アンリ=クレマン・サンソン

ギロチン処刑の様子/wikipediaより引用

世界史

処刑人失格―あのサンソンの孫アンリ=クレマン・サンソン罷免される

処刑人の家系に生まれたため、人類史上二番目に多く斬首を経験したシャルル=アンリ・サンソン※1。

彼らまで斬首しなければならなかった彼は、ストレスに悩まされ苦しみました。

アンリ・サンソン
人類史で2番目に多くの首を斬ったアンリ・サンソン 処刑人の苦悩

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アンリ・サンソンの願いは、フランスが処刑制度を廃止すること。

しかし生きているうちに、その日を見ることはありません。

そんな苦悩を抱きつつ亡くなった四代目サンソンの孫、六代目サンソンことアンリ=クレマン・サンソン

彼の代でも、まだまだギロチンは現役でした。

それはアンリ=クレマンにとって、極めて不幸なことでした。

※1公式記録で最も死刑を執行したのはドイツのヨハン・ライヒハート(3,165人でアンリ・サンソンは約2,700人)

 


15才で知った家の秘密「お前のパパは処刑人だ」

アンリ=クレマンは、恵まれた家庭に育ちました。

祖父母からも両親からも可愛がられる一人っ子で、広い庭に立派な屋敷。

屋敷には、彼の両親を頼りに暮らす親戚や使用人があふれ、アンリ=クレマンはそうした人々から可愛がられて育ったのです。

成長するにつれ、アンリ=クレマンは優雅、儚げ、無邪気、そして優しげな少年になりました。

アンリ=クレマンが他の子と違う点は、学校へ通学せず、家庭教師に勉強を習うところでしょうか。

その家庭教師であった神父が亡くなったため、彼は「クレヴァン」という名で、学校に通うようになります。

学校では親友ができました。

そしてある日、彼は自宅に親友を連れて来ました。

しかし、いざ親友が家に来ても、家の者達は皆ぎこちない態度を取るばかり。親友もそれを境に、よそよそしい態度を取るようになりました。

「どうしたんだろう。何か嫌われるようなことを僕はしたのだろうか?」

アンリ=クレマンがそう尋ねると、親友はギロチンの絵を描いて渡してきました。

裏返すとこう欠いてありました。

「お前のパパは処刑人だ」

当然すぎるほどにアンリ=クレマンはショックを受けました。

どこか違う家庭環境のことを思い出すほどに、自分の家が処刑人であれば辻褄が合うとわかってしまう。

それはまさに、楽しい少年時代の終わり。アンリ=クレマンは最悪のかたちで、現実を突きつけられたのでした。

彼は引きこもり、学校には二度と通いませんでした。

 


祖母と父が教える悲しい歴史とは……

ショックを受けたアンリ=クレマン。

彼に【処刑人】という職業の意義について語り聞かせたのは、祖母のマリー=アンヌでした。

マリー=アンヌは、あの四代目サンソンの妻です。

彼がどれほどの苦労をしたか、苦しめられてきたか。それを孫に語り聞かせました。そして、処刑人という職業が、必要悪であることも。

父のアンリは、無理して家業を継がなくてもいいんだよ、と優しく語りかけてきました。

彼は息子に軽蔑されることを恐れ、今まで処刑人であることを隠し通して来たのです。

「お前が他の仕事に就くというのならば、それも構わない。一生食べて行けるだけの財産はあるからね」

アンリ=クレマンは、祖母と父の言葉の間で迷います。

しかし彼には、父が『本当は家業を継いで欲しい』と思っていることもわかっていました。

処刑人にはなりたくない。

でも、家族の思いも大切だ。彼は迷い続けますが、いつまでもそうしているわけにもいきません。

父は年老い、いずれ処刑が続けられなくなるのです。

 

前代未聞! 処刑場から逃走する

1819年、父アンリが病気で寝込んでしまいます。

ついに20才のアンリ=クレマンに、処刑人として初仕事に挑む日が来たのでした。

死刑囚は、彼と同じ歳の青年でした。

女性二人を殺し、金品を奪った男。とはいえ、まだ若く生命力に満ちあふれた者の首を切り落とすということは、大変なことです。胸がしめつけられるようでした。

まともに動けないアンリ=クレマンにかわって、助手が独断でギロチンの刃を落とします。

処刑後は後片付けをして埋葬まで見届けねばならないのですが、アンリ=クレマンはただただ呆然自失。ついにはその場から逃げ出してしまいました。

サンソン一族の者とはいえ、人の子です。

代々の処刑人たちも、初めての処刑では動転してミスを犯すことはありました。

しかし、職務放棄して逃げ出したのは、前代未聞です。

アンリ=クレマンはふらふらと歩き回り、自分が犯した罪の重さに打ちのめされていたのでした。

命令されて従ったまでとはいえ、自分の手は血に汚れてしまった、もう後戻りできないと思い詰めていたのでした。

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