こんばんは、武者震之助です。今回は前置きが長いので、興味がない方はとばしてください。
こんなニュースが出てきました。
◆「直虎は男性 見解裏付ける記述」と発表(→link)
幕末の書き込みというのがひっかかるところですが、本件は本郷先生にお任せするとして……。
今年の場合、書籍で史実をおさえたいならば、考証担当者・小和田哲男先生の『井伊直虎』(歴史新書y)一冊で間に合うかと思います。ドラマはあくまでフィクションですからね。
いずれにせよ、新史料でこのドラマが意味のないものになるのかというと、別にそうではないと思います。
大河の放映期間にその人物に関する史料がやたらと出てくるのは何かの陰謀ではないか、ステマではないか、といった声もあるようです。
史料というのは結構多く存在します。
蔵の中や市町村の図書館で眠っていたりします。
ただ、それにどの程度価値があるか、有名な人物なのか、判断材料が少ないわけです。
それが大河で取り上げられると「うちで保存しているあの古文書って、もしかして大河の人? ならば価値があるな」となって出てくるとか。
あるいは「大河で取り上げられたあの人はうちの地元だし調べてみるか」と調べ直して、世に出てくるとか。そういう効果があるわけです。
どんな大河であれ、取り上げることによってメリットはあるわけです。マイナーな人物を敢えて取り上げる意味はちゃんとあるんです。
SNS上で、本作に関して動揺が起こっています。ドラマそのものではなく、あまりにあさってな方向で叩く記事が出てきて、「一体どこの平行世界の直虎を見たのか」と困惑している模様。
◆柴咲コウが気の毒でならない…大河ドラマ『直虎』つまらなさの研究 月9ドラマを見ているよう(現代ビジネス)(→link)
「こんなに人が死ぬ月9があるか!」とでも返しておきましょう。
今年は「女だから甘くて駄目なんだ」「地方の弱小領主だから地味で駄目なんだ」という評に対して「中身も見ないで決めつけているぞ、これは作中で直虎が経験する理不尽さと同じだ!」と思えることです。
ある意味そういう反応を逆手にとっていると言えるでしょう。
こういう批判をすればするほど、直虎の受ける仕打ちにリアリティが増すのです。
昨年の『真田丸』すら序盤は叩かれました。
脚本の三谷氏の映画が興行的に失敗していたことからの不安視。
どうせあの脚本家ならば悪ふざけをするだろうという思い込み。
ヒロインが良妻賢母タイプではないことへの不満。
中でも型破りなヒロイン・きりはサンドバッグのように叩かれ続けました。
こういう記事は結論ありきで書かれているのだと思います。
どの記事も似たような叩き方をしていることからもそれはうかがえます。
序盤は昨年の大河のヒットを受けて叩くか、叩かないか決めかねていたのが、視聴率が伸び悩んだことで思い切って叩けるようになってきたのでしょう。
「マイナーな女主人公だし、どうせスイーツな恋愛大河なんでしょう。ならば月9と大差ない」
そんな結論ありきの雑な指摘なので、批判するにしても中身がないという記事になっています。
むろん中身を見た上で物足りなさを指摘する批判記事もありますが、残念ながら大河叩きはこの手の内容が多いのです。
これが五月の連休も過ぎると、出演者が脱いで視聴率アップする仰天作戦、出演者が苛立っている、不仲であるといった推測記事が出始めます。
『平清盛』ファンならばわかることだと思いますが、大河での新しい挑戦は叩かれます。
敗者視点の『平清盛』、『八重の桜』は「そんな負けた奴らの言い分なんて見たくはない」という本当にこれはもう、どうしたらいいのかわからない批判がありました。
成功をおさめたといえる昨年の『真田丸』すら、新説を取り入れた豊臣秀次関連の描写や第二次上田合戦の展開に「新説だから何だか知らないが、古い説の方になじみがあるし面白い」という批判がありました。
『軍師官兵衛』は最新の説を取り入れず、どこか既視感のある場面で構成した目新しさのない大河でしたが、王道路線という評価もありました。
こうしたことからわかるのは、昔から大河を楽しんできた層には、自分が昔見たことのある歴史創作物(史実ではなく、あくまで創作物)の場面しか受けつけないという人もいるということです。
昨年の『真田丸』に「自分が小さい頃ワクワクしながら見ていた、真田十勇士を出してくれ」という要望があったことからもわかると思います。
他の作家が創作したキャラクターを全く別の作品に出すべきだというのは、かなりの無茶ぶりです。
こういう無茶ぶりも何故か大河ではクレームとしてカウントされてしまいます。それが歴史を扱うコンテンツの難しさです。
ただ、この「日本人が共通して持つ歴史のイメージ」は更新されています。
古いイメージにとらわれていたらコンテンツは進歩しません。
「大河ではもっと大物を扱え」
「なじみのあるものをやれ」
そんな記事はこれからも出続けるとは思いますが、ファンは怒る必要もありませんし、制作側が真に受けたら、コンテンツは濁り腐ります。
そうはいえども、あのような報道が影響を持つから厄介であることも確かです。
こんな記事に対抗するにはどうすればよいのでしょうか。
手はあります。
昨年の『真田丸』ファンは「中身を見ないで叩くのはゆるさんぞ!」という空気を作りあげることに成功しました。
序盤にNHKに「厳しい意見」が多く寄せられているという記事が出ると、NHKのメールフォームに好評意見を大量投稿し、自分たちの情熱を届けました。
ファンの熱意で好評意見が届き始めたことが記事になると、叩き記事は減り始め夏頃には見かけなくなりました。
私たちファンにできることは、自ずと見えてきます。
メールフォームとSNSやブログでの感想投稿です。今年も熱意を届けたらこの状況も変わるはずです。メールフォームはこちら(→link)です。
また『真田丸』の叩き記事が減ったのは、ファンだけの功績ではありません。
屋敷Pが、今の時代に真田幸村を主役にした意図やドラマの狙いを的確に説明し続けたこともプラスに作用しました。
今年の岡本Pも、この点頑張っています。
◆“大河”プロデューサーが語る、キャスティングの新たな試み(→link)
自画自賛に陥るのではなく、誠意をもって直虎を取り上げた意味を説明しています。
昨年のように、皆の熱意をプラスにつなげて欲しいところです!!
長い前置きでした。
さて今週は駿府から始まります。
駿府に呼び出されてピンチの直虎 心を痛める政次
勝手に虎松(井伊直政)の後見となり、徳政令を反故にした井伊直虎。たいした機転ではあるのですが、寿桂尼の逆鱗に触れてしまいます。
「駿府へ呼び出し」は、本作では死を意味します。
寿桂尼の命を受けた小野政次は動揺しています。もしかしたら寿桂尼も、政次の本心は気づいているかもしれません。
「女子だから甘く見てもらえませんかね」
井伊谷では、当事者である直虎が、南渓にヘラヘラと笑いながらそう言います。
南渓和尚は「実質的な当主は寿桂尼。女だからと馬鹿にもしないし、甘くも見ないだろう」と返します。今週は女性リーダー同士の対峙がテーマです。
場面は井伊谷での評定に。瀬戸方久が「三年荒野」、荒れた土地を新田開発すれば、三年間年貢を免除するという策を出します。
ただしこの策は来週以降のテーマとなるようです。本作の面白いところは、この場面を来週ではなく敢えて一週前に入れるところなんですね
。今週取り上げないのなら、普通は来週に回すところを、敢えて今やるわけです。
直虎は方久の言葉にも心ここにあらず、という風情。
彼女が気にしているのは駿府からの呼び出しです。そこへやって来た小野政次は、今川からの召喚状を手にしています。
この場面の政次は表情が凄いのです。声音は冷たく、表面的には平静を装っているものの、内心の動揺が伝わって来ます。
小野政次は凄い、そして哀しい。直虎が晴れ渡った空のように、綺麗な一色に染め上げられているとしたら、彼の表情は常にグラデーションがかかっています。
昼間の青に近いのか、夕暮れの赤に近いのか、その時々によって違うけれど、常にこうだとは言い切れない顔をしています。
彼の場合、基本となる色は父である小野政直と幼い頃の鶴丸です。
しのの妹なつだけは政次の真意に気づく?
そんな複雑な思いを抱えた政次は、なんとしても直虎を後見から引きずり下ろすために暗躍します。
暗躍といっても、昨年の真田昌幸の「大ばくち」とは違い、彼の場合は大切な人を守るためだから哀しいのです。
政次は、虎松の生母であるしのから、生母として直虎に後見させたくないという書状を取り付けます。
しのは本作で損な役回りの憎まれ役なのですが、ちょっと同情してあげてください。
私の意見なんてどうせ誰も聞かない、という状況に腐っているのです。しのの存在意義はまさしく虎松の母であることですが、そのことすら薄れてしまっている状況。彼女も被害者の一人です。
しのが書状を書くために中座すると、政次は祈るように天井を見上げます。
この表情、これを見て心を動かされない奴がいるのか、と思っていたら目撃者がいました。しのの妹であり、政次にとっては亡き弟の妻であるなつです。

政次が直虎を守るべく奔走している頃。その直虎は、龍潭寺を供に連れて行き、いざという時は政次を人質にして安全策を散ると南渓に相談しておりました。
南渓は「物騒な女子」になってきたなあ、とからかいつつ、いざとなれば逃げ帰るように念を押します。逃げるのは後ろ向きではなく、むしろ積極的に使うべきだと誰もが言うところが良いと思います。
ここで中野直之が、直虎が駿府に行くことに強硬に反対して怒鳴りつけます。
「このままでは直親様のように殺されるぞ、供を犬死にさせる気か、後見を降りると言え!」
怒り狂い怒鳴る直之です。
同輩の奥山六左衛門の説得も無視して、主君にも一歩も退かず怒鳴り散らす直之。彼が心を開くことはあるのでしょうか。
苦悩、苦悩、また苦悩 溢れてこぼれそう
出立前、直虎は井戸で直親に祈り、政次は一人で主を思い悩みます。高橋一生さんの表情は感情があふれています。
この場面だけではなく、どの場面でも苦悩と思いがあふれていて、今週は常にあふれてこぼれそうなくらいです。
そして翌朝。
いよいよ直虎は、奥山六左衛門に留守を任せて出立です。祐椿尼は無理をせず、いざとなれば戻る様に直虎に念を押します。直虎の不安げな表情は、父の井伊直盛に似ている気がします。
ここで中野直之は苦々しげな様子で直虎らを見送ります。
直之は南渓に頼まれ、渋々瀬戸村の百姓に字を教えに行くことになります。この場面は反故紙ではなく新しく綺麗な紙を使っているのがちょっと贅沢です。
瀬戸村の甚兵衛ら百姓は、直之に直虎の様子を聞いてきました。
直之から、直虎が駿府へ呼び出された聞いた百姓らは動揺し、井伊直親のようにならないために直虎を守りに行くぞと盛り上がり出します。
直之は足手まといになるだけだと止めますが、百姓はますますいきりたつばかりです。これも直虎が彼らに歩よった成果ですね。
そこで南渓が提案。
「ここにおっただけで直虎を救い出せるとすればどうじゃ?」
さて南渓の策とは何でしょう。直之は何か悩み、どこかへと去ってゆきます。
直虎一行はとりあえず無事に一日目を終え、宿で休むことになりました。
政次が厠に向かおうとすると、傑山がついて来ます。
他の面々は「殿を守るぞ!」と言えるのに、政次は素直に言えないし、言ったところで信用されませんからね。なんとも哀しい立場です。
その時「だ、誰か!」という直虎の悲鳴が!
政次はあわてて直虎の部屋に入りこみ、傑山に止められます。
一番大事な人をわかりやすいかたちで救えない、この政次の哀しさよ……そこにいたのは刺客ではなく、アオダイショウでした。
すっかり腰が抜けてしまった直虎の前で、昊天が冷静に蛇を掴み、つまみだします。ここまで怯えるとは、直虎も内心恐怖であふれているのでしょう。
直虎を守りたい! されどその狙いがバレたら意味がない
井伊谷では、なつが南渓に義兄である政次について相談しています。
政次には子がないのに井伊家を乗っ取ってどうするのか、むしろ今川から守るために盾になっているのでは?と推察するなつです。
南渓は、「それはわからないが、そうだとしても政次は認めないだろう。本意を認められたら盾にはならないからな」と言います。
そうなんですよ。
直虎の鈍感さにやきもきする人も多い徒は思いますが、政次は直虎を守るためには、直虎に本意を悟られては絶対にならないのです。
辛い立場です。なつにも和尚にも、とにかく誰にも真意を悟られないほうが政次の悲痛さが際立つのに……、と少し思わないでもありませんが。
翌朝、政次は「おとわ」と直虎を呼び止め、後見を降りる様に迫ります。
平静を装っているものの、昔の名前で呼びかけるあたりがなんとも。政次は蛇騒動でもしも直虎に何かあったらと気づき、彼もまた怯えていたのでしょう。
彼が怯えるのは直虎に危険が及ぶことだけではありません。自分の感情を悟られることにも怯えていることでしょう。
昨晩、政次は眠れたのでしょうか。疲れ切った表情からするに、一睡もしていなかったのではないでしょうか。
その時あやしい物音がし、大木が倒れてきます。
咄嗟に直虎をかばう政次。そこへ斧が投げられ、刺客が襲いかかってきます。
直虎は怯えて立ちすくむのでもなく、悲鳴をあげるのでもなく、無言ですぐさま駆け出します。
蛇の時から一転したこの機転に、彼女が持つ危機管理能力がうかがえます。その直虎を、政次が追いかけます。
逃げた先にも刺客が待ち受けていました。
追い詰められた直虎を救おうと、政次が刀を抜いたその時! 何者かの放った矢が刺客を次から次へと倒してゆきます。
現れたのは中野直之です。
この直之がすさまじい強さで、無双状態となって刺客を次から次へと倒します。
直之は武勇ステータス特化型武将でした。父の中野直由(筧利夫さん)イメージを踏襲している模様です。
「女子のくせにでしゃばるからこうなるのだ! 男のふりをしようがそなたは女だ、だからそこでおびえているのだ……だからこそ守らねばならないだろうが!」
デレた、直之がデレたぞ!
そうか、自分を頼ってくれない直虎が嫌でツンツンしていただけだったのか! 自分じゃなくて方久や六左衛門ばっかり構う直虎にいらいらしていたのか!
今年は少女漫画風味も計算していましたが、このツンデレも見事でした。
これ以上ツンツンを続けていたら許せなく鳴る、絶妙なタイミングでデレました。
助けるタイミングを完全に逸した政次は……
一方で切ないのが、直虎を助けるタイミングを失った政次です。
心情的にも切ないのですが、高橋一生さんの刀を扱う所作が綺麗なので、殺陣も楽しみなんですよね。
直虎は政次に、虎松の後見を任せると言います。「直虎を守り隊」隊員になった直之はがっかりして、せっかく守ろうと思ったのにと不満そうです。
しかし直虎の決意は固かったのでした。政次は「まことそれでよいのですか」と安心したような、失望したような、複雑な表情を浮かべて直虎を見守ります。
直虎の駿府への旅は終わりました。仕方ないけれども、命あっての物種です。井伊谷に戻った一行は残念さと安堵の表情を浮かべています。
「之の字、少し話さぬか」
直之にいきなり呼びかける直虎。相手が驚いていると「それともおゆきのほうがよいのか?」とたたみかけます。
それから直虎は直之と二人きりになって何かを頼みます。そのあと、直之の乗った馬が夜道を駆けてゆきます。
駿府では、政次が直虎の後見断念を寿桂尼に報告します。そこへ中野直之が来訪したとの知らせが届きます。
当主の今川氏真不在であるため、寿桂尼が対応することに。直之は深々と頭を下げ、寿桂尼を待っています。
「面をあげよ」
そこにいたのは、中野直之の装束を着た直虎でした。
「井伊直虎でございます。太守様に申し開きに参りました」
直虎は、機転を利かせて井伊直親ルートを回避しました。
駿府に行くのか、行かないのかの二択しかないのではなく、彼女は三番目の選択肢である「欺いて行く」を加え、それを選んだのです。
幼いころから、他の人が思いつかないような意外な選択肢を作り、選び取ってきた彼女のまさに本領発揮です。
「井伊直虎でございます。太守様に申し開きに参りました」
これには驚いた! ポイントは髪の毛で、直之のようにモシャモシャ頭をしているからそこで判断してしまいました。

柴咲コウさんはそれにしても男装が似合います。本作は衣装の色がちゃんと演じる人にあわせてあります。柴咲さんはこういうクールな配色が映える顔立ちです。
『軍師官兵衛』の時、「安易に女性陣にピンクとペールブルーを着せるなよ」と文句を書いた覚えがあるのですが、今年はその点センスがいいですね。
寿桂尼もメイクと頭巾の色があわせてあって、とても綺麗です。
彼女が男装して今川を欺くのは二度目です。
一度目は、亀之丞の服を着てみがわりにふりをした第1回ラストです。
あのころおとわは、病弱な亀のかわりに手足になると誓ったものですが、亡くなってしまった亀のためにかわりになっているわけです。
彼女はぶれない、おとわの頃のまま誓いを守っているのだと思い出しました。
『仮名目録』には義元の追加条例がある
寿桂尼も政次もやはり驚きます。
刺客に狙われたため、政次を隠れ蓑にしてこうして参じたと説明する直虎。
寿桂尼はそれほどまでに申し開きをしたいとは殊勝な心がけ、と褒めます。
寿桂尼は少し面白がっているような余裕がありますが、政次にはむろんそんなものはありません。
ここまではまだ手始め。ここから寿桂尼の納得する回答をしなければ、井伊直満ルートです。
直虎は徳政令を発布できなかったのは『仮名目録』に書かれている通り、寺領として寄進された瀬戸・祝田は「守護不入」だと説明します。
寿桂尼は微笑み、義元の追加条例があると言います。
直虎の『仮名目録』には追加の一条がなかった古いものなのでしょう。先週の時点で、「『仮名目録』を利用したのはいいけど、追加の条文がある」という指摘はありました。
脚本家もそこはふまえていたわけです。
ここで直虎は困った顔をしますが、相手の言葉を逆手に取ります。
「つまり、私が徳政令を出すべきと言うことは、法令の執行者として認めたということですね?」
緊迫した空気が流れます。冷や冷やしますね。
直虎は寿桂尼の度量に賭けたのです。もしも相手が自分の言葉尻をとらえることを怒るタイプであれば、直虎はここで終わります。
政次は、ここでしのが後見を望まないという書状をカードとして切ります。
「生母が認めぬからには後見はない」と述べる寿桂尼。ここで思い出して欲しいのが、ふてくされていたしのです。
しの次の領主という強いカードを握っているのですから、もし彼女に野心と政治センスがあれば、かつて寿桂尼がそうしたように権力を握っていてもおかしくはないのです。
ところがしのはそれができていないわけで、彼女自身がそのことに苛立っていてもおかしくないわけですね。
これは直虎にとっては痛恨の一撃!
そこへ井伊から書状が届いたと家臣が持ってきます。
百姓たちの圧倒的支持! 直虎よ、お前は如何にして国を治めるのじゃ?
書状の中身を見ると、そこにあったのは百姓たちの拙い文字と署名です。
瀬戸村、祝田村の一同は直虎の後見を願っているという書状でした。
南渓からの書状も添えてあります。
「かつて義元公は、己の力量をもって国を治めるとおっしゃりました。規模は小さいものの、直虎にそれを許してはいただけませんか。それこそが井伊のためになります」
言葉は穏当ですが、これは百姓側の力の行使でもあります。
もしも直虎を後見から外すようなことがあれば、一揆なり敵方への逃散なりありうるということです。
彼らは無力なだけではありません。反抗できる力があります。南渓が用意したカードがここで切られました。
それだけではありません。この書状から、寿桂尼は百姓を懐かせている直虎の力量を知りました。
井伊の面々がただの問題児のような存在であれば使い道がありません。そのマイナス評価から、使えるカードとしての価値が出てきたわけです。
ここで寿桂尼は、どう国を治めるつもりなのか、直虎に心構えを問います。
直虎はまず民を潤し、井伊を潤し、それが今川の潤いになるはずだと答えます。この問答の着地点は、今川の利益になると示しているところです。井伊と今川でWin-Winを目指そうというわけですね。
ただの青臭い理想論ではなく、直虎は相手の懐に飛び込んでアピールする手段を計算しています。コレをぶっつけ本番の問答でさっと出してくるあたり、彼女はセンスが抜群です。
この能力が井伊の男たちには欠けていた!
真田昌幸ならのらりくらりと言い逃れするのに絶望的だと思っていた!
その負の連鎖を直虎は終わらせました。
寿桂尼は直虎を領主として合格だとみなしました。寿桂尼は直虎の後見を許すとついに認めます。
ただし、次はない、次に生きて申し開きをする場はないと告げ、その場を去ります。
ここで寿桂尼が、同じような境遇の直虎に同情を寄せたのではなく、それが多少はあったにせよ、使えるカードだと確認できたからこそ直虎を認め許したのです。
ビジネスライクであり、冷静な判断です。
ビジネスライクで、利用できるか、できないか、それが焦点に
今週のメインがこの直虎VS寿桂尼なのですが、終始ドライでビジネスライクなんですね。ここが新しいと思います。
従来、女同士の争いといえばドロドロ。ネチネチ、嫉妬の世界と表現されました。
一人の男の寵愛をめぐるとか、どちらが若くて美人か競うとか。陰湿でいじめあい、クスクス笑うようなものでした。二年前の『花燃ゆ』の大奥編も含めて、そういう戦いばかりでした。
今年はそうした「女同士の陰険な争い」を全面否定しました。
ビジネスライクで、利用できるか、できないか、それが焦点になると互いに理解していました。
彼女らには、女だから優しいとか、ドロドロしているとか、先入観がないわけです。
相手が男だろうが、女だろうが、手加減は不要だし、ただぶつかるだけだと思っているわけです。
お互い女だからと相手は下駄を履かせてもくれないし、甘くも見ないし、人情味のある判断をするわけでもないとわかっています。
互いに女はこうだという先入観抜きで戦ったからこそ、彼女らの対峙はドライで、カードを切りあい、言葉と言葉でやりあう爽快感がありました。
女同士の戦いの持ち味とされるドロドロを一切捨て去り、返す刀で「あんたたちは、女同士の戦いは大奥みたいにドロドロしているというけれども。リーダー同士の戦いは、女同士でもこういうもんだ」と言ってのけているわけです。
やっぱり本作は凄いですよ。
さっぱりとドライな寿桂尼と対称的なのが、政次です。
彼は顔を伏せ、目を閉じています。本来の役目をかなぐり捨てて、おとわの幼なじみとして、ドライになりきれない一人の男として、感情を見せています。
駿府の館の外には、六左衛門が待っていました。百姓の書状を持って来たのは彼だったのです。
直之のように腕っ節が強くない彼は、誠意で直虎を救います。
この適材適所、いいですね。直虎、直之、六左衛門、南渓、甚兵衛ら百姓ら、誰が欠けても今週は成立しませんでした。
限られたカードを適切に切る爽快感があります。かくして主従二人は安堵して井伊に戻ります。
好きなのだ 突拍子もない彼女が愛おしくて仕方ないのだ
井伊谷では百姓が「井」と記したつぎはぎの旗を手にして直虎を出迎えます。
傑山が袖をまくって筋肉を見せ付けている姿が印象的です。
家臣領民一丸となって、この、おんな城主を認め支えてゆく体制が整ったのでした。
直虎をもてなす領民の気持ちは理解できます。駿府に呼び出され、斃れるという悪循環を直虎は断ち切りました。
そのころ井戸端で南渓は、直盛や直親を悼み、感謝しつつ酒を呑むのでした。最近の南渓は頼りになります。
なつは、佑椿尼に小野の屋敷に戻ることにしたと告げます。
先ほど誰にも真意が知られない方がいいと書いたのですが、考えを改めました。せめてなつだけは、政次の切ない本意を知り、見守ってもらいたいものです。
駿府では、今川氏真に政次がことの次第を報告します。
面白くないと愚痴をこぼす政次ですが、「いずれまた好機はありましょう」という言葉とは裏腹に、どこか嬉しそうな顔をしているのでした。
結局のところ、小野政次は直虎が好きで仕方ないのです。
とりわけ、突拍子もない策で危機を乗り越える彼女が愛おしくて仕方ないのです。
MVP:井伊直虎
激戦でした。
ツンデレの中野直之、度量の広い宿敵・寿桂尼、万華鏡のように表情が変わる小野政次。
しかし今日はやはり、直虎その人であると思います。
駿府に行って、戻るだけ。それだけのことだけれども、その虎口を逃れられなかった井伊直満と直親。その連鎖を直虎が断ち切りました。
直虎は、不利になればいったん退き、機転で相手を出し抜き、納得させたのです。
彼女のしたことはシンプルです。それでいて痛快です。知恵、勇気、優しさで皆を守るという役割は王道です。大河だけではなく、物語に登場する勇者としての王道です。
直虎の物語が痛快なのは、その王道としての勇者を今はヒロインがその役目を務めてよいのだと示したことですし、そんな手垢が付いていそうな物語でも、料理の仕方ひとつでこんなにも美味しいのだと視聴者に見せてくれることです。
序盤、直虎がいらないとか目立たないとか散々言われて来ましたが、今こうして前面に出てきた彼女は立派な主役として振る舞い、こんなにも輝いているのです。
総評
ドライ&クールな女、ウエット&ホットな男。そういう回でした。
前述の通り、直虎も寿桂尼も肝心のときにパチパチと算盤を弾いて損得を計算しているわけです。それと比べて、政次のともかく自分の愛情のために自己を犠牲にする精神ときたら。
なかなか面白い対比です。
今週はすごい回です。直虎の男装にはころっと騙されましたし、ともかく爽快なんです。
ドロドロとはほど遠い女同士の争いが見事な一方で、小野政次の不憫さはもはや言葉にならないレベル。本作には人の心をとらえ、引きずり回す大きな力があります。
本作には大きな、何かをなぎ倒すような力があります。視聴率にはつながらないかもしれませんが、力は力です。その底力を感じたのが今回です。
来週以降もパワフルであることを願います!
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絵:霜月けい
【TOP画像】
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【参考】
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link)




















