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岩佐又兵衛(荒木村重 息子)の狂気!浮世絵に描く母「だし」への思い

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鉄の匂いが伝わって来そうな描写の数々

大変恐れ入りますが、以下のYoutube動画をご覧頂けますでしょうか。

 

笑いながら常磐に刀を突き刺す男。
鮮やかな血の赤、痛みが伝わってくる傷口。
血の気を失い、青い顔でゆっくりと死んでいく女。
鉄の匂いが伝わって来そうな描写の数々。

「絵巻物がおとなしいもの」だなんて、誰が言ったのでしょう。

私はこの絵を初めて見たとき「あぁ、喜んで描いた絵なんだな……」と直感いたしました。

商業作品は大抵、編集者や読者の意向が反映され、描き手の表現したいことは時に1~2割に抑え込まれます。
「仕事だから、と嫌々描いた作品だな」と匂ってくるものです。

逆に、描き手が描きたいものと編集者・読者が見たい波長がピタリ合う、あるいは近い場合は、それはもう、嬉しくて嬉しくて筆が止まらない!

嬉しい!
楽しい!
もっと描かせろ!
そして見てくれ 私のこの作品を!!!
と夢中になってしまうのが絵描きの性です。
この「山中常磐物語絵巻」はそういう「描き手が喜んで描いた絵」だと思えるのです。

では 又兵衛は何をそんなに喜んでいたのでしょうか。

私は当初、「溜めに溜めた憎悪の念を吐き出せるのが嬉しかったのか?」と考えました。
人を殺すということはこういう事だ。俺は知っている。そして死んでいく様はこうだ。
見ろ!俺は全部知っているぞ。そんな声が聞こえてきそうだと思ったのです。

殺人が身近だった時代だとはいえ 安全な街中でぬくぬく育った絵師ならこうはなりません。

村重謀反の惨劇・トラウマをはっきり覚えていなくとも、血みどろの世界に対して、どこかで「そこが自分の居場所、自分のルーツだ」という愛着のようなものがあったのではと私は勝手に考えていたのです。

しかし違った!

辻惟雄先生によると「又兵衛はこの常磐に母を見ている」、そういう絵だと仰るのです。

 

胴も真っ二つだ!首も飛ばして床に転がしてやる!

常磐に母だしを見ている? なにゆえ??

私には、瞬時に先生の真意が理解できませんでした。そこでジックリと考えてみます。

常磐御前と牛若…義経頼朝
死んでいく母と、寺に預けられて生き延びた息子。
そして生き別れた兄弟。

なるほど…この絵巻のキャラクターの立ち位置は、よくよく考えてみれば荒木家、つまり又兵衛の境遇にそっくりではないですか!

又兵衛はこの常磐に母「だし」を見ておりました。

母を殺した輩を今度は自分がギッタギタに切り裂き、死体を菰(こも)にまとめて谷へ投げ捨てる。
そんな復讐が出来たら? 母を殺した奴らをこんな風にできたら?

もはや感情のみで筆を走らせろとばかりに、胴も真っ二つだ!

首も飛ばして床に転がしてやる!!

ああ凄まじい!

又兵衛、凄まじいよ!!

 

又兵衛が関わった血みどろ絵巻「堀江物語絵巻」

申し訳ありません、つい興奮してしまいました。

ただ、申し上げたいのは、この絵巻の想いの強さは私だけに訴えるものではなかったということです。

山と積まれた書物の中からドイツ人ルンプに「これが欲しい」と思わせ、「家を売ってでも守らなければ」と編集者巳之吉に思わせ、後の学者たちにも「研究しなければ!!」と思わせる。
見る者の人生を振り回してしまう、まさに狂気なのです。

「この絵はすごいですね」と、思わず野良漫画家の私に原稿依頼をしてしまった武将ジャパンさんも、もうきっと又兵衛の虜。

皆様にも是非、又兵衛を知って頂きたいのです。
そしてもう二度と国外流出なんて危険な目に遭わぬよう、この絵巻を守って頂けたらと思うのです。

残念ながら私には気持ちはあっても財力がついていかぬのです。

又兵衛が関わった血みどろ絵巻にはもう一作、「堀江物語絵巻」があります。
あまりの過激さゆえか、一番悲惨な部分はカットされ失われているといいます。
R18規制が入ったの?それであの悲惨さなの?と思わざるを得ません。
気になる方は是非ご検索を。

絵&文:小久ヒロ

【参考】
『岩佐又兵衛―浮世絵をつくった男の謎 (文春新書)』(→amazon link
『岩佐又兵衛:浮世絵の開祖が描いた奇想 (別冊太陽太陽 日本のこころ)』(→amazon link
『岩佐又兵衛と松平忠直――パトロンから迫る又兵衛絵巻の謎 (岩波現代全書)』(→amazon link
MOA美術館

 



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