代のイングランドの場合、ペストの流行も労働力を減らす要因となっており、人手を確保するために農民から「移動の自由」を奪ったことも大きな要因でした。
要するに農奴制です。

こうなると農民たちも黙ってはいません。

ワット・タイラーの乱も、そうして起きた農民反乱のひとつでした。
乱の名前にもなっているワット・タイラーという男の出自や経歴は不明ながら、なかなかの求心力を持った人物だったようです。

ワット・タイラーの殺される様子/wikipediaより引用

 


過激な持論を持つ神父様 ジョン・ボールも立ち上がる

もう一人の主導者ジョン・ボールは割と過激な持論を持つ神父でした。

かつてはイングランドを巡回して「今の境界や政府は間違っている!」といった内容の演説をしていたといわれています。
やり方が上手ければ、彼がプロテスタントの創始者になっていたのかもしれませんね。

しかし、こんな演説が政府に睨まれないわけがなく、ワット・タイラーの乱が起きた頃は、彼も投獄されてしまいます。

反乱軍によって救出された後、ジョンはロンドンへ向かう前に演説を敢行。

「アダムが耕しイヴが(糸を)紡いでいた頃、誰がジェントリだったのか!」
と高らかに声を揚げて、大いに士気を高めたといいます。

ジェントリとは「正式な貴族ではないが、地元に権力を持つ大地主」といった感じの人たちのことです。日本語では「郷紳(きょうしん)」と訳されます。
「地主が権力を持ち、小作人をいじめる」なんてのは、日本史でもよくある話ですね。

ワットたちはイギリス南東部のケント地方から農民たちを引き連れ、なんとロンドンを占領してしまいます。
つか、ロンドンって、他国には落とされないのに、自国内の争いだと何回も陥落してるような……。

さらに、反乱軍は土地の証書を焼却処分するやら、教会のお偉いさんをブッコロすわで、さすがの国王も無視できなくなりました。

ジョン・ボール/wikipediaより引用

 


ロンドン市長が突然キレて、ワットを殺して反乱鎮圧

一通り暴れて気が済んだのか。
ワットたちは次に国王リチャード2世との謁見を求めます。

リチャード2世もこれに応じ、農奴制の廃止や、この反乱に参加した者への恩赦などの要求を飲もうとしました。

このときに反乱軍から離れた者もいたようですが、事件は2回目の謁見で起きます。

「教会が持っている財産を農民たちに分配してほしい」という要求がされると、この話をしている最中、王のかたわらに控えていたロンドン市長ウィリアム・ウォルワースが、突然ワットをブッコロしてしまったのです。

汚いとか何とか言ってる場合じゃないんですよね、こういうときって。

実際、リチャード2世は反乱軍の鎮圧と、首謀者の捕縛を急ぎ、ジョンも再び捕えます。
そして「首吊り・内臓抉り・四つ裂き」という過酷な刑を下します。

それぞれの刑の詳細は字面の通りというか、R18Gどころの話ではないのでここでは詳述しないでおきますね。ご興味のある向きはググる先生へお尋ねください。

ちなみに、1358年のフランスでも似たような経緯で「ジャックリーの乱」という農民反乱が起きています。
理由や経過、結末もだいたい似たようなものです。

こちらは農民と貴族の全面戦争に近い状態で、皆殺しをやった・やり返したという恐ろしい状態になりました。フランス史ってそんなんばっかですよね……。

こちらはジャックリーの乱を描いた様子/wikipediaより引用

一番ナゾなのは、英仏双方とも自国民に背かれて鎮圧する力はあるくせに、百年戦争がちっとも終わらなかったことですが。

手段と目的が入れ替わっている……というには、あんまりな話ですよね。

長月 七紀・記

【参考】
ジョン・ボール/wikipedia
ワット・タイラー/wikipedia
ワット・タイラーの乱/wikipedia
ジャックリーの乱/wikipedia


 



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