牡丹亭

崑曲における『牡丹亭』/wikipediaより引用

世界史

牡丹亭とは一体何なのか?水都百景録で注目のイベント史実解説

2022年6月にLittoral Gamesより『水都百景録』がリリースされました。

そのイベント「牡丹亭」は、非常にほのぼのとした雰囲気で始まりながら、読み終えた人々は皆、暗い顔になってしまう――。

理不尽な展開に嘆き、怒り、涙する人が続出……って、これは一体どういうことなのか?

原典のあらすじと、作者・湯顕祖(とうけんそ)の生涯を辿りながら考えてみましょう。

※イベントクリア済みの方にお勧めします

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「牡丹亭」とは?

『牡丹亭』とは、中国のシェイクスピアとも称される湯顕祖(とうけんそ)の代表作です。

湯顕祖

湯顕祖/Littoral Gamesより(→link

海外では中国版『ロミオとジュリエット』と呼ばれることもあり、それは一体どんな話なのか?

ざっと、あらすじを見てみましょう。

時は南宋の時代――広州に柳という青年が住んでいました。

あるとき、彼は不思議な夢を見ます。梅の園に美少女が立ち、私たちは結ばれる運命だと告げるのです。これぞ運命と悟った彼は「夢梅」と改名し、運命の出会いを待つのでした。

そのころ南安太守の娘に杜麗娘という美少女がいました。

十六歳になった杜麗娘は何の不自由もないようで、自由に外にも出られない日々を送っていました。女子が外を出歩いてはならないと、籠の中の鳥のような生活を強いられていたのです。

裏庭にも行けない杜麗娘。親が留守の時に、そんな主人を憐れんだ侍女・春香が、裏庭の花園へ連れ出します。

さえずる鳥の声。咲き乱れる花。春の美しさを愛ながら、杜麗娘はため息をつきます。

「ああ、世の中にはこんなにも美しいものがあるのに、私は外にも出られない」

歩き疲れた杜麗娘は、うとうとして眠りに落ちてしまいます。

すると夢の中に一人の美青年が現れたのです。

たちまち惹かれあった二人は太湖石(中国庭園に置かれる観賞用の石)の影で甘い時を過ごし、結ばれたのでした。

なんとしても、あの若様に再会したい。そう悩む杜麗娘は、恋患いに罹ります。

このままでは命を落とすと悟った杜麗娘は、自画像を描き、その余白に詩を残すのでした。

娘を失った父・杜宝は任地が変わり、揚州へ向かうこととなりました。

引っ越すにあたり、杜宝は「梅花庵観(観=道教寺院)」を建て、陳最良と石道姑(道姑=女性道士)に娘の慰霊を頼みます。

それから三年――柳夢梅は科挙を目指し、旅に出ました。

そして南安で風邪にかかったところを、陳最良に助けられます。梅花庵観を散歩していた柳夢梅は、太湖石に埋められた肖像画を見つけます。

それは杜麗娘の自画像でした。

「なんて綺麗な娘さんだろう。お嬢さん、お嬢さん、結婚してください」

柳夢梅はその絵に語りかけるようになりました。

すると絵の中から美少女が出てきたのです!

「夢の中で私たちはお会いしましたね」

「ああ、そういえば!」

かくして再会した二人は逢瀬を重ねますが、柳夢梅は相手が亡霊とは気付きませんでした。

愛しあう二人。そんな中、杜麗娘はこのままでは中途半端だと悩み始めます。

実は杜麗娘は冥府で裁判を受けたものの無罪であり、とりあえず魂だけ先に戻されたのです。しかし、肉体は取り戻せていません。

「私は以前、柳郎(=柳の若様)に恋焦がれて死んだ。でも今は、柳郎のために生きたい!」

そう決意を固め、杜麗娘は遺骸の埋められた場所を柳夢梅に伝えます。柳夢梅は相手が亡霊だと知っても怖がりません。墓を暴くことを快諾しました。

正体は亡霊、しかも墓暴きは犯罪。それでも愛はそんな困難を超えたのです。

柳夢梅が石道姑の協力を得て棺を開けると、杜麗娘の生きたままのような遺骸が。そこへたちまち魂が入り込み、彼女は復活しました。こうして二人は結ばれたのです。

しかし、ここでめでたしとはなりません。

石道姑のもとで祝言をあげたあと、二人は南宋の首都・杭州へ逃亡します。なぜか? 墓を暴いたから。墓暴きは極刑ものです。

案の定、杜宝は激怒します。

「私の娘が生きていただと? 娘の墓暴きをした挙句、くだらん嘘をつきおって!」

かくして柳夢梅は投獄されて大騒動に。杜麗娘が父を説得しようとしていると、柳夢梅の科挙合格結果が届きます。

「えっ、きみ、科挙合格したの? 将来有望な若者じゃないか! いいね、私の娘婿にぴったりだ。娘と結婚しなさい」

かくして柳夢梅は釈放され、晴れて二人は夫婦となったのでした。

おしまい

 

いかがでしょう? 夢で出会い、死んでから生き返る――とは、なかなか荒唐無稽に思えます。

中国らしい特徴もあります。

親の許しを得なければ結婚できないこと。お嬢様だからこそ外にすら出られなくなった、そんな儒教規範に縛られた前提があるんですね。

人外美女との恋。白蛇、狐、そして幽霊と恋をする話は定番です。

はじめのうちは怪談としての側面や、美女に騙されないようにという教訓であったものの、時代が降ると変わります。

「愛があれば正体が何だろうとよいものだ!」

そんな恋愛を経て超えるべき属性となってゆくのです。

中国の幽霊はなかなか生々しく、子供までできることもしばしばあります。

そして最後は科挙でハッピーエンド。

たとえどんな困難があっても、とりあえず男性が科挙に合格すると、大団円を迎えます。

それだけ科挙は重要でした。

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杜麗娘:恋に生きた 積極的なヒロイン

こうした作品は、あらすじだけではわからない魅力があります。

まず圧倒的に素晴らしいとされたのが、杜麗娘の恋心です。

籠の中の鳥であった深窓の令嬢が、恋をした途端、積極的に困難に立ち向かってゆく。彼女を突き動かすのはその熱い心です。

そして動かされるのも、また心です。

杜麗娘が自分は幽霊だと告げても、柳夢梅は怯えない。

正体が何であろうと愛する心がある。そこに心を動かされるのです。

人が死んで生き返っていようとも、人が人を愛する心は変わりません。そんな情熱的な杜麗娘に観客は感情移入し、永遠に忘れられない恋する少女として愛でてきたのです。

世界無形文化遺産でもある崑劇において、杜麗娘こそ最高のヒロインとされています。

杜麗娘

日本人でもこの伝説のヒロインを演じた役者がいます。

坂東玉三郎さんです。日中夢のコラボとして、2009年に実現しました。

ひたむきな恋するヒロインは、時代を超えて人々を魅了するのです。

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