アフリカ

紀元前1400年頃には既に象牙ショップが存在! 4月15日は「象供養の日」です

美しいものは、人の心を高揚させますよね。
しかし、その美しさが何かの犠牲の上に成り立っているとしたらどうでしょう? それまで意識していなかったとしても、何となく気分が落ち着かない感じになるのではないでしょうか。
本日はそんなものの一つ……と思われるアレのお話です。

4月15日は「象供養の日」だそうです。

日本の象牙業界が定めたものですが、象牙に限らず、人間は様々な形で象を利用してきました。
本日はその辺を詳しく見ていきましょう。

 


紀元前1400年頃のクレタ島に存在していた

象と人間の関わりは、おおむね三種類に分かれます。

一つは、食肉としての利用。
他の狩りの対象となる動物と同様、象を食べるために狩る、ということはよく行われていました。

子供でも150kgくらいありますし、アフリカゾウの成体なら最大で7.5トンになりますから、皮・骨・臓器を差し引いてもかなりの量になります。象の肉を干して保存食にする、というのもよく行われていたようです。
小さい村なら、象を一頭狩ることができれば「これでしばらくは食べていけるぞー!!」と歓喜に湧いたことでしょう。

二つめは、象牙の利用です。
アフリカなどでは、食肉のために狩った象を余すことなく利用するという民族が多かったので、象牙も幅広く使われていました。
象牙は今日、工芸品に使われるイメージがありますが、骨や皮などと同様に、建材としても使われていたようです。

もちろん工芸品も古くから作られていたようで、これを取り扱う店が、紀元前1400年頃のクレタ島(地中海)に存在していました。

また、ローマ帝国の頃には象牙の需要が激増し、さまざまな有名人が象牙の加工品を所有していたことがわかっています。

「カリグラは、愛馬のために象牙の厩舎を作らせた」とか、
「ネロは宮殿の食堂の天井に象牙の鏡をはめ込んでいた」とか。

暴君が所有していたという記録が多いのは、当時から贅沢品だとみなされていたからでしょうね。

 


ピアノからビリヤードのボールなど、ありとあらゆるものが

「象牙は高級なものである」という認識は現在まで続いていますが、特に19世紀のヨーロッパで顕著でした。

ボタンやナイフの柄などの小さなものから、ピアノの鍵盤やビリヤードのボールのように大量に必要なものまで。
上流階級の日用品に多く使われています。

19世紀後半には、象が多く住むアフリカや南アジアがヨーロッパ諸国の植民地になっていますしね。

こんな感じなので、21世紀の我々からすれば、「象牙は古くからありとあらゆることに使われていた」といってもいいでしょう。

現在でも象牙は取引されていますが、自然死した個体のものを集めて検査・管理などを行い、商材にしているそうです。日本に輸入されている象牙も、そうしたルートで来ています。

ただ、密猟が絶えないのも皆さんの予測通り。象牙の産出国のうち、誠意ある国の首長は、密猟によるものと思われる象牙をあえて焼却処分し、密猟をやめさせようとしているようです。

詳しくはこちらのニュースサイトでどうぞ。
【8000頭分の象牙を焼却 ケニア大統領が着火し密猟根絶アピール(ハフィントンポスト)】

また、象牙の代用品もいくつか考えられています。
セイウチの牙や水牛・鹿の角なども使われましたが、現在ではこれらの動物も、象と同じくワシントン条約で取引が禁じられました。代わって数種類の人工樹脂が代用されているようです。

日本では象牙というとハンコに使われるイメージも強いですが、最近はただ単に「豪華なハンコが欲しい」という層向けに、チタンやタングステンなどのレアメタルを用いることもあるとか。

 


兵器として サーカスの主役としても

最後の三つめは、我々にとっても馴染み深いかもしれません。
サーカスなど、象を生きたまま利用する方法です。

以前も少々触れましたが、古代において象は兵器として使われたことがあります。また、牛や馬と同じく荷物を運ぶために象が用いられた時代もありました。

もっとも、人に慣れるのは早い割に制御するのが難しかったため、こういった用途で象を使っていたのは、ごく僅かな間だけでしたが。
戦場だと目立ちすぎますしね。

現在、我々が象を見る機会というと、サーカスや動物園が主ですよね。
前者はショーの一員として、後者は種の保存・研究のためでもあります。

さて、ここまできて、一つ疑問を抱いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「飼い慣らすことができるのなら、象を繁殖させれば象牙がたくさん採れるんじゃない?」と。

たぶん同じことを考えた人は今までにもたくさんいたでしょう。
ではなぜ「象の家畜化」が進んでいないのかというと、答えは実にシンプル。
象の計画的な繁殖がとても難しいからです。

 

計画的・定期的に繁殖させることは非常に難しい

象に限らず、大型動物は総じて
「性成熟が遅い」
「妊娠期間が長い」
「寿命が長い=繁殖能力が低い」
という傾向があります。

象の場合は性成熟するのが10歳以上、かつ妊娠期間は22ヶ月(1年10ヶ月)、個体あたりの平均寿命は飼育下で70~80歳程度です。
野生では100年生きる個体も珍しくないようですが……。
寿命が短くなる主な理由は「飼育下だと運動不足になるから」だそうで。

こういった理由があるため、今日でも象を計画的・定期的に繁殖させることは、非常に難しいとみなされています。

たとえ本気で取り組んだとしても、結果が出るのがいつになるかわからないから、どこの国もやらないんでしょうね。動物園でたまに成功例がありますけれども、そんなに頻繁には聞きませんよね。

とはいえ、象牙目当てに密漁する人々も、他に生活の糧を得る術を知らないからやっているわけです。
中には「こっちのほうが楽だしwww」という輩もいるでしょうけれども。

「絶滅しちゃうからダメ!!」と理屈を押し付けるよりは、「ちゃんと安全な商売やってみない? 捕まる心配もなく家族を養えるよ」と誘導するほうがいいのかなという気がします。理想論ですけれどね。

長月 七紀・記

参考:象牙/Wikipedia 環境省



図説 動物文化史事典―人間と家畜の歴史



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