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【『ダウントン・アビー』関連本】
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執事以外に、食料品にまぎれて安酒のジンを買い込む料理人にも、酒の誘惑は耐え難いものがあったようです。
語り手の一人も、仕事のプレッシャーをまぎらわせるために、アルコール中毒になってしまったと語っています。
彼は主人から「大事な話がある」と呼び出されました。てっきり解雇されるのかと身構えていたら「一緒に頑張って病気を治しましょう」と治療をすすめられ、アルコール中毒を克服したとか! なんとまぁ、主人と使用人の強い絆を感じさせるエピソードでしょうか。
酒を嗜むのは使用人だけではありません。毎晩飲み過ぎて昼まで寝ている主人に閉口した、という話も。
厳格で、禁酒主義者の主君の飲み物に少しアルコールを混ぜて、軽く酔わせて機嫌をよくしていた、という話もあります。
優雅な話でありながら、常にうっすらとアルコールの香りがするような、そんな不思議な体験談の数々。優秀なだけではなく、ちょっとした茶目っけも感じてしまいます。
『わたしはこうして執事になった』(→amazon)
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王族だろうと、嫌いな人は嫌い
本書は使用人目線から、有名人の素顔をそっと見られる楽しみもあります。
アスター夫人ほどの貴族となると、王族も遊びに来る。ゲストとして訪れたチャーチルの印象目撃談もありました。歴史ネタとしてこのあたりも貴重です。
プロフェッショナルである彼らは主人を敬愛していますし、王族との出会いをうっとりと振り返る使用人もいます。
そうかと思えば、主人の気まぐれな性格を厳しく指摘し、王族でも扱いにくいし困った人だった、とハッキリ言えるのがイギリスらしさとも思えます。
王族を心から敬愛して、いただいたネクタイピンを宝物だと語る人もいますし、そっけなく振り返る人もいます。
「王冠を捨てた恋」で有名なエドワード8世は、「乗馬が下手なくせに馬にやたらと乗りたがる」とか「身分が身分だけに心配かけさせられて不愉快だった」と忌々しげに回顧されたりしています。
「王冠をかけた恋」を選びイギリス王を退位したエドワード8世
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ここまではっきりと言い切れる、そのあたりにもイギリスの国民性を感じます。
主人と使用人が対等
これはもちろん本書に登場するような上級使用人、かつ成功した人に限られたことかもしれません。
が、読んでいくうちに彼ら自身は主人と自分の間に上下をあまり感じていないのではないかと思えてきました。
もちろん主人の命令には従うものですし、雇用関係はあります。
ただ、主人も使用人もお互い「使用人がいなければ主人は何もできない」ということがわかっているのです。
その関係は複雑で、どこか友情や同志愛のようなものも感じさせます。彼らの結びつきは奇妙で、型に当てはめて考えられるものではないのです。
本書は使用人制度の解説や詳細は含まれておらず、歴史的なイベントについても説明がありません。
そういう意味ではある程度そのあたりの知識がある人向けでしょう。
『ダウントン・アビー』のファンであれば問題はありません。
ドラマ以上に奇妙な人々が登場する本書。激動のシーズン6を見終えて、あの人物もこんなふうに回顧録を出したのかな、なんて想像しつつ読んで、是非ロスをいやしてください。
小檜山青/記
【参考】
ダウントン・アビー6/NHK公式サイト
『おだまり、ローズ: 子爵夫人付きメイドの回想』(→amazon)
『わたしはこうして執事になった』(→amazon)