杉元佐一

漫画『ゴールデンカムイ』31巻/amazonより引用

ゴールデンカムイ

『ゴールデンカムイ』杉元佐一を徹底考察!真っ直ぐな生き様 そのルーツに迫る

「俺は不死身の杉元だ!」

漫画『ゴールデンカムイ』の連載が始まり、主人公である杉元佐一が最初にこの言葉を発したとき、皆さんはどう感じました?

ちょっと中二病的なセリフだな……とは言いすぎかもしれませんが、「不死身」というキーワードに、若干大げさだな、という印象を抱いた方もいたのではないでしょうか。

そしてその印象は、物語が進むにつれ、消えていったはずです。

自身を奮い立たたせながら、前へ前へと突き進んでいく杉元。

それでいて平時は繊細な感覚を持ち、何事に対してもフラットで、一言でいえばカッコいい。ただし、本人の心中には拭えぬ苦しみもあり、物語を見る者には、憧れだけではない複雑な感情も抱かせるような……。

そうしたキャラクターは、一体どんな土台から醸成されていったのか。

当時の歴史的背景を踏まえながら、杉元佐一という人物を考察してみましょう。

 


杉元は神奈川県出身

杉元佐一は神奈川県の出身。

彼のキャラクターを考える上でこれはなかなか重要な点かもしれません。

『ゴールデンカムイ』では、出身地による要素には濃淡があり、例えば士族ルーツであるとその傾向が強くなります。

薩摩隼人であることを誇りとする鯉登音之進

機関銃を操り河井継之助を彷彿とさせる鶴見中尉がその代表格でしょう。

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では杉元はどうか?

神奈川県というエリアは、明治の藩閥政治の色合いは薄いと言える。

たしかに鎌倉時代に幕府はありましたが、以降、政治の中心からは遠かったのが相模国。

江戸時代の徳川幕府は、江戸に近いことを考慮して大藩を置かず、小田原藩を例外に、残りは旗本の直轄地が多い土地となりました。

ただし、江戸に近いからこそ、最先端の流行は追える。

例えば神奈川県内には浮世絵を展示する施設があります。

江戸に近いだけに、同地域に住む人々は浮世絵を集めることができ、かつ保管していたことも多かった。ゆえに神奈川の古民家から浮世絵コレクションが見つかることはしばしばある。

この土地の人々は、海沿いの温暖な気候と、江戸にほど近い垢抜けた感性が特徴となってゆくのです。

そんな神奈川も、幕末以降は一気に騒がしくなります。

ご存知、黒船の来航です。

小さな漁村に過ぎなかった横浜が、瞬く間に都市として発展して外国人居住地もできる。それに伴って西洋食材を販売する店など、新たな文化が根付いてゆく。

もともと江戸に近く、洗練されていたこの地の人々は、日本の近代化最先端の目撃者となります。

横須賀には幕府による製鉄所が作られ、日本海軍の基礎もここから始まりました。

変わりゆく時代の流れを肌で感じながら生きてゆく。他の地域よりもそのスピードは早いであろう、それが神奈川県の明治時代でした。

ただし、それはあくまで都市部での話。

杉元佐一が育った場所は、小さな村でした。

エビフライやカレーライスの知識はあっても、ティーカップを正しく持つ鯉登とは異なり、洋式テーブルマナーは知りません。

まさに神奈川の庶民出身者らしい洗練度といえます。

そんな藩閥の色がつかない土地から、何にも縛られず、北海道へ来たのが杉元佐一という男でした。

 


結核に一家が取り憑かれてしまい…

やれ明治維新だ、文明開化だ――とは言っても、庶民がその恩恵に預かるには時間がかかります。

当時、限界のあった医療のため、本人や家族が不幸な目に遭っている人物は『ゴールデンカムイ』には度々登場します。

谷垣の妹・フミは疱瘡にかかり、感染を広げないために自ら死を選びました。

チカパシのコタンは、伝染病で壊滅。和人の持ち込んだ感染症への抵抗力が低いアイヌにとって、伝染病は恐ろしいものでした。

山口県に縁がある囚人・海賊房太郎も、一家を病で失っています。

杉元は神奈川の村に生まれています。少し大きな隣町にいけば医院があるような環境でしょうか。

しかし、よりにもよって杉元家を襲った病は、国民的な死病とされる結核でした。

当時は治療法も確立しておらず、庶民は療養所に入院する金銭的余裕もありません。

自宅療養の結果、杉元の家族は次から次へと斃れてゆきました。そして、父の死後、杉元佐一は家に火を放ち、故郷から旅立つことになります。

この結核との関係は、歴史上のある人物を彷彿とさせます。

一体だれなのか?

そのヒントは黒猫にあるのではないでしょうか。

劇中で杉元は、黒猫に「お前が家にあまりいつかないから結核になるのか」と話しかけていました。

実はアジアの伝統で、黒猫は魔除けの効果があります。

そして、黒猫と結核は、新選組の沖田総司の話が有名です。

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結核療養中の沖田が黒猫を斬ろうとしたものの叶わず、己の衰弱を思い知ったというものです。

この話は史実ではなく後世の創作と思われますが、それでもあえて黒猫と結核を組み合わせて出すことで、杉元と沖田という組み合わせを感じさせる。

命が尽きることを悟った土方歳三が、己の後継者であるかのように杉元を見つめる場面がありました。

土方が杉本の中に、沖田総司につながるものを見出したのだとすれば、ありえる設定ではないでしょうか。

杉元は反射的な攻撃を得意とする戦闘スタイルですが、これも沖田と一致しています。沖田は電光石火の突き技が得意であったと伝わります。

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