1858年(日本では幕末・安政五年)6月16日は、英国医師ジョン・スノウが亡くなった日です。
この人がすごいのは「原因等を解明したわけではないのに、きちんとコレラ対策を思いついた」ことでしょうか。
イギリス医学の「理由はよくわからんけど、効果があったからそれでおk」という考え方を体現した人といえるかもしれません。
まずは彼の生い立ちから話を進めていきましょう。
コレラが流行りやすい地域に目をつけ分布をチェック
ジョンは1813年3月15日、ヨークで生まれました。
裕福な家の生まれではなく、医師を志して14歳で外科医に弟子入りし、ロンドンの大学を卒業するまでになったといいます。
よほど頭が良かったか、コツコツ勉強したのでしょうね。
出産や外科手術における患者の苦痛を和らげるため、麻酔の推進にも動いていたそうです。
そうした優しい面を持った彼が、やがて当時の流行病対策に興味を持ったのも自然な流れでした。
当時のロンドンではコレラの流行が頻発。
ジョンは解決方法を探ろうと動き出します。
そこでコレラが流行りやすい地域に注目し、罹患者が出た家を地図にチェックしていきました。
結果、罹患者たちが
【共通の井戸】
を使っていることに気がついたのです。
この時点で細菌やウイルスの存在は知られておらず、悪臭や瘴気(悪い空気)が病気をもたらすと考えられていました。
しかし、ジョンの調査によって、その井戸の水がヤバイ!ということがほぼ確定されます。
ジョンはお役所にその点を伝え「あの井戸を使わなくなれば、コレラは減るはずです」と進言しました。
お偉いさんがダメ元でその通りにしてみたところ、見事コレラ患者が激減したのです。
ジョンの自説が証明されたことになりますね。
美しさで知られたテムズ川がひどく汚染されていた
「水」がコレラの発生源であると確信したジョンは、次にテムズ川流域の調査を始めます。
テムズ川は「イギリス一美しい村」として知られるコッツウォルズの近くから、東に向かってロンドンを通り、北海に注ぐ川。
昔から南イングランドの産業にも市民生活にも使われていて、この地域の主要河川でした。
はるか昔は「プロワニダ川」と呼ばれており、その下流にできた町「ロンディニウム」の語源になったとされています。ロンディニウムはロンドンの古名ですから、テムズ川はまさに「母なる川」という存在なんですね。
しかしその「母」は産業の発展や住宅の過密化によって酷使されるようになり、ジョンの時代にはひどく汚染されてしまっていました。
主な原因は、下水が垂れ流しになっていたからです。
この時代のテムズ川を擬人化でもしたら、シンデレラばりのボロボロな姿になるでしょうね。
上記の井戸の調査から、ジョンは「テムズ川にも、これらの元となるようなものが含まれているのでは?」と着想。
そこで、テムズ川の水を使っている地域各所における、コレラの死亡数を調べました。
案の定、下水の影響を受けやすい地点から給水されている地域ではコレラによる死者が多く、そうでない地域では少ないという結果が出ます。
数字にして約5倍、火を見るより明らかでした。
水の話ですけど。
これにより、ジョンは「やはり、コレラ予防には綺麗な水が欠かせないんだ」と考えます。
そこで、各所で垂れ流しだった汚水が一旦下水道に集められ、市街地よりも下流で流されるようになり、ロンドンのコレラ患者は激減したといわれています。
下水道はすぐ作れるものではありませんから、コレラが減ったのはジョンが亡くなってからかなり後のことですけれども。
紅茶の大衆化で水を沸かすようになりコレラも減る
ジョンが亡くなった直後。
1858年の夏にはあまりにもテムズ川の悪臭がひどく、ウェストミンスターの下院議会が「臭すぎて審議できないんで別の場所でやりますね(´・ω・`)」(意訳)という珍事が起きています。ワロエナイ。
これを「グレート・スティンク(”大悪臭”の意)」と呼んでいるのですが、下水道が整備されたきっかけはこの悪臭騒ぎも理由だったとか。
それまでテムズ川河口では質の良い牡蠣が採れていたのに、これらの汚染のせいで激減してしまったともいわれています。
牡蠣は岩に張り付いてからほとんど動かないらしいので、水が汚染されるとあっという間にダメになってしまうんでしょうね……もったいない。
また、この時代に紅茶が大衆化し、「水を沸かしてから紅茶を淹れて飲む」ことが広まったこともコレラが減った理由といわれています。
現代のイギリス軍でも紅茶を入れる設備や紅茶の配布が重視されているのは、「紅茶を飲んでいれば病気にならない」みたいな潜在意識があるのかもしれませんね。
イギリス料理がまずいとされる理由の一つ、「加熱のしすぎ」もこの辺りの事情から来ているのでしょうか。そりゃ火を通せば菌は死にますけど……(´・ω・`) 一方で、焼き菓子に高評価なものが多いのは、「じっくり時間をかけて焼いているから大丈夫」という安心感があるのでしょうか。
戦場はともかく、現代の都市部で水を原因として食中毒が起きることはほぼないわけですし、これからはマシになっていくと思いたいところです。
長月 七紀・記
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【参考】
なるほど統計学園高等部/総務省
下水道の歴史/国土交通省
John Snow/wikipedia