薄暗い室内に読経の声が響いている。
中央に白い布団が敷かれ、その周囲では、すすり泣く北条政子、難しい顔の北条時政……。
布団をめくると、横たわっているのは源頼朝。
「うわぁああああああああ……! 夢か……」
己の死を象徴する夢に、頼朝は悩まされています。
死の夢ばかり見ている頼朝
朝廷に食い込もうとする頼朝の野望は大姫の死により頓挫した。全てを思いのままにしてきた彼は今、不安の中にいる――。
建久9年(1199年)12月27日、頼朝に死が迫っています。
頼朝が頼ったのは弟の阿野全成。
今日も昨日もおとといも、毎日同じ悪夢を見ていると告げ、吉凶を尋ねると、全成も気にしすぎはよろしくないと前置きしながらコツを語ります。
当時の宗教観なども交えながら、少し考察してみましょう。
・そもそも「夢占い」ってどうなん?
夢占いは迷信である――。
実は中国でも魏晋時代、日本なら邪馬台国の頃から、すでに夢占いは廃れていました。それを頼朝に告げないのはよろしくありませんね。
・陰陽五行では相性のいい色と悪い色がある
それはそうですので、頼朝が司どる色も考えてみるべきでしょう。悪い色だけではアンバランスです。
・不吉な色は平家の赤
中国はじめ、東洋では赤はラッキーカラー。平家だからダメって、そういうもの?
・久方ぶりのものが訪ねてくるのはよくない
朋あり遠方より来たるまた楽しからずや。『論語』「学而」
大江広元がこの場にいたら論語を引用しつつ、否定しそうな気もします。
・昔を振り返る人に先を託す
これはよいとは思います。
・仏事神事を欠かさぬこと
仏教と神道が並行する。日本らしい実によい心がけだとは思います。ただ……当たり前のことでは?
・赤子を抱くと命を吸い取られる
大姫も同じことを言っていたけれども、嘘くさい。
とまぁ、全成のアドバイスは全体的に説得力が感じられません。しかし、
「他には! 他には!」
と頼朝が矢継ぎ早に鬼気迫る顔を向けてくるので、全成もたまらない。
ここでも大江広元あたりなら、なんとか言い抜けを考えそうですが、そうはなりません。お得意の祈祷をしないあたりが全成の気の小ささかもしれない。それでダメだったらどうしようもありません。
個性が埋没しがちな全成。
頼朝が重視していた陰陽道。
その要素を踏まえて、こんな興味深い描写にするのだから技巧が光りますねー。
しょうもないお笑いの場面のようで、当時の価値観や宗教観がわかる、かなり難しい場面。
阿野全成のキャラクターを引き出している新納慎也さんの、読経の声や筮竹の持ち方がいつも自然で、こういう場面に説得力を持たせるため、かなりの努力を要したのではないでしょうか。素晴らしいと思います。
ただ、全成の忠言もデタラメでした。妻の実衣(阿波局)にツッコまれて白状。赤い服はまずいと全成は妻に言いますが……。
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誰も信じられない
北条一門が相模川で供養することになり、一同が邸へ集まっています。
中には金剛から元服した頼時(のちの北条泰時)の姿も。比奈のことを「義母上」と呼ぶと、彼女は「姫でよいですよ、姫で」と苦笑しています。
「おかしいでしょう」と笑い合う義時の妻子。
それにしても、頼家も、頼時も、元服して烏帽子を被り、前髪をなくすと見た目がグッと締まりましすね。日本を代表する時代劇美男は、やはりこうでなくては。
一方で、頼朝は人間不信の極みにおりました。
「近頃は誰も信じられん。比企のこともある……」
頼朝は気づいてしまった。源範頼を焚きつけたのは比企だと。もう誰も信じられんと安達盛長に嘆いています。
と、そこで千葉常胤と土肥実平の来訪が告げられました。
久しぶりに会う者は不吉……それを思い出し、追い返そうとする頼朝。あの二人がそう簡単に引っ込むでしょうか。
さて、頼朝から信じられていない比企能員は、今日も自身の権力強化に余念がありません。
頼家の息子・一幡が生まれたからには次の鎌倉殿のことを考えた方がよいのでは?と外戚の地位を確実にするため、周囲の説得に取り掛かっています。
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大江広元は源氏の血筋で継がせていくと確認。となると次は若君(頼家)であり、その次は一幡であると、すかさず能員が強調します。
堯舜のように政治は徳が高い人がやるべきであり、吟味を重ねた方がいいと言うのは三善康信でした。
堯舜とは古代中国の聖なる君主です。一人ではなく、堯と舜の二人。後に北条泰時が「堯舜のようだ」と評されることとなります。
能員は、そんな康信の発言にムッとして、一幡様は徳が低いのか?と言い出します。慌てて鎌倉殿はまだまだお元気だから、時をかけて考えるべきだと言い直す康信。
それでも能員は、お元気なうちに決めておいた方がよいと言う。
国家の基礎が危ういとわかる会話です。
確かに、人はいくら元気でも、いつ何が起きるかわからない。後継者は順位付きで決めておくと後難を防げます。
例えばイギリス王室では王位継承順位が数百人単位で決められています。あの王室が盤石とされるのは、それだけ後継者が多いからなんですね。
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一方で、鎌倉幕府の源氏将軍は、あまりに先が見えません。
孫の代まで大勢いるようでなければ危うい。来年の徳川大河になれば、武家でも安定感が出てきますね。
三善康信の発言に対しては、他ならぬ頼朝も絡んできて、「わしに早くあの世に行けと申すか!」と怒っております。
すると一転、態度を変えるのが権力コバンザメの比企能員。
三善康信を裏切るようにして、今決めることではない、吟味を重ねると言い出すのでした。
比企の台頭に焦るりく
りく(牧の方)がイライラしています。
夫の時政に「御所に行かないのか?」と問い詰めると、「呼ばれていない」とか。
なぜ呼ばれていないのかとりくが聞くと、時政は双六をしながらこうきた。
「役に立たねえからじゃねえか」
りくはその双六をひっくり返す。
彼女は比企の台頭に焦りを感じているのでした。
一幡の母は比企能員の娘であるせつ! このままでは乗っ取られる!
そんな危惧感を募らせています。
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能員が「次の鎌倉殿を決めたい」と野心をギラつかせていたのもそのせいですし、気持ちはわかります。
それでも時政にとって、頼朝は北条の婿だし、あの方が急死しない限りは安泰だとのんびり。
「それでよいのですか!」
イライラを募らせるりくに対し、鎌倉では義時の異母弟である北条時連(北条時房)が、これまたノホホンと伊豆から届いた鬼灯(ほおずき)を抱えています。
頼朝の部屋が暗いからそこに飾って――姉の政子からそう指示される時連ですが、おっとっと、「赤が不吉」だという情報は共有なされていないのでしょうか。
なんでもこの二人、訴訟で有利な結果が出たことに喜び、お礼を言いにきたのだとか。
愛嬌たっぷりの御家人おじさんたち。
ポイントは、訴訟で土地の分配や権利を決めている点でしょう。
中世は暴力的な時代であり、何かあると殺し合いで決着というようなこともありました。【曽我事件】の発端である曽我兄弟の父の死も、その一例ですね。
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しかし、それではいけない、話し合いで決めるべきだ――として幕府が裁定を下すようになりました。
といっても、時代はまだまだ中世であり、トークスキルや印象によって決まってしまう傾向があったのです。
道理を聞いて吟味して、判定が下されるのは、北条泰時の統治まで待たねばなりません。
話が先走りましたが、武力ではなく統治能力が頼朝によって持ち込まれ、それが御家人を安堵させていたことにご注目ください。
この先何があっても、新たな天下という土に鍬を入れ、種を蒔いたのは、この頼朝なのです。
噂を流したのは時政だった
義時と時連が鬼灯を飾っていると、頼朝がやってきて、突如、怒り始めました。
「これはなんだ!」
伊豆から大量に届いたと説明する時連。頼朝の耳には鈴の音が聞こえています。
と、そこへ頼家が来ていると告げられます。いったんは追い返せと怒鳴るものの、頼家には会うと言い出す頼朝。
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頼家は我が子・一幡を見せにきました。
そこには比企一族もいます。
能員が、一幡は足が太いから大きくなられるってよ。赤ん坊を抱いているせつの無邪気な笑顔がなんとも痛々しく思えます。
頼朝は赤ん坊は命を吸い取るという全成の言葉を思い浮かべながら、抱くことは断ろうとします。しかし……。
「是非とも抱いてくださいませ!」
「是非是非!」
今日はいいと断っても、しつこく勧められます。そりゃあ初孫ですからね。
義時と時連が鬼灯を片付けているところへ、時政が来て「比企の奴がうまくやりやがった」と毒づいています。
すると義時は声を顰めつつ、実はそうでもないと父に告げる。
頼朝は比企を警戒しているとか……時連が蒲殿の件だと付け加えます。何者かが流した噂を頼朝が信じている。
その噂を流したのは、なんと時政でした。それもあってか、比企を頼家の正室にしたがっていないとか。
時政は大したものですね。【曽我事件】でかけられた疑惑を晴らすのであれば、別の方向へ頼朝の目線を向けたらよい。一石二鳥のよい策を思いついたものです。
本人が考えたのか、それともりくが吹き込んだのか。手強い人物となったものです。
と、ここで頼家が義時を呼びに来ます。
なんでも他に妻にしたい女性がいるとかで、せつを妻にする気はないようです。それで子を為したのかーい。
頼家が心惹かれているのはつつじという女性らしいですが……それにしても、なぜここに三浦義村がいるのか。
為朝の孫つつじ
頼家が思いを寄せるつつじ(辻殿)という女性は、三河武士・賀茂重長の娘だとか。
賀茂重長と三浦義澄が若い頃の戦友で、義村が間を取り持ったようです。
しかも、つつじはあの源為朝の孫といい、源氏の一門だということに義時も驚いています。
源為朝は伝説的な強さで知られる頼朝の叔父です。
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今後の展開がおぼろげながら浮かんできました。
つつじと取り持った縁もあり、実朝暗殺に義村も関与するか。あるいは【曽我事件】の時政のように、義村が暗殺事件に絡んでいるように思えるようにするか。そんな伏線ではないでしょうか。
結局、頼朝は孫の一幡を抱いています。
そして心が和らいだのか、比企尼にもお元気そうで何よりだと話しかけるのですが……。
「まだお怒りですか……お怒りのようだ。なんです? そのまるで永遠(とわ)のお別れのようなお顔は」
比企尼はじっと無言で座っています。
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頼朝は怯え、仕事があるとその場を立ち去る。
と、比企尼は眠っていただけでした。最近はどこにいてもすぐ眠ってしまうとか。
「あ、佐殿は」
そう言いますが、行ってしまったあとです。お話したかったのに、そう悔やむ比企尼です。
頼朝は相当自信を失っています。
傍若無人ならば、年老いた尼になんて怯えない。冷静になれたら、居眠りに気づけたかもしれない。
結局のところ、彼は自分自身の恐怖を相手の中に見てしまい、怯えているのでしょう。
苛立ちながら部屋を出てきた頼朝に、義時が「頼家の妻」のことを話します。
なんでも頼家と相手のつつじは、すでに夫婦の契りを交わしているとか。
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なんでもっと早く言わないんだ!
と、ますます苛立つ頼朝。
安達盛長も、これでは比企が黙っていない……といささか焦っています。
それでも頼朝は、為朝叔父の孫だということに浮き立っている。
まことならまさに好都合! その娘を正妻にし、比企の娘を側女にする!
盛長から、それでよいのかと念を押されても、頼朝は源氏の血筋を振り翳し、文句を言わせないつもりのようです。しかもこうきた。
「女好きは我が嫡男の証! 頼もしいぞ!」
おいおい。弓術はダメ。『貞観政要』読解でも北条家の頼時に水をあけられている。そこだけ強者であることを証明してどうなるのか。
血筋だけ重視するなら、そういうものかもしれませんが。
比奈に向かって「八重さん」
時政の婿となった畠山重忠が、北条家の集まりに来ております。
なんでも3年前に病死した時政の四女・あきの供養のため、夫の稲毛重成が相模川に橋をかけたのだとか。
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江戸時代には東海道が整備され、相模川を渡るルートがありました。しかし幕府は橋を架けず、渡しが用意されています。
重成は人々の生活を豊かにする橋を架けることで、妻の成仏を願ったのでしょう。
民の感謝の念が妻に伝わって功徳が生まれる。そんな気遣いです。
頼時がキラキラとした目で「御家人ランキングを作っていた」と重忠に語りかけます。
腕っ節は和田義盛。
知恵は梶原景時。
人と人を結ぶ力は北条義時。
そして全てを兼ね備えているのは畠山重忠。
そう告げられても重忠は素っ気なく話をかわします。謙虚ですね。
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稲毛重成は立派な橋ができた、あきも喜んでいると涙すら浮かべています。
比奈がここでりくに「さあ義母上も」と声をかけますが、義母上と呼ばれたくないと冷たく接するりく。
政子は「また始まった」と呆れつつ、比奈は北条と比企の架け橋だと嗜めます。
ここで時政がさらにやらかす。
「飯の支度はできてるかな。腹ぺこなんじゃ、八重さん」
時連が焦って八重さんではないと訂正するけれど、余計に傷つけてしまうパターンのやつや。ったく、時政めぇ、何をしているんだ!
義時が小声で「すまん」と比奈に詫びています。
彼女はムッとすることもなく、「雛遊びの雛のようにかわいい比奈♪」と名乗っています。傷付いてはいるのだろうけれども、彼女なりの心遣いですね。
方違えの末に義盛邸へ
梶原景時を呼び出し、相模川へ向かうから留守を任せると告げる頼朝。
取り越し苦労であればよいと前置きしつつ、こう付け加えます。
「わしに何かあった時は頼家を頼むぞ」
景時は身命を賭して守ると返事をしますが、なかなかに切実なものがあります。
彼は上総広常の粛清をはじめ、御家人の恨みをかうようなことを散々してきました。
こういう懐刀は、庇護する主君がいなくなれば脆い。すかさず頼家に取り入らねば、次なる政争に敗れて破滅が待っています。
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相変わらず死への不安に怯える頼朝は、相模川へ向かうにも縁起を担ぎ、「方違え(かたたがえ)」をしてから現地へ向かうことにするようです。
では、どこに立ち寄るのか?
なんでも北側に六国見山の側に和田義盛の館があるそうで、家人から側女になった巴が住んでいるとか。
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いざそこへ向かうと、義盛が「このような格好で」と慌てながら頼朝を出迎えます。
あの粗暴だった義盛も身なりを気にするようになりました。
さらに巴にも顔を見せるよう説得にかかっていますが、頑として拒みます。
木曽殿を討ったのは義経であり鎌倉殿ではないと義盛が説得しても、命じたのはあの方だと巴は頑として譲りません。
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義盛邸を出た頼朝一行を待ち受けていたのは、八田知家でした。
道を塞ぐようにして、土木工事をしていて、ここは通れないと安達盛長に告げています。
知家は土木工事が得意なようで、以前も鎌倉の整備で出てきましたね。こういう人は実に役立ちますし、自ら汚れることを厭わない将っていいですよね。
しかし頼朝は動揺し、何かの罠かと疑い、和田の館へ戻ります。
巴に謝罪する頼朝
先週あたりまで顔が禍々しく、人相が悪かった頼朝。
今週は邪悪さは薄れ、代わってか弱さが目立つようになり、生命力が消えつつあるとわかる顔になっています。目の下の隈なんて見ていて怖いほど。
結局、戻ってきて、義盛に頼まれて渋々と巴は顔を見せます。
頼朝は目を潤ませつつ、こう謝ります。
「義仲殿にはすまぬことをした あの時はああするより他なかった」
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「遠い昔の話にございます」
「義仲殿もわしも平家を討ってこの世を正したいという思いは一緒であった。すまぬ」
「義仲殿もその言葉を聞いて喜んでいることと思います」
「そなたの顔を見ていると、あの時を思い出し無性に謝りたくなった……いかんわしは何を言っているのだ。振り返ってはならぬのだ! 戻ってきたのはまちがいであった。もうよい、別の道を行く」
頼朝はそう言い出しました。
この言葉は巴だけでなく、大姫が聞いても喜ぶことでしょう。
思えば義仲を討ったせいで、その子である木曽義高も討たねばならなくなり、大姫がそれで病んでしまった。
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源氏一門の血を討ち、頼朝は命運を縮めてきました。
先週は比企尼に、情けを捨てて命を繋いできたと言い切った頼朝。今の彼はそんな強さはなく、迫り来る死の影から逃れるしかないのでしょう。
丸餅を作るシーンにも各キャラの個性
読経を聞いている北条一族のもとへ、ようやく頼朝が到着しました。
なんでも伊豆にいた頃のように、丸餅をこさえているのだとか。頼朝はいつも欠席していたそうです。
やられるか?と聞かれると、風に当たってくると言い、その場を立ち去ります。
比奈と政子が餅を作り、それに酢をかけて食うと笑みを浮かべる時政。
ここで、ちょっと食べ物のことでも。
当時の餅は丸めます。餅は四角いという印象を受けるとすれば、それは技術が進歩した時代だから。餅を切るためのまな板にせよ、包丁にせよ、それを作る技術が必要です。
丸めるほうが原始的です。
お雑煮の餅の形も、切り餅か丸餅かによって差があります。
味付けの醤油と味噌にも差があり、「切り餅と醤油」の組み合わせの方が江戸時代の最先端トレンドです。
参勤交代をする過程で、大名が「江戸の最新トレンドだぞ!」と切り餅醤油を持ち込んだと言われております。
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そして時政が言っていた“酢”なんですが……。餅に酢って他にどうにかならないの? と思われるかもしれません。
残念ながら、これがなりません。
甘い餡はこれから先のこと。濃い甘さというのは時代が降らねば出てこないものであり、それ以前は干した果物が最も甘いものでした。
干し柿こそが和菓子の元祖だという話もあるほどで、京都ならまだしも、坂東でのデザートは桃などが最高の贅沢です。
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そんな丸餅を皆で揃って作る北条一族。
時連がうまくいかないと拗ねている側では、ちえが嬉しそうに夫・重忠の器用さを誇っています。
さすがオールマイティ、坂東武士の鑑。重忠は餅まで綺麗に丸めていました。
先程、重忠を褒め称えていた頼時も、さすが餅を丸めるのまでお上手だと感心しています。
頼時はおべっかを使うタイプではなく、素直に人の長所に感心できる性格のようです。将来が楽しみですね。
頼時こと北条泰時は「嫌味なくらいいい子だな〜」と後世にも思われるほどで、その性格の良さがもう発揮されていますね。
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一方で甘えん坊なところが抜けない時連は、頼りないようでキラッと光る鋭さがあるところがおもしろい。
そして比奈に誘われたりくは手が汚れると断っている。
笑えるコメディパートのように、ほのぼのとしているようで、各人の個性が出ていますね。
「意気地なしが、ふたり小さな盃で……」
りくは餅を丸める場から去り、頼朝の元へ。
安達盛長に目配せし、りくと二人きりになる頼朝。久しぶりに会ったと頼朝が微笑むと、りくは艶然と微笑みこう言います。
「嫌ですわ、初めてでございますよ」
「そうであったか」
りくも京育ちで、話が合うと思っていたと語りかけます。
頼朝もこれには同意。
鎌倉殿はいつになれば京都へ戻るのか?と彼女が問いかけると、頼朝が力なく返します。
「そう思ったこともあった」
しかし朝廷はいつまで経っても我らを番犬扱いをする。顔色を伺いながら向こうで暮らすより、この鎌倉を京をに負けない都にするのだ。
大姫の入内が水に流れ、野心は消えてしまったよう。確かに、娘を入内させて孫を天皇にするのは平清盛と同じ道でもあります。
すっかり大人しくなってしまった頼朝に対し、りくは「日本一の軍勢を持つからには朝廷に言うことを聞かせられるはずだ」と引き下がりません。
それでもそう容易くいかんと返す頼朝に、ついにはこんな言葉を投げつけます。
「臆病なこと。野山に鹿を追うのに脚が汚れるのを嫌がる犬のよう」
京都人らしく言い募るりくに、頼朝は疲れたように返します。
「都人は脅しだけでは動かぬ。あなたもご存じではないか」
そんな頼朝に、そっと手を重ねるりく。
「りくは強いお方が好きなのです」
政子が見たら、時政が見たら、激怒するであろう場面がここに……。なんとおそろしい妖婦なのでしょうか。
と、りくの恐ろしさを愛でることも楽しいのですが、あの餅を丸めていたまだ無邪気な頼時と時連を思い出してみてください。
彼らは並んで京都に攻め上り、朝廷をも屈服させます。上の世代がどうにもできなかったことを、彼らはやってのけるのです。
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時政はわしのことをどう思っているのか?
わしを殺して鎌倉殿になろうと思っていないのか?
頼朝がりくにそう尋ね、
「そんなだいそれたこと、考えてくれたら嬉しいのですが」
と、彼女が返すと、時政が酒を持ってきました。小さな盃しかなかったとか。
「意気地なしが、ふたり小さな盃で……」
嫌味をいうりくに、時政は「これしかなかった」と少し語気を強めます。
もっと大きいのを探しに行こうとする時政を止め、言いたいことがあれば申せと頼朝が促すと、そんなものあるわけないと言う。こんなにいい思いをさせてもらっているのだから。
そして餅を勧めます。
時政は政子に感謝しています。いい婿と縁付いてくれた。これは本音でしょうね。
しかし、餅を食べながら語りあっていると、頼朝が喉に餅を詰まらせまてしまいます。
うわっ、どうすりゃいいんだ!と焦っていると、政子たちが合流し、義時が背中を叩き、ようやく餅が出てきます。
「死ぬかと思った……」
頼朝を殺しかけた餅は、五郎(時連)が作ったカタチの悪いものでした。
大御所になり交易に力を入れるか
餅を喉に詰まらせたときに時政がいなかったらどうなっておったか……。
頼朝がしみじみと語ると、「父はいざという時役に立つ」と政子が返す。夫婦は二人で語り合います。
政子は義時から、頼家がつつじを妻にすると聞いていました。せつは側女にする。
と、そんな大事なことを勝手に決めたと政子が言うと、「すまん」と謝る頼朝。いつものことだと政子は言います。
頼家もまだまだ子供と思っていたら、妻と側女を置くなんて、女子に手が早いのは親に似たのかとなるわけです。
とはいえ、そうでなければあなたと結ばれなかったと政子もまとめます。
「悔やんではおらぬか」
「それはわかりません。でも退屈しなかったことは確か」
頼朝は、なぜそうやってしみじみするのかと言います。しみじみするのは苦手とかなんとか……夫婦で何度も「しみじみ」を重ねる軽妙なやりとりを続け、笑い合う。
このあと頼朝は、北条政子と北条義時を前に、頼家のことを言い聞かせます。
源氏は帝を守る武家の棟梁である。頼家は、義時がそばにいて支えよ。政子は鎌倉殿の母として頼家を見守って欲しい。
さらに頼朝はこうも付け加えました。
「お前たちがいれば、これからも鎌倉は盤石じゃ」
まるでご自身がどこかにいかれるようだと言われ、大御所になると答える頼朝。
そこで何をするのか?と問われると、どこぞの入道(清盛)のように唐(宋)との交易にでも力を入れるかと言い出します。
大御所というのは、院政からヒントを得た発想でしょうか。
清盛を否定していたのに、娘を入内させ、日宋貿易に尽力したい――とは、結局、清盛と同じ道を辿ることでもあり、それが頼朝という人物でした。
そして頼朝は義時を二人きりになり、悟ったように本音を吐露します。
「人の命はさだめられたもの。抗ってどうする。甘んじて受け入れようではないか。受け入れた上で好きに生きる。神仏に縋って怯えて暮らすのは時の無駄じゃ」
「それがようございます」
「神や仏には聞かせられぬ話だがのう」
「鎌倉殿は昔から、私にだけ大事なことを打ち明けてくださいます」
しみじみとそう語る義時に向かい、頼朝は疲れたから先に御所に戻ると言い出します。
さらには、久々に一門が揃ったのだからゆっくりしていけと義時を残し、盛長を呼び出すのでした。
馬上の頼朝、倒れる
安達盛長が森の中で馬を引いています。
高い木がたくさんある森の景色。圧倒的に美しく、非常に日本らしい景色ではありませんか。
海外のドラマ、特に時代劇ともなると、その国らしい風景が出てきます。
壮大な黄河の横に立つ中国ドラマとか。ドーバー海峡の白い崖が見えて、これでイングランドに戻ってきたと人々が言う英国ドラマとか。
では日本らしい場面って何か?
高い木が聳え立つ山道を馬で歩いていく――そんな景色そのものだと思えました。
盛長は、頼朝の馬を引きながら、伊豆ではいろいろあったと振り返ります。
阿野全成の言葉をスッカリ忘れたのでしょうか。過去を振り返ることも気にしなくなったようです。
逆に、盛長が気づいて詫びると、好きなだけ振り返れと返します。
しかし、いざ振り返ろうとすると出てこない。
頼朝はしみじみと、盛長といると心が落ち着くと話しかけます。
家族がおらず、新たな家族を求めていた。黄瀬川で義経と再会して号泣した。
そんな頼朝はここにきて、いつもそばにいた家族以上に家族らしい盛長に気づいたかのようにも思えます。
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「何よりのお褒めの言葉にございます」
盛長が主君の言葉にじんわりしています。
さらに言葉を続ける頼朝。
「初めて北条の館に来た時……」
と、そこで身体が震え始めると、鳥の声がざわめき、鈴の音が響き、馬から落ちてしまいました。
「鎌倉殿!」
盛長が驚きます。
北条一門の中にいて何かハッとする政子。
それに気づく重忠。
廊下を歩いていて何かを察知する頼家。
義仲への思いから解き放たれたように、義盛と口づけ寸前だった巴。
馬に乗り、野をゆく三浦義村。
ふと上を見上げる大江広元。
何か気配を感じたような梶原景時。
ごろりと寝転がっていた比企能員。
しずしずと歩くりく。
小さな祠に手を合わせている義時。
「佐殿!」
倒れ込んだ頼朝に、鎌倉殿ではなく、そう呼びかけてしまう盛長。
そこには陰謀にまみれた鎌倉殿の顔はなく、あの茶目っ気があった佐殿の顔があり、地面に横たわったままでした。
MVP:源頼朝
天命を悟った頼朝。
それは本人より先に、石橋山の戦いで、梶原景時がそうしたようにも思えます。
しかし皮肉にも本人が明確に感じたのは、むしろ天の庇護を失いつつあった【曽我事件】のあとから。
それに抗っていたころ、大姫の死のあたりでは目がぎらつき、邪悪そのものだったのが、今週はスッカリ毒気が抜けていました。
その毒の源泉は何か?というと、やはり京都産のように思えます。
最後の最後になって、りくに京都育ちだと語り掛けられる頼朝。
確かに京都育ちだと感覚としてはわかっているけれども、坂東に来て距離を取ることで、京都の様々な面を理解できるようになったように見える。
頼朝は、京都人としてのアイデンティティではないものを追い求めていたのでしょうか。
伊豆のことを語りだす。佐殿のころ。あれが彼の本質で、最後になってそこまで戻ってきたようにも感じるのです。
野心を募らせ、大姫入内を企んでいた頼朝。
死への恐怖を感じ、何もかもに怯えていた頼朝。
死への恐怖を克服し、穏やかな原点に戻ってきた頼朝。
繊細なグラデーションみたいな感情を、大泉洋さんが表現していて素晴らしいと思えました。
むろん、彼一人の力ではなく、脚本の三谷氏、そしてスタッフのみなさんと共に作り上げていったのでしょう。
頼朝には名場面がたくさんありました。
政子との恋。
黄瀬川での義経との再会。
弟を追い詰める冷酷さ。
義経の首桶を抱いて号泣する姿。
そんな“動”だけではなく“静”もきっちり見せてくる、細やかな頼朝。天が望んだ男でした。
総評
天命とは何か?
頼朝はそのことを考え出し、迷走していったようなここ数回。
頼朝は天命は何かを考え続け、天地も大事だけれど、人そのものも尊いというところに落ち着いたように思えました。
人としての自分には為すべき使命があった。
天から望まれて、果たさねばならないことがあった。
でもそれをもう終えたなら、好きな自分に戻ってしまおう。
天からそう離され、地面に落ちたような最期でした。
頼朝の死は落馬とされています。
昔みた子供むけの挿絵か漫画か、その印象が私にはありました。
竿立ちになった馬から派手に振り落とされ、橋の上で頭を激しく打ったイメージです。
馬はなかなか高さがあるので、そういう落ち方をすると危険。特に走行中の落馬は頭蓋骨が砕けることもあるとか。
本作では、そういうイメージを覆す静謐な死だからこそ、天命を拒んでの死という絵になって美しかったと思えます。
そして、天命は残酷だということも伝わってきました。
頼朝を手放して死を選ばせた天命は、次の誰かを選び、すでに掴んでいるのでしょう。
静かに響く鈴の音は、その象徴のようでした。
天地は仁ならず、万物を以って芻狗(すうく)と為す。老子『道徳経』
天地に優しさはない。ありとあらゆるものを、使い捨ての藁の犬細工のように扱う。天地はある意味公平で贔屓をしないのだから、あるがままに生きたらいい。
こういうことを踏まえますと、あの鈴の音を聞くラストの場面がますます恐ろしく見えます。
今週は軽快なコメディタッチのようで、騙し絵のような回でした。
見方を変えれば同じものでも、おぞましくも見え、無害にも見える。そしてその意味では人が最も恐ろしい。
天命を受け取った人物は、もう該当者が見えてきています。
三善康信は「血筋ではなく堯舜のような君主を時間をかけて選ぶべき」とする理想論を語りました。
これは北条泰時に当てはまる要素です。
源氏の血は引いていないけれども、堯舜の再来のような人物とされます。
泰時は、『草燃える』では頼朝の子とも取れる誘導がなされていました。鎌倉幕府の頂点に立つ正当性として、頼朝の血を用いたように思えます。
今年はそれを否定して、血筋より資質あるものに天命が降りてくるように思えます。
義時が頼朝を殺したのか?
ふと見かけた考察で興味深いものがありました。
・義時だけ鈴の音を聞いていない
・義時が頼朝を毒殺した
というもので、具体的には「喉が渇いた頼朝に、義時が水筒を渡したとき、毒があった!」というものです。
義時だけが頼朝の死を知っているからこそ動揺しないし、鈴の音も聞こえない。
なるほど、と思わず納得しそうになる推察です。
しかし、冷静になって考えてみると、なかなか成立が難しい推論でもあります。
理由をざっと挙げてみましょう。
・水に毒を入れると高確率でわかってしまう
無味無臭の毒はありがたいことにそうそうありません。
味が濃いもの、泥酔状態といった条件付きでないと、毒は口にした瞬間に吐き出してしまう。
水筒に毒は良い手段とは言えません。
・毒殺は確実性が低い
毒の致死量は標的の体質や体格でによって変わります。
成功率も意外と低いので、確実に仕留めるのであれば善児のような刺殺あたりがオススメです。
・同行者(安達盛長)がいる
同行者がいると、毒を吐かせる可能性が高まります。
確実に仕留めるなら、単独になるときを狙うべき。
・状況的に疑いがかかる
水筒の毒が死因と判明したら、義時まで簡単に辿れてしまい、一気に窮地に陥ります。
・動機がない
そもそも頼朝の死は、義時にとって利益はありません。怨恨もない。
今の義時は腹黒いので、大してメリットもなく、自らの危険性が高まる手段などまず取り掛からないでしょう。
大泉洋さんもどす黒くなっていきましたが、最近のビジュアルイメージで見せる小栗旬さんの顔も黒光りしてきて素敵です。
一方で、坂口健太郎さんの北条泰時は白く輝いている。
頼朝の退場後も、ロスだのなんだのいう暇がないほど盛り上がりそうですね。喜ばしいことです。
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【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト



























