1600年(日本では慶長五年)の2月17日、ジョルダーノ・ブルーノという修道士で学者だった人物が火刑に処されました。
火刑といえば、キリスト教では異端者とみなされた者がかけられる最も重い刑です。
他にはジャンヌ・ダルクが有名ですが、彼女も「神の声を聞いたなんて嘘をつくのは魔女だ!」とされたためこの刑になりました。
では、ジョルダーノはなぜそんな刑を受けることになったのか?
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日本にも縁の深いドミニコ会へ17歳で入会
彼はイタリアがまだ統一されていなかった頃、ナポリ王国のノーラという町で兵士の家に生まれました。
14歳でナポリ大学へ。
17歳でドミニコ会という修道会に入ったといいますから、生まれつきかなり頭の良い方だったと思われます。
”修道会”の意味と仕組みもざっくり書いておきましょう。
細かいことを言えばいろいろ種類があるのですが、共通点は
【教会で共同生活をしている聖職者の団体】
であるということです。
男子修道会と女子修道会があり、異性との交流は基本的にありません。
ジョルダーノが所属していた「ドミニコ会」は日本とも縁の深い修道会で、戦国時代に渡ってきていたことがあります。
江戸時代には禁教令によって殉教者が出たため、数は減りましたが、彼らと接触した日本人が隠れキリシタンに繋がっていきます。
明治以降再びやってきて、現在も活動しておりますので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。
「教会が教えている宇宙の概念、間違ってない?」
話をジョルダーノに戻しましょう。
共同生活を送っていた彼は、持ち前の頭脳でさまざまな分野の知識を身につけ、ある疑問を持つに至りました。
それは、
「教会が教えている宇宙の概念は、本当は間違っているのではないか?」
という、修道士には似つかわしくないものでした。
どこかでこれを口に出したらしく、彼は異端の嫌疑をかけられて国を追われることになります。
パリやロンドン、フランクフルト、プラハ……。
イタリアを去ったジョルダーノはヨーロッパ各地で教職に就いたり、著作をして28歳から44歳までを過ごします。
そのまま半放浪の暮らしを続けていればよかったのかもしれませんが、ヴェネツィアの貴族に「君、頭がすごくいいんだってね! よかったら記憶術を教えてくれないかい!?」(意訳)と誘われ、イタリアに戻ることを決めました。
なお、現在は”イタリア”という一つの国ですが、前述の通り当時はまだ統一されておらず、ナポリやローマとヴェネツィアは違うでした。
火あぶりの刑にかけられても悲鳴一つあげず
しかし、というか案の定というか、イタリアに戻った彼は
「異端者が戻ってきたぞ!!」
と勝手知ったる教会にしょっ引かれてしまいます。
そしてズルズル7年も投獄。
そのうえ「教会の教えに逆らうとはけしからん!」という現代の感覚だとイチャモンにしか聞こえないような理由で火刑に処されてしまったのでした。
当時の人々、特に教会関係者にとっては
「俺らが大正義! 逆らう奴は神に逆らったことになるからブッコロ!!」
ってな感じだったので、国に帰ればどうなるかジョルダーノが知らなかったわけはないんですけどね。
彼の意思は最後の最後まで強固で、懺悔のための十字架にはそっぽを向き、執行人に対しこんな言葉を放ったと言います。
「私に死刑を宣告したあなたがたの方が震えているじゃないか、正しいのがどちらかわかっているんじゃないのか」
さらには火がつけられても悲鳴一つ上げなかった、と。
常人からすると悲劇にしか思えませんが、ジョルダーノは二つの意味で良い結果を残しました。
地球は回ってるけど、いったん引いておきます、ヤバイから
一つは「あまりにも教会に対し強硬姿勢を取り続ければ、絶対に処刑される」ということの証明です。
同年代に生きていたガリレオ・ガリレイが地動説を主張して裁判にかけられたのはこの後の話。
彼が「それでも地球は回っている」としながら一度引き下がったのは、ジョルダーノがこうした経緯で処刑されたことを知っていたからなのです。
もう一つは「地動説が正しいかもしれない」という可能性を残したことでした。
ジョルダーノの残した著作は禁書とされ、ほとんど教会に処分されてしまいましたが、それでもわずかに流通し続けました。
出版されたのがイタリア半島ではなく、他の国だったからです。
そのためイタリア以外の国の学者達が彼の本によって考えを広げ、ときには翻訳されてさらに広まりました。
イタリアでも「俺達統一しようぜ!」という運動が起きた際、「あれ、ジョルダーノって実はすごくね?」と気付いた人々がおり、再評価の動きが起こり始め、彼の事跡が正当に評価されることになったのです。
今では月のクレーターの一つに彼の名前がつけられているそうで。
宇宙に関する著作を行った人としては嬉しいでしょうねえ。
長月 七紀・記
【参考】
ジョルダーノ・ブルーノ/Wikipedia
ガリレオ・ガリレイ/Wikipedia