大河ドラマ『独眼竜政宗』

大河ドラマ『独眼竜政宗』/amazonより引用

大河ドラマ感想あらすじ

大河ドラマ『独眼竜政宗』は名作だ! しかし悲しき誤解も産んだ

1987年の大河ドラマ『独眼竜政宗』――と言えば人気ランキングでは上位必至の名作。

「好きだ」「戦国に目覚めた」という意見の多い作品ですが、そのぶん功罪も大きく、現在進行形で東北戦国史に悪影響も与えている――そんな問題作だったりもします。

あらためて本作について考察してみました。

『独眼竜政宗』(→amazon

 


戦国大河への飢餓感があった

『独眼竜政宗』が名作とされる要素として、戦国大河への渇望感があったことは見逃せません。

以下のように

◆1984年(昭和59年)
『山河燃ゆ』
主人公:日系アメリカ人2世の天羽賢治

◆1985年(昭和60年)
『春の波涛』
主人公:女優の川上貞奴

◆1986年(昭和61年)
『いのち』
主人公:医師の岩田未希

直前の3年間は明治~昭和を舞台とした作品であり、近代ものは不発でした。

一応、当時は水曜日枠に「NHK新大型時代劇」があり、長い目で見たら上記のような近代作品も定期的に続けていく方が良かったのかもしれませんが、いずれにせよ1987年(昭和62年)の『独眼竜政宗』が大ヒットを飛ばした背景には、戦国への飢餓感があったのは見逃せないでしょう。

しかし、これがなかなか問題もあるものでした。

 


奥羽の喪失感から生まれた英雄

話のスパンを広げて申し訳ないのですが、主人公になった伊達政宗の評価そのものがかなり難しいものがあります。

戦国武将として、信長・秀吉・家康という「三英傑」に次ぐ高い人気を獲得できたのはなぜなのか。

その背景には、江戸時代そして幕末の戊辰戦争まで遡る長いスパンのお話があります。

詳細は以下の記事に譲りますが、

政宗が東北代表の戦国大名として担がれるのはなぜ?仙台藩vs薩摩藩の影響か

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要点だけピックアップさせていただきますと……。

・江戸時代を通じて外様大名「北の代表」としての仙台藩があった

・ライバルは南の薩摩藩

・その対決構図は、戊辰戦争という残酷な結末を迎える……

・明治以降「白川以北一山百文」という奥羽蔑視がつきまとう

・自信喪失した奥羽の人々は伊達政宗にロマンを託す!

戊辰戦争で、多くが敗者となった奥羽の人々にとって、伊達政宗は歴史上での期待の星だったのですね。

地元の誇りとして政宗を敬う――それはそれで悪い話ではありません。

けれども本作を放送する上では弊害も伴ってしまいました。

 


根底にある研究内容が古いし、まずかった……

その代表的な弊害が、政宗を持ち上げるあまり、伯父である最上義光、実母の義姫を徹底的に貶めたことでしょう。

最上義光は原田芳雄さんが演じ、義姫は岩下志麻さんが演じられました。

最上義光
最上義光(政宗の伯父)は東北随一の名将!誤解されがちな鮭様の実力

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政宗を輝かせるため悪役として描かれた彼らの演技力は凄まじいばかりの迫力で、それが世間に印象付けられてしまったのです。

更に、以下の理由から、誤った認識はそのまま現代にまで影響を与えるようになりました。

・なまじ最上家の改易が早かっただけに、伊達家の主張が通る欠席裁判状態が何世紀も続行中

・しかも昭和時代になってから「アンチ最上」である謎の実業家や、研究者が、個人的好悪で最上義光を貶しまくる

・奥羽戦国史の知名度や関心が薄く、誤った史実がなかなか修正されない

これが笑えない話で、交通網の整備や観光キャンペーンでも不均衡があるわ、山形県民としては不満まみれでした。

あるご年配の婦人は、こう眉をしかめて語ったそうです。

「最上の殿様はこだ下品な人でねえ!」

山形市民が語り残してきた殿様像との落差に、悲しみを隠せない人がいるのは、仕方のないことでしょう。

温厚な山形県民も失望と困惑を隠しきれず、最上関連の描写についてクレームを入れたほどです。

すると、こんな反応が返ってきました。

「フィクションにケチをつける山形県民はおかしいよね」

「こういう地元の人に忖度するから、大河はつまらなくなるんだよ」

確かにフィクションはフィクションです。しかし大河作品については信じ込む人も多い。

それが現実的にも影響のある問題で、最上の研究者に対し「あんな悪党を調べているんですか?」なんて半笑いで言ってくる人までいたといいます。

それに、悪をベタで陳腐な悪として描くことは、フィクションでもかえって作品の質を落としかねません。

現代の視聴者の皆様でしたら、「フフッ、お主も悪よのう」といった、見た瞬間にわかる悪代官のような仇役では満足できませんよね。

奥羽の戦国史は、当時、簡単に把握できる資料が不足していたこともあり、『独眼竜政宗』は現実社会にも深刻な悪影響を及ぼしました。

戦国ファンにはお馴染みの『信長の野望』シリーズでは、最上義光のステータス値の「義理」が「2」とされ、“ギリニ”というあだ名まで定着したほどです。

義光本人のみならず、豊臣秀次事件に連座して処刑された駒姫については、もう、絶句してしまうくらいの改悪がドラマの中でも実施されました。

駒姫
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駒姫の場合、処刑された妻妾の中でも秀次の顔すら見たことがなく、際立って悲劇的とされたものです。

この史実は、当時からそう認識されていたとされています。

ところがドラマ内では、山形で義光が、駒姫に秀次の接待をさせているのです。京都でも奉公させる駒姫の姿が強調されます。

義光の不快感を映像化することで演出効果を狙ったのでしょう。

しかし、あまりにも無神経で侮辱的な改変でした。

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