美しい姫君と、美しい王子が出会い、お互いに惹かれ合って結婚する――。
そんなおとぎ話のような話が現実にあったと言われたら、ウソだと思われますか?
時は15世紀。
舞台はワインの産地として名高いブルゴーニュ。
その地にあったブルゴーニュ公国の「美しい姫君」マリー・ド・ブルゴーニュと、ハプスブルク家から婿入りしてきた「中世最後の騎士」マクシミリアン(後の皇帝マクシミリアン1世)の結婚は、当時、地方領主だったハプスブルク家の躍進のきっかけとなり、ひいてはヨーロッパ史を大きく動かします。
1519年1月12日はそんなマクシミリアンの命日――政略だけではなく、愛情によっても結ばれた、二人の歴史を振り返ってみましょう。
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「我らの姫」「美しき姫君」と領民からも愛されて
15世紀、ブルゴーニュは、独立した公国でした。
フランドル(オランダ・ベルギー)をも含む広大な領土を持ち、ヨーロッパでも随一の洗練された文化を誇る大国として、栄えていたのです。
百年戦争の際にはイギリス側についてフランスと対立。
当時の国主フィリップ善良公は、ジャンヌ・ダルクを捕らえ、イギリスに引き渡しています。
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彼の孫にあたるのが、今回の物語の主人公マリー・ド・ブルゴーニュ(1457~1482年)です。
彼女は、1457年にブリュッセルで生まれました。
その美しさと優しさで、領民たちから「我らの姫」「美しき姫君」と呼ばれ、愛された彼女。
肖像画での淑やかそうな印象とは違い、乗馬やスケートなどスポーツを好む活発な面も持っていました。
イメージとしては、「深窓の姫君」というよりも、ディズニー・プリンセスに近いかもしれません。
公国唯一の後継者として、大切に何不自由なく育てられた彼女でしたが、1477年、事件が起こります。
父・シャルル突進公(テメレール)が、戦死したのです。
トップを失った国は混乱に陥ります。
そして、新たな国主となったマリーもその渦中へと、否応なしに巻き込まれていくのでした。
蜘蛛男・ルイ11世が強引に割り込んできた
強力なリーダーが突然いなくなると、国や組織の中で起きることはいつの時代も同じです。
まず国内では内乱が勃発。
さらに外では、公国を狙い、厄介な敵がここぞとばかりに動き始めました。
フランス国王ルイ11世(1423~83)です。
【遍在する蜘蛛】という「いかにも悪役(ヴィラン)」そうなアダ名を持つこの男は、息子である王太子シャルルを、マリーと結婚させることで公国を手に入れようと企んでおりました。
当時のシャルルは8歳。
対するマリーは20歳。
ルイさん……いくら何でも無理があるのでは……。
マリーも首を縦に振るわけがありませんが、それでもルイ11世はお構いなし。
自軍をブルゴーニュ領へと侵攻させ、さらには公国内の貴族たちを煽り、とあの手この手で仕掛けてきます。
結果、忠臣は処刑され、マリーは孤立状態へと追い込まれました。
どうする?
このまま蜘蛛男、もといルイ11世の要求を呑むしかないのか。
いや、希望は完全につきたわけではありません。
マリーには一人だけ、味方になってくれそうな人がいました。
「私には、婚約者ハプスブルク家のマクシミリアンがいる!」
そう、父シャルルが生前に決めた婚約者がいたのです。
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