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【世界初のロンドン地下鉄「Tube」】
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防空壕として大活躍
かくしてロンドン市民に愛されるようになった地下鉄。
20世紀に入ると、イギリスの国家的な危機で大活躍します。
活躍したのは地下鉄の車両ではなく、ホームや路線、トンネルです。
というのも、ナチスドイツ軍によるロンドン爆撃「バトル・オブ・ブリテン」の最中、地下鉄が防空壕の役割を果たし、多くの市民の命を救ったのです。
30万人もの人が避難した日もあったそうで。酸欠になりそうですが……。
政府は当初、地下鉄をこうした用途で使うことに反対でしたが、後にベッドやトイレなども整えられていきます。
ただし、丸一日防空壕になっていたわけではなく、午後4時までは通常通り地下鉄を運行していたとか。
これほどの人数をすぐ避難させられるような場所を確保するのも難しいですし、移動させている途中の船や列車が爆撃されないとも限りませんもんね。
もし、ここで政府が「地下鉄を使って郊外に逃げろ!」という方針を取っていたら、人々の混乱によって犠牲が増えてしまったかもしれません。
また、地下鉄の軌道を、地下工場に転用したこともあったそうです。
大戦勃発で地下鉄を走らせられなくなってしまったものの、「何かの施設としては使えるんじゃない?」ということでそうなったのだとか。
頭が柔らかい人がいたのでしょう。
日本が参考にした地下鉄はアルゼンチン
地下鉄の歴史で面白いのは、ロンドンで発祥したにもかかわらず、中々ヨーロッパに広まらなかったことでしょうか。
次に地下鉄が開通したのは、意外なことにトルコのイスタンブール。
正確には「地下ケーブルカー」だったそうですが、こまけえこたぁ……。
その次はハンガリーの首都・ブダペストで”最初から電化された”初の地下鉄が導入され、19世紀と20世紀の境目くらいの時期には、アメリカ・フランス・ドイツなどでも作られました。
意外なところ?では、アルゼンチンが1913年に首都ブエノスアイレスで地下鉄をスタートさせています。
遅れること14年、1927年には日本でも初の地下鉄・銀座線が浅草~上野間で開通していますが、ブエノスアイレスを参考にしていました。
現在、ブエノスアイレスの地下鉄では、日本の中古列車が使われているそうで、地球のほぼ裏側の国同士でそんな繋がりがあるとは、ちょっと親近感がわきますね。
なお、車両受け渡しのため東京メトロ(当時は営団地下鉄)の社員が現地を訪れた際、あまりの設備の悪さに( ゚д゚)ポカーン状態になり、技術指導を行ったとか。
まあ、ラテンアメリカの国ではよくあるというか何というか……。
遺跡の多い国では敷設が難しい?
その後は徐々に、世界中へ地下鉄というシステムが広まりました。
ロシアのモスクワ地下鉄は、豪奢な意匠で有名ですね。
この豪華な細工を、式典に間に合うように突貫工事で作らせたそうです。無茶振りにも程があるやろ。
第二次世界大戦後も北欧やイタリア、アジア、南アメリカなどに地下鉄が広まり、住民はもちろん、観光客の足としても欠かせない存在になっていきました。
しかし、地下鉄はその構造上「遺跡の多い国では敷設が難しい」という欠点があります。
例えばイタリアやギリシャでは、「遺跡が見つかるたびに路線変更や調査のために工事が中断」なんてことが起きるわけです。
日本でも京都府や奈良県などでちょくちょく聞く話ですね……。
◆ギリシャで地下鉄工事中に古代遺跡発掘 論争の末、遺跡と共存する地下鉄が開通(→link)
それを乗り切った(?)のが、メキシコの首都・メキシコシティ地下鉄です。
かつてはアステカ帝国の首都・テノチティトランだったはずですし、近年にも遺跡が見つかっているのですが、地下鉄は1969年に開通しています。
調べた限りでは、地下鉄工事中における遺跡関係のトラブルは出てこなかったのですが、大丈夫だったのかな……。
地下鉄開通後の1978年にも、「テンプロ・マヨール」という遺跡が地下鉄の駅のすぐ側で見つかっていますので、ある意味神業というか何というか。
いっそ、遺跡が出たら出たで建築計画の方を変更し、遺跡に影響がなくアクセスしやすい位置に駅や線路を作り、利便性を上げて観光客からガッポガッポ儲けてしまえばいい気もしますが。
まあ、現実にはそううまくいきませんかね。
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長月 七紀・記
【参考】
川成洋/石原孝哉『ロンドン歴史物語 (丸善ライブラリー)』(→amazon)
日本大百科全書(ニッポニカ)
日本地下鉄協会(→link)