こちらは3ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
【モンテスパン侯爵】
をクリックお願いします。
お好きな項目に飛べる目次
お好きな項目に飛べる目次
全力で寝取られアピールする男
モンテスパン侯は考えました。
この状況で、どうやって愛妻を取り戻すか?
1. 教皇庁に妻と国王を訴える
2. 愛妻が心変わりして戻って来るのを祈る
3. 愛妻は戻らない……現実は非情である
考えに考えて、彼が出した結論は……
結論は「3」の「愛妻は戻らない……現実は非情である」でした。
もう何をしたって以前のように愛妻は戻らない。とにかく現実は非情だと悟ったのです。
ここらへん、意外と冷静なんですよね。
いったん離れた女性の心を取り戻すのは、そう簡単ではありません。
そこで次に彼が考えたのはこんな復讐作戦でした。
1. 娼婦を抱いて性病に感染する
2. その状態で妻を抱く
3. 妻も性病に感染する
4. 妻経由で憎たらしい国王も性病に感染する
なるほど、完璧な作戦っスねーっ!
不可能だという点に目をつぶればよぉおおおおお!
いや、もう、笑ってしまうほかないんですが、色恋沙汰でメガネの曇った人々は、得てしてこんなものかもしれません。
第一段階で性病に感染するという涙ぐましい自己犠牲までは、なんとかうまく行きました。
そしていよいよ第二段階。
フランスワーズと面会の約束を取り付けたモンテスパン侯は、周囲に人が居るにも関わらず、妻を抱こうとします。
「ギャーッ! 誰かーッ!」
たまらず隣室へ逃げ込むフランソワーズ。
騒ぎを聞きつけて召使いたちが押しかけ、作戦はあえなく失敗に終わりました。
詳細は不明ですが、状況からして下半身剥き出しで捕まったでしょう。
結局、彼に残ったのは凄まじい屈辱と、「あの人ちょっとどうなの?」という恥ずかしい噂、そして妻からの軽蔑だけでした。
ルイ14世に渾身の嫌味を放って逮捕、トホホ
もうこうなったら、次はわかりやすい嫌がらせです。
モンテスパン侯は喪服に身を包み、宮中へ向かいます。
ルイ14世は怪訝な顔で彼に尋ねました。
「お気の毒に。どなたがお亡くなりに?」
モンテスパン侯はギロリと王を睨むとこう言い放ちました。
「愛する妻です。二度と彼女に会うことはないでしょう」
そう言うとあてつけがましく足音を立てて、背を向けて立ち去りました。
王はポカンと相手の背中を見送りましたが、やがて猛烈に腹が立ってきました。
「家臣たるもの国王の機嫌を取るものなのに、あの傲慢な男はなんなのだ。逮捕しろ!」
モンテスパン侯は二週間を牢獄で過ごしたあと、釈放されました。
そして、何をしでかすかわからない危険人物として、許可無く領地を出ないことが条件としてつけられたのです。
モンテスパン侯は馬車を黒く塗らせました。
これが現代風に言うと、車を黒塗りの霊柩車に変えるような感じでしょうか。
馬車の御者台には角が二本つけられ、家紋を書き直す時も角をつけるよう指事しました。
「寝取られ男」は角が生えるという言葉から来たもの。なんだかオシャレというか、奇行極まるというか、あるいはこれがフランスのエスプリってやつですか。違いますね。
さらに彼は、領地に戻ると、盛大な「公爵夫人の葬儀」を一ヶ月掛けて行い、喪に服しました。
彼は隠すことなく、全力で周囲に「俺は寝取られました」アピールをしたのです。
モンテスパン侯の全力寝取られ男アピールは、宮廷の人々をあきれさせたものの、パリ市民には「面白くて反抗的な貴族もいるんだねえ」と好意的に見られました。
領民たちは彼の人柄を敬愛していたので、心から同情を寄せ、美しい侯爵夫人の不在を悲しみました。
ここまで熱心に寝取られ男をアピールしたのは「本当は妻のおかげで出世できたと喜んでいるんじゃないの?」というゲスの勘ぐりを断固阻止するためでもありました。
彼の貴族の友人たちは、その災難を真面目に受け止めません。
しかし純朴な領民たちは、心の底から同情してくれたのです。
ここまでしてやっと、モンテスパン侯の気持ちは落ち着いて来ました。しかし……。
※続きは【次のページへ】をclick!