お好きな項目に飛べる目次
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直虎を守りたい! されどその狙いがバレたら意味がない
井伊谷では、なつが南渓に義兄である政次について相談しています。
政次には子がないのに井伊家を乗っ取ってどうするのか、むしろ今川から守るために盾になっているのでは?と推察するなつです。
南渓は、「それはわからないが、そうだとしても政次は認めないだろう。本意を認められたら盾にはならないからな」と言います。
そうなんですよ。
直虎の鈍感さにやきもきする人も多い徒は思いますが、政次は直虎を守るためには、直虎に本意を悟られては絶対にならないのです。
辛い立場です。なつにも和尚にも、とにかく誰にも真意を悟られないほうが政次の悲痛さが際立つのに……、と少し思わないでもありませんが。
翌朝、政次は「おとわ」と直虎を呼び止め、後見を降りる様に迫ります。
平静を装っているものの、昔の名前で呼びかけるあたりがなんとも。政次は蛇騒動でもしも直虎に何かあったらと気づき、彼もまた怯えていたのでしょう。彼が怯えるのは直虎に危険が及ぶことだけではありません。自分の感情を悟られることにも怯えていることでしょう。
昨晩、政次は眠れたのでしょうか。疲れ切った表情からするに、一睡もしていなかったのではないでしょうか。
その時あやしい物音がし、大木が倒れてきます。
咄嗟に直虎をかばう政次。そこへ斧が投げられ、刺客が襲いかかってきます。
直虎は怯えて立ちすくむのでもなく、悲鳴をあげるのでもなく、無言ですぐさま駆け出します。
蛇の時から一転したこの機転に、彼女が持つ危機管理能力がうかがえます。その直虎を、政次が追いかけます。
逃げた先にも刺客が待ち受けていました。
追い詰められた直虎を救おうと、政次が刀を抜いたその時! 何者かの放った矢が刺客を次から次へと倒してゆきます。
現れたのは中野直之です。
この直之がすさまじい強さで、無双状態となって刺客を次から次へと倒します。直之は武勇ステータス特化型武将でした。父の中野直由(筧利夫さん)イメージを踏襲している模様です。
「女子のくせにでしゃばるからこうなるのだ! 男のふりをしようがそなたは女だ、だからそこでおびえているのだ……だからこそ守らねばならないだろうが!」
デレた、直之がデレたぞ!
そうか、自分を頼ってくれない直虎が嫌でツンツンしていただけだったのか! 自分じゃなくて方久や六左衛門ばっかり構う直虎にいらいらしていたのか!
今年は少女漫画風味も計算していましたが、このツンデレも見事でした。
これ以上ツンツンを続けていたら許せなく鳴る、絶妙なタイミングでデレました。
助けるタイミングを完全に逸した政次は……
一方で切ないのが、直虎を助けるタイミングを失った政次です。心情的にも切ないのですが、高橋一生さんの刀を扱う所作が綺麗なので、殺陣も楽しみなんですよね。
直虎は政次に、虎松の後見を任せると言います。「直虎を守り隊」隊員になった直之はがっかりして、せっかく守ろうと思ったのにと不満そうです。しかし直虎の決意は固かったのでした。政次は「まことそれでよいのですか」と安心したような、失望したような、複雑な表情を浮かべて直虎を見守ります。
直虎の駿府への旅は終わりました。仕方ないけれども、命あっての物種です。井伊谷に戻った一行は残念さと安堵の表情を浮かべています。
「之の字、少し話さぬか」
直之にいきなり呼びかける直虎。相手が驚いていると、「それともおゆきのほうがよいのか?」とたたみかけます。それから直虎は直之と二人きりになって何かを頼みます。そのあと、直之の乗った馬が夜道を駆けてゆきます。
駿府では、政次が直虎の後見断念を寿桂尼に報告します。そこへ中野直之が来訪したとの知らせが届きます。当主の今川氏真不在であるため、寿桂尼が対応することに。直之は深々と頭を下げ、寿桂尼を待っています。
「面をあげよ」
そこにいたのは、中野直之の装束を着た直虎でした。
「井伊直虎でございます。太守様に申し開きに参りました」
直虎は、機転を利かせて井伊直親ルートを回避しました。
駿府に行くのか、行かないのかの二択しかないのではなく、彼女は三番目の選択肢である「欺いて行く」を加え、それを選んだのです。
幼いころから、他の人が思いつかないような意外な選択肢を作り、選び取ってきた彼女のまさに本領発揮です。
「井伊直虎でございます。太守様に申し開きに参りました」
これには驚いた! ポイントは髪の毛で、直之のようにモシャモシャ頭をしているからそこで判断してしまいました。
柴咲コウさんはそれにしても男装が似合います。本作は衣装の色がちゃんと演じる人にあわせてあります。柴咲さんはこういうクールな配色が映える顔立ちです。
『軍師官兵衛』の時、「安易に女性陣にピンクとペールブルーを着せるなよ」と文句を書いた覚えがあるのですが、今年はその点センスがいいですね。寿桂尼もメイクと頭巾の色があわせてあって、とても綺麗です。
彼女が男装して今川を欺くのは二度目です。
一度目は、亀之丞の服を着てみがわりにふりをした第1回ラストです。あのころおとわは、病弱な亀のかわりに手足になると誓ったものですが、亡くなってしまった亀のためにかわりになっているわけです。彼女はぶれない、おとわの頃のまま誓いを守っているのだと思い出しました。
『仮名目録』には義元の追加条例がある
寿桂尼も政次もやはり驚きます。
刺客に狙われたため、政次を隠れ蓑にしてこうして参じたと説明する直虎。寿桂尼はそれほどまでに申し開きをしたいとは殊勝な心がけ、と褒めます。寿桂尼は少し面白がっているような余裕がありますが、政次にはむろんそんなものはありません。
ここまではまだ手始め。ここから寿桂尼の納得する回答をしなければ、井伊直満ルートです。
直虎は徳政令を発布できなかったのは『仮名目録』に書かれている通り、寺領として寄進された瀬戸・祝田は「守護不入」だと説明します。
寿桂尼は微笑み、義元の追加条例があると言います。直虎の『仮名目録』には追加の一条がなかった古いものなのでしょう。先週の時点で、「『仮名目録』を利用したのはいいけど、追加の条文がある」という指摘はありました。脚本家もそこはふまえていたわけです。
ここで直虎は困った顔をしますが、相手の言葉を逆手に取ります。
「つまり、私が徳政令を出すべきと言うことは、法令の執行者として認めたということですね?」
緊迫した空気が流れます。冷や冷やしますね。
直虎は寿桂尼の度量に賭けたのです。もしも相手が自分の言葉尻をとらえることを怒るタイプであれば、直虎はここで終わります。
政次は、ここでしのが後見を望まないという書状をカードとして切ります。
「生母が認めぬからには後見はない」と述べる寿桂尼。ここで思い出して欲しいのが、ふてくされていたしのです。しの次の領主という強いカードを握っているのですから、もし彼女に野心と政治センスがあれば、かつて寿桂尼がそうしたように権力を握っていてもおかしくはないのです。
ところがしのはそれができていないわけで、彼女自身がそのことに苛立っていてもおかしくないわけですね。
これは直虎にとっては痛恨の一撃! そこへ井伊から書状が届いたと家臣が持ってきます。
百姓たちの圧倒的支持! 直虎よ、お前は如何にして国を治めるのじゃ?
書状の中身を見ると、そこにあったのは百姓たちの拙い文字と署名です。
瀬戸村、祝田村の一同は直虎の後見を願っているという書状でした。
南渓からの書状も添えてあります。
「かつて義元公は、己の力量をもって国を治めるとおっしゃりました。規模は小さいものの、直虎にそれを許してはいただけませんか。それこそが井伊のためになります」
言葉は穏当ですが、これは百姓側の力の行使でもあります。
もしも直虎を後見から外すようなことがあれば、一揆なり敵方への逃散なりありうるということです。彼らは無力なだけではありません。反抗できる力があります。南渓が用意したカードがここで切られました。
それだけではありません。この書状から、寿桂尼は百姓を懐かせている直虎の力量を知りました。井伊の面々がただの問題児のような存在であれば使い道がありません。そのマイナス評価から、使えるカードとしての価値が出てきたわけです。
ここで寿桂尼は、どう国を治めるつもりなのか、直虎に心構えを問います。
直虎はまず民を潤し、井伊を潤し、それが今川の潤いになるはずだと答えます。この問答の着地点は、今川の利益になると示しているところです。井伊と今川でWin-Winを目指そうというわけですね。
ただの青臭い理想論ではなく、直虎は相手の懐に飛び込んでアピールする手段を計算しています。コレをぶっつけ本番の問答でさっと出してくるあたり、彼女はセンスが抜群です。
この能力が井伊の男たちには欠けていた!
真田昌幸ならのらりくらりと言い逃れするのに絶望的だと思っていた!
その負の連鎖を直虎は終わらせました。
寿桂尼は直虎を領主として合格だとみなしました。寿桂尼は直虎の後見を許すとついに認めます。ただし、次はない、次に生きて申し開きをする場はないと告げ、その場を去ります。
ここで寿桂尼が、同じような境遇の直虎に同情を寄せたのではなく、それが多少はあったにせよ、使えるカードだと確認できたからこそ直虎を認め許したのです。
ビジネスライクであり、冷静な判断です。
ビジネスライクで、利用できるか、できないか、それが焦点に
今週のメインがこの直虎VS寿桂尼なのですが、終始ドライでビジネスライクなんですね。ここが新しいと思います。
従来、女同士の争いといえばドロドロ。ネチネチ、嫉妬の世界と表現されました。一人の男の寵愛をめぐるとか、どちらが若くて美人か競うとか。陰湿でいじめあい、クスクス笑うようなものでした。二年前の『花燃ゆ』の大奥編も含めて、そういう戦いばかりでした。
今年はそうした「女同士の陰険な争い」を全面否定しました。
ビジネスライクで、利用できるか、できないか、それが焦点になると互いに理解していました。彼女らには、女だから優しいとか、ドロドロしているとか、先入観がないわけです。相手が男だろうが、女だろうが、手加減は不要だし、ただぶつかるだけだと思っているわけです。お互い女だからと相手は下駄を履かせてもくれないし、甘くも見ないし、人情味のある判断をするわけでもないとわかっています。
互いに女はこうだという先入観抜きで戦ったからこそ、彼女らの対峙はドライで、カードを切りあい、言葉と言葉でやりあう爽快感がありました。
女同士の戦いの持ち味とされるドロドロを一切捨て去り、返す刀で「あんたたちは、女同士の戦いは大奥みたいにドロドロしているというけれども。リーダー同士の戦いは、女同士でもこういうもんだ」と言ってのけているわけです。
やっぱり本作は凄いですよ。
さっぱりとドライな寿桂尼と対称的なのが、政次です。彼は顔を伏せ、目を閉じています。本来の役目をかなぐり捨てて、おとわの幼なじみとして、ドライになりきれない一人の男として、感情を見せています。
駿府の館の外には、六左衛門が待っていました。百姓の書状を持って来たのは彼だったのです。
直之のように腕っ節が強くない彼は、誠意で直虎を救います。この適材適所、いいですね。直虎、直之、六左衛門、南渓、甚兵衛ら百姓ら、誰が欠けても今週は成立しませんでした。限られたカードを適切に切る爽快感があります。かくして主従二人は安堵して井伊に戻ります。
好きなのだ 突拍子もない彼女が愛おしくて仕方ないのだ
井伊谷では百姓が「井」と記したつぎはぎの旗を手にして直虎を出迎えます。
傑山が袖をまくって筋肉を見せ付けている姿が印象的です。家臣領民一丸となって、この、おんな城主を認め支えてゆく体制が整ったのでした。直虎をもてなす領民の気持ちは理解できます。駿府に呼び出され、斃れるという悪循環を直虎は断ち切りました。
そのころ井戸端で南渓は、直盛や直親を悼み、感謝しつつ酒を呑むのでした。最近の南渓は頼りになります。
なつは、佑椿尼に小野の屋敷に戻ることにしたと告げます。先ほど誰にも真意が知られない方がいいと書いたのですが、考えを改めました。せめてなつだけは、政次の切ない本意を知り、見守ってもらいたいものです。
駿府では、今川氏真に政次がことの次第を報告します。面白くないと愚痴をこぼす政次ですが、「いずれまた好機はありましょう」という言葉とは裏腹に、どこか嬉しそうな顔をしているのでした。
結局のところ、小野政次は直虎が好きで仕方ないのです。
とりわけ、突拍子もない策で危機を乗り越える彼女が愛おしくて仕方ないのです。
MVP:井伊直虎
激戦でした。
ツンデレの中野直之、度量の広い宿敵・寿桂尼、万華鏡のように表情が変わる小野政次。
しかし今日はやはり、直虎その人であると思います。
駿府に行って、戻るだけ。それだけのことだけれども、その虎口を逃れられなかった井伊直満と直親。その連鎖を直虎が断ち切りました。直虎は、不利になればいったん退き、機転で相手を出し抜き、納得させたのです。
彼女のしたことはシンプルです。それでいて痛快です。知恵、勇気、優しさで皆を守るという役割は王道です。大河だけではなく、物語に登場する勇者としての王道です。
直虎の物語が痛快なのは、その王道としての勇者を今はヒロインがその役目を務めてよいのだと示したことですし、そんな手垢が付いていそうな物語でも、料理の仕方ひとつでこんなにも美味しいのだと視聴者に見せてくれることです。
序盤、直虎がいらないとか目立たないとか散々言われて来ましたが、今こうして前面に出てきた彼女は立派な主役として振る舞い、こんなにも輝いているのです。
総評
ドライ&クールな女、ウエット&ホットな男。そういう回でした。
前述の通り、直虎も寿桂尼も肝心のときにパチパチと算盤を弾いて損得を計算しているわけです。それと比べて、政次のともかく自分の愛情のために自己を犠牲にする精神ときたら。
なかなか面白い対比です。
今週はすごい回です。直虎の男装にはころっと騙されましたし、ともかく爽快なんです。
ドロドロとはほど遠い女同士の争いが見事な一方で、小野政次の不憫さはもはや言葉にならないレベル。本作には人の心をとらえ、引きずり回す大きな力があります。
本作には大きな、何かをなぎ倒すような力があります。視聴率にはつながらないかもしれませんが、力は力です。その底力を感じたのが今回です。
来週以降もパワフルであることを願います!
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著:武者震之助
絵:霜月けい
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【参考】
おんな城主直虎感想あらすじ
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link)