牡丹亭

崑曲における『牡丹亭』/wikipediaより引用

世界史

牡丹亭とは一体何なのか?水都百景録で注目のイベント史実解説

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中国古典文学のお約束で読む「牡丹亭」

オリジナル版とゲーム版では異なります。

「あの伝説の名作が生まれた背景には、こんな物語があったのかもしれない……」

そんなコンセプトですので、異なる部分は多い。

以下にピックアップして参りましょう。

・ヒロインの境遇

戯曲では深窓の御令嬢である麗娘。それがゲーム版では貧しい家庭の養女です。

そこまで違いはあっても、結婚は親の決めることであり、籠の中の鳥のような運命であるところは一致します。

・ヒーローの境遇

柳夢梅と湯顕祖は、科挙を目指す文人であるところは一致します。

ただ、そこまで貧しいわけではなく、代々科挙受験ができるだけの財力はあった。

祖父と父は科挙に合格できなかったものの、湯顕祖は突破しました。一族のエースです。

・ドケチな杜夫人

この物語での悪役であるドケチな麗娘の養母・杜夫人。

口うるさく、やたらとガミガミしていて、がめつい。悪知恵が回る。こうした女性は中国古典では典型的な像と言えます。

ただの悪役とも限らず、金を掴ませれば縁結び役になることも。捕り手の王にとっては、そんな存在です。

・女児なんているだけで無駄とされた時代

麗娘をこき使っているくせに、養育費がかかって無駄だと言い募る杜夫人。

女性の労働には価値が見出されず、嫁ぐ時には持参金がかかるうえに、所詮は家を出てしまう。ドケチな人にとっては育てるだけ無駄だと思われていた証拠です。

明代は「溺女」と呼ばれる女児の間引きが横行していました。

そのため特に都市部では男女比が偏っていたのです。

麗娘の境遇は、明代の貧しい女性の境遇そのものといえます。住民の女性も、幼い頃に捨てられた背景を持っていることがあります。

彼女はゲームのキャラクターですが、貧しい女性というだけで価値のない存在とされ、自由もなく、語ることもできなかった人々は歴史の中にたくさんいます。

そんな存在に声を与えることも、物語の持つ力でしょう。

英雄だけが歴史を紡いできたわけではありません。

 

遊ぶことで中国史の勉強もできる

・「お兄ちゃん」って呼んでいい?

仲を深めていく中、麗娘は湯顕祖を「お兄ちゃん」と呼びます。

親しいけれど、まだ許嫁ではない。そんな距離感のある呼び方です。

・役人が横暴

捕り手の王は権力を傘にきて横暴ですが、これもお約束の造形といえます。

・贈り物を交換したならば婚約だ!

思いの証に何かを交換することはよくあります。とはいえ、杜夫人の場合は言いがかりです。

そうといえなくもないけど無理矢理。そんな範囲での無茶振りをしています。

・赤い婚礼衣装

中国での祝いの色は赤。赤い婚礼衣装は時代劇のお約束です。

・大明律で棒叩きだ!

湯顕祖を棒叩きにするかしないかで揉めています。

棒や鈍器で打つ刑罰は中国の定番。時代によって打ち方は異なるものの、一度や二度ならばともかく、10回を超えたら命の危険があります。

打たれる側の体力にもよりますが、かなり危険です。

そう調整できるために、死刑ではないとみせかけ、棒打ちで殺害を企むことも、悪役あるあるといえます。

「何十回も打たれたら死んでしまう!」と焦る場面は定番です。

・銀

ゲームでの通貨は銅銭です。明代は銀が流通していました。

銀錠(ぎんじょう、元宝、馬蹄銀とも)と呼ばれる通貨は現在でも縁起物として好まれ、アクセサリーやインテリアにも用いられます。日本における小判のような扱いです。

銀は柔らかいため、削り取ったものや欠片でも通用します。

湯顕祖はなけなしの銀のかけらを杜夫人に渡します。

渡した側にとってはかきあつめた銀でも、ドケチな相手からすれば「なんだい、これっぽっちか!」となる。銀はそんな扱いをされます。

日本のゲームではあまりない展開をし、かつほのぼのとした世界観のため、衝撃が大きい展開。

しかし、中国古典文学のお約束をふまえていると、うっすらと嫌な予感が漂っている展開です。

中国と日本での反応の違いも興味深いところ。

中国ならば「古典で習った展開だ」となってもおかしくありません。

遊ぶことで中国史の勉強もできます。華流ドラマが大流行している今、ゲームで学べばより楽しくなることでしょう。

次の蘇州イベント実装を楽しみに待ちましょう。

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文:小檜山青
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【参考文献】
井波律子『中国文章家列伝』(→amazon
井波律子『中国の隠者』(→amazon

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