1900年(明治三十三年)1月14日、ローマでプッチーニのオペラ『トスカ』が初演されました。
『蝶々夫人』などと同じ作曲家ですので、「何となく聞いたことある」という方もいらっしゃるでしょうか。
本日は、作品と同時に彼の足跡を追ってみましょう。
お好きな項目に飛べる目次
紆余曲折を経てプッチーニが作曲することに
『トスカ』は、現在でこそ教科書にも載っている名作ですが、当時は評価の分かれる作品だったそうです。
特に評論家達=いわゆるプロと、一般客=アマの間で真逆に近い受け取られた方をしていました。
前者いわく「効果音が鳴りっぱなしでうるさい」というのがお気に召さなかったようで。作曲家・指揮者として有名なグスタフ・マーラーは「これを最大級の駄作と言う必要もない」とまで言っていたとか。ひでえ。
もしかしたら、作曲の経緯も多少演出に関係しているかもしれません。
というのも、プッチーニが最初この題材で劇をやっているのを見て、知り合いに「あれをオペラにしたいから、権利を買ってよ」と頼んだところ、別の作曲家に先を越されてしまうということがあったのです。
しかもその作曲家は「やっぱり僕じゃできないので、プッチーニさん続きをやってくださいよ」というアレなお願いをしてきました。
当然、気分を害したプッチーニはなかなか引き受けようとはしませんでしたが、同時代・同国出身の音楽家・ヴェルディ(『アイーダ』や『椿姫』の人)が仲介し、ようやく作曲を引き受けています。
ただ、脚本家達の間でも意見が割れてさらに揉め、ようやく出来上がったのは三年後でした。
これほどトラブル続きでは、ちょっと思い切ったことをやってみたくもなろうというものです。
背景としては(も)面白いですから、当時ドキュメンタリー番組があったら取り上げられたかもしれませんね。
彼氏が死刑判決を受け、彼女も後追い自殺
こうした裏事情とは裏腹に『トスカ』のストーリーは割とシンプルなものです。
主人公はイタリアの画家カヴァラドッシと女性歌手トスカ。
普通は、二人がくっつくまでの恋物語かと思ってしまいますが、そうではありません。ストーリー開始時には既に恋人ですから。しかしストーリー的に考えると「爆発しろ!」とか言えない。
ものすごく端折ると、
「画家=彼氏のほうが政治犯を助けたことで自分もお縄になってしまい、死刑判決を受けたのをトスカが助けようとしていろいろ頑張ったものの、刑は執行され絶望した彼女も自殺する」
という話です。こう書くと夢も希望もありませんけども、ホントにこうだから仕方ない。
オペラの中でも、見せ場の多さで特に有名な演目の一つとなっています。
ワタクシもオペラにめちゃくちゃ詳しいというわけではないのでこれは推測なのですが、多分中盤の「ヒロインがある登場人物を刺し殺す」という場面が珍しくてウケたのではないかと思います。
『カルメン』や『アイーダ』のように悲恋や悲劇をテーマにしたオペラは多いですが、戦死や毒殺で退場する人物はたくさんいても、直接刺殺される話は少ない気がするんですよね。
しかもヒロインの手で、というのがミソです。ミステリーでは女性が犯人というのも珍しくはありませんが。
ちなみに上記の二つがファーストネームなのでトスカもそうかと思いきや、実はトスカもカヴァラドッシも名字です。
こっちのほうがわかりやすいかなと思って名字で統一したのですが、これって日本で例えると「山田」っていうタイトルで歌舞伎をやるようなものですよね。そう考えるとすげえな。
※全国の山田さんをディスる意図はございません
荒川静香が金メダルを取った「誰も寝てはならぬ」
さて、プッチーニのオペラでは『トゥーランドット』も有名ですね。
2006年のトリノオリンピックで、荒川静香選手がこれに出てくる「誰も寝てはならぬ」を使って金メダルを獲得したことでより知られるようになりました。
なんでそんな無茶振りなタイトルなのかというと、もちろんストーリーと関係があります。
舞台は中国・北京ということになっていますが、タイトルからもわかる通り、人名などは中国風ではありません。
この時代のヨーロッパでは東洋風の芸術が流行だったので、何となく世界観をそれっぽくしたようです。
話自体は『竹取物語』に少し似ていて、
「美姫・トゥーランドットにプロポーズするならば、彼女の出す三つの問題を解かなければならない」
というところから始まります。ただし解けなかった場合は斬首という、一か八かどころじゃないハードモードです。
かぐや姫の難題をこなせなかった五人もロクなめに遭っていませんけども。
そんな感じだったので、姫の恐ろしさは国中どころか外国にも伝わっていたのですが、とある国のカラフという皇子がたまたまトゥーランドットを見かけ、一目ぼれしてしまいます。
彼の国の大臣達は「あんなおっかないお姫様やめてくださいよ!」と止めるのですが、恋は盲目。
皇子は「私こそあなたの夫にふさわしい!」と大宣言をかましてしまいました。
アレンジを加えて大成功!
しかし、当然のことながらその程度で姫はなびきません。
大臣達に泣きつかれた皇子の父・皇帝も「もうちょっと相手を選びなさい(´・ω・`)」と諭しましたが、やはり効果はありませんでした。
ただし、姫に会うことくらいはできたので、皇子は彼女からの謎かけに挑戦するチャンスを得ます。
そして見事皇子は三つの謎を解くのですが、トゥーランドットはそれでも首を縦に振りません。往生際が悪いですね。
カラフは心の広い男で「それなら、私も一つ賭けをしましょう。もし明日の朝までに、私の名を調べることができたら潔く死にます。できなかったら結婚してください」と言いました。
ここでトゥーランドットは、彼の名を調べるために「今夜は誰も寝てはならぬ」と命じ、あの曲が流れるというわけです。
経緯はアレですが、曲の素晴らしさは皆さんご存知の通りですから細かいことは言いっこなしにしましょう。
もともとこのタイトルで別の作曲家がオペラを作っているのですが、ベルリンでそのうちの一つを見てプッチーニも書いてみようと思ったとか。
元々ドイツびいきだったので、ベルリンでヒットしているのに憧れたとも言われています。ちょっと可愛いですね。
ただし、そのバージョンを含めて彼以前に11人もの作曲家がオペラを作っていたため、プッチーニは何かオリジナルの工夫をしようと考えます。
そして主人公のトゥーランドット姫が冷たい女性だというので、真逆の人物を登場させようと考えました。それがリューというメイドです。
彼女はクライマックスで重要な役割を持っているのですが、原作には登場しないんですね。
有名な小説やゲームなどが映画・ドラマ化される際いろいろなアレンジをされることがありますけども、このオペラの場合は大成功だったということになります。
何せプッチーニのものが有名すぎて、他のバージョンはほとんど知られていないくらいですし。こういうのってさじ加減を間違えると大ブーイングをくらいますからねえ。
曲が未完成のまま喉頭がんになって死亡
しかし、プッチーニはこのオペラを書き始めたあたりから喉頭がんになっており、最後まで作り上げることが出来ずに亡くなっています。
友人が後を引き継いで完成させたのですが、現在主に演奏されているのはその短縮版です。
完成直後のものは当時権威のあった指揮者が大胆にカットしたのだとか。
最近はノーカット版も増えてきたそうですが、いずれにせよ、後半部分についてはプッチーニの意図がどこまで反映されているかわからないということですね。
ところで、なぜ芸術作品に登場する女性はヤンデレというか一癖も二癖もある人が多いんですかね。
話が盛り上がるっちゃ盛り上がりますけども、もうちょっと健全な方向でクライマックスにするのは難しいんでしょうか。かといってアメリカ映画みたいに舞台で女子力(物理)を発揮するヒロインばかりでもイヤですが。
バランスって難しい。
あわせて読みたい関連記事
長月 七紀・記
【参考】
ジャコモ・プッチーニ/Wikipedia
トスカ/Wikipedia
トゥーランドット/Wikipedia