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【ガイ・フォークス・ナイト】
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ジェームズ一世の即位でカトリック信者は一瞬喜んだが
そんな嫌われ女王として崩御した姉の姿を見ていて、後継者のエリザベス一世は慎重な対応をチョイスします。
彼女はどちらにも属さない「中道政策」を取るのです。
慎重かつ懸命な判断でありましょうか。
エリザベス一世は生涯独身であり、後継者を決める大仕事が残っており、彼女が指名したのがジェームズ一世でした。
ジェームズ一世は、母がメアリー・ステュアートでカトリックです。
しかもエリザベス一世によって、陰謀計画の疑いで処刑されていました。
メアリー自身は政治センスがなく軽薄で、君主としての適性を欠いていました。おとなしくしていればよいものを、杜撰な陰謀計画をしばしば立てて、そのために命を落としております。
しかし、死ねば「殉教者」として美化されるものです。
カトリックの間では、邪悪なプロテスタントによって殺された犠牲者として、彼女はまつりあげられていました。
その遺児ジェームズ一世がイングランド王になったのですから、カトリックは喜んだわけです。
「お母上の無念を晴らし、この国を正しい方向に導くはずだ!」
しかし期待は大きく裏切られます。
そもそもジェームズ一世は、悲運の母に冷淡でした。
それも無理のないことで、メアリーはジェームズ一世の父である当時の夫を謀殺したと噂されていました。
物心つく前に母と生き別れたジェームズ一世に、母の甘い記憶はなく、かえって父殺しの嫌悪感が残っていたのです。
成長すると、その嫌悪感は厄介払いしたい気持ちに変わりました。
「さっさと死んで、俺にスコットランドとイングランド、二つの王冠をよこしてくれ」
そのあたりが、ジェームズ一世の本音でしょう。
こうなったら議事堂を国王ごと吹っ飛ばせ!
ジェームズ一世ははじめこそ、宗教に寛容でした。
「カトリックがコソコソとするような社会は変えるべきだ」
ぶつかりあう両方の過激派を取り締まればいい、と彼は考えました。あくまで過激な連中を取り締まればよいはず、というわけです。
これはうまくいくどころか、失敗しました。
「あんな奴らと一緒にやれるかッ!」
「なんで俺らが取り締まられるんだッ!」
どっちつかずの中立の考えというのは、時に双方から突き上げをくらいます。
ジェームズ一世の宗教政策はまさにこのパターンでした。
「わあ、なんだか思っていたよりカトリックが多くて、困ったことになったぞ。やっぱり今までのなしということにしよう……」
そんなやり方に、過激派カトリックは納得しません。
やっと念願のメアリーの遺児が王位についたのに、思っていたのとは全然違うのです。
「もうこれは実力でわからせるしかない。議事堂ごと吹っ飛ばしてやる!」
ガイ・フォークスとその一味は、実力行使に出ることにしました。
大胆極まりない計画は間一髪のところで取り押さえ
その計画は大胆極まりないものでした。
ウェストミンスター宮殿内の議事堂を火薬で吹っ飛ばし、国王やプロテスタントの重臣を殺害、国を乗っ取ろうというもの。
まさしくテロ計画(当時その言葉はありませんでしたが)に他なりません。
この大胆不敵なテロ事件は、幸いにして未遂で取り押さえられました。
オランダでの従軍経験を持ち、火薬に長けたガイ・フォークスでしたが、現場で火薬を設置していたところを捕らえられてしまったのです。
まさしく間一髪ですね。
彼はおそるべきテロリストとして、最も重い「首吊り・内臓抉り・四つ裂きの刑」で処刑されました。
その死から四百年以上を経ても、彼の人形は毎年11月5日に引きずり回されているわけで、これが「ガイ・フォークス・ナイト」のあらましです。
ただし、現在のガイ・フォークスは燃やされるだけの人物ではありません。
コミックおよびその映画化作品『Vフォー・ヴェンデッタ』において、ガイ・フォークスの仮面は重要な小道具として用いられました。
この作品以降、マスクはお祭りの小道具としてだけではなく、反体制のシンボルとして用いられるようになりました。
有名なところでは、反体制的なハッカー集団「アノニマス」のメンバーやオキュパイ運動参加者が着用しているアレです。
大失敗から四世紀を経て、ガイ・フォークスは反逆英雄としての名を獲得したと言えるのかもしれません。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
ブレンダ・ラルフ ルイス/高尾菜つこ 『ダークヒストリー 図説 イギリス王室史』(→amazon)