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【モンテスパン侯爵】
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「てっぺんとったるで!」の女だった
確かにフランソワーズは、夫を深く愛していたかもしれません。
言い寄る相手を憎たらしいとすら思っていたかもしれません。
しかし、プライドの高い女性でもありました。
フランソワーズは女官として、宮廷に出仕していました。
そこには美貌で知られた国王ルイ14世と、その可憐な寵姫ルイーズ・ド・ラヴァリエールがいたのです。
フランソワーズが大輪の薔薇のように華麗な女性ならば、ルイーズは野に咲く菫のように、愛らしく控えめな女性。
二人は親友になりますが、やがてフランソワーズの胸の奥に野心が疼いてきました。
「この私が、地味系のルイーズに負けているっておかしくない? ありえなくない?」
フランソワーズは王の寵姫になろうとは考えていませんでした。ただ、宮廷で注目度ナンバーワンの女になりたかったのです。
「やるからにはてっぺんとったるで!」の心意気ですね。
ルイーズと張り合ううちに、フランソワーズは宮中でも目立ち始めます。
何せ美貌と知性の持ち主ですから、それも当然。するとプレイボーイで有名なルイ14世もうっとりとした目でフランソワーズを見つめるようになりました。
まずい。フランソワーズは冷や汗をかきました。このままでは、いずれ自分は王のものにされてしまう。
目立ちたいのは事実。
国王の寵姫がフランス女のてっぺんであるのも事実。
でもまだ夫を愛している……このままでは欲望に負けてしまうかもしれない。
そこで切々と、出かける夫に不安を告げたのです。
それなのに彼は訴えを無視して、出かけて行きました。
フランソワーズの中で何かが砕け散った瞬間でした。
寝取られコメディを見て本人が大爆笑
1669年。
戦場で頑張るモンテスパン侯は、久々にパリへ戻りました。
モンテスパン侯は“寝取られ亭主”を描いたコメディ演劇を見て、観客席で大笑いしていました。
「おい、あの人って確か……」
「まさか、自分の状況を知らないとかって、マジか?」
周囲の観客は袖を引き合い、何も知らずに大口開けて笑っているモンテスパン侯の様子を見ていました。
見かねた彼の友人が、そっと彼に告げました。
「きみ、奥方の噂のことは何も知らないのか?」
「噂って何のことだい?」
ついに彼は知ってしまいました。愛する妻が、国王の愛人になっているということを。
「嘘だぁあああああああああッ!」
国家のために戦った、家臣の妻を寝取る国王の破廉恥!
愛する夫を裏切り、家に恥をかかせた妻の不貞!
モンテスパン侯爵の頭の中をぐるぐると妻の姿が回ります。
そういえば出かける前、なんか訴えてきたっけ。
「なんであのとき、気づかなかったんだ! 俺のバカ!」
モンテスパン侯は慌てて宮中にすっ飛んで行きました。
再会した妻のお腹がふっくら
宮廷では、廷臣たちがニヤニヤ笑い、目配せしながら彼を見てきます。
中には「いやあおめでたいことですなあ。これで出世間違いなしです」と言ってくる者まで。
彼らの態度から、自分が寝取られ男という噂が本当なのだと、モンテスパン侯は悟りました。
パリ郊外の家で妻と久々に再会したモンテスパン侯は、目玉が落ちそうになりました。
妻の腹がふっくらとしていたのです。自分以外の子を妊娠していたのでした。
「なんてことをするんだ!」
カッとなって思わず妻に手を上げてしまいます。夫の怒りに驚き、フランソワーズは急いで逃げ出しました。
寝取られ男になったモンテスパン侯は、パリ中の友人知人の家を歩いては愚痴りました。
しかし周囲の反応は冷たいものでした。
妻の父はじめ一族は「いやあ、これで運が向いてきたなあ」と喜ぶ始末です。
他にも……。
「国王陛下相手じゃ今さら無理だって」
「お前が留守にばっかりしているのも、よくなかっただろう」
「女なんて他にいくらでもいるさ。なんならいい子紹介しよっか?」
こんな調子で、誰もマトモに相手にしてくれません。
一体どうすればいいのだろう?
この時点では、王の公式寵姫はルイーズであり、まだ妻を取り戻せるチャンスはありました。
「どんな手を使ってでも、俺はフランソワーズを取り戻す!」
しかし彼は知らないのです。
フランソワーズの愛は醒め、彼女の狙いはもはや公式寵姫の座にあることを。
それを邪魔する夫に激怒していたことを。
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