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【湯顕祖】
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妥協を許さぬ戯曲家として生きる
彼の作品は当時からこう言われていました。
「脚本として読むにはよいけれども、上演するとなると複雑過ぎるなぁ……」
歌詞にするにはあまりに繊細で複雑で、歌声にしようとすると喉が潰れると懸念されてしまったのです。
該当箇所の変更を打診されても、湯顕祖は頑として断ります。
「私の意図を伝えるためならば、役者の喉が潰れてもいい」
「原本で上演すること。改変は許さん!」
と、かなりの強気で押し通した結果、戯曲も役者も高評価を得るようになります。
杜麗娘を演じるのであれば、役者は高難易度の歌をこなさねばならない。ゆえに演じ切ればあっぱれ! そう称賛されたのですね。
頑固で妥協を許さない――その結果、湯顕祖は中国を代表する戯曲作家として名を残したのでした。
心の美しさを愛し生きる物語を描く
『水都百景録』では、特殊住民(キャラ)に「天賦」という特性があります。
いわば特殊能力なのですが、ゲームシステム上の機能よりも、各人の性格や歴史的な事実に基づくことが多い。
そのため、いくらランクが高くとも「天賦」が使い物にならない特殊住民もいます。
このゲームでガチャに注ぎ込むことはあまりおすすめできません。
ゆったり楽しむのが良いでしょう。
湯顕祖の「天賦」は「清廉」です。
作業の際にかかる費用を節約する堅実なもの。これは史実での彼の性格に合致します。
清廉だったからこそ、悪政に我慢できず、官を辞していました。
「牡丹亭」イベントも、彼らしさが詰まっています。
湯顕祖が目を止めて恋に落ちる麗娘は、お嬢様である戯曲の設定とは異なり、貧しい娘です。洗濯に明け暮れている平凡な少女にも思えます。
それでも麗娘は透き通った歌声をしていて、湯顕祖との会話を楽しみ、まっすぐな思いを向けてきました。
その心に恋をして、話は進んでゆきます。
湯顕祖はこのときまだ十代でしょう。もしも21にして郷試に合格している青年であれば、あのがめつい杜夫人が結婚を断ったわけがありません。
杜夫人は徹頭徹尾、人の心ではなく属性しか見られない人物でした。
そんな世俗的な価値観ではなく、陽明学の教えにある心即理に生きていたのが湯顕祖。
そんな彼が心の美しさを愛したのが麗娘です。
文人として大成してからは過激で厳しいところもあったけれども、まだ若いころは純粋だったのかもしれません。
だからこそ、若き日の苦い恋を永遠に残すため、筆を執ったのかもしれません。
そう想像することで、古典が一層楽しめるようになる!
そんな素敵な役割を『水都百景録』は果たせるのです。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
井波律子『中国文章家列伝』(→amazon)
井波律子『中国の隠者』(→amazon)
他