軍師連盟

軍師連盟/amazonより引用

歴史ドラマ映画レビュー

『鎌倉殿の13人』ドス黒い世界観が好きなら『三国志軍師連盟』を見よ

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日中の歴史の違いを学ぶ

作劇的な共通点はある一方、当然ながら両者の歴史は異なります。

二作を見ることで、その違いを認識することも興味深いものがあります。

『軍師連盟』の五条原の戦いは3世紀。

『鎌倉殿の13人』の承久の乱は13世紀。

ざっと千年の差があります。

◆都市の構造と防衛

「上洛」という言葉があります。

京都を中国の「洛陽」になぞらえた呼び方であり、かつて中国の長安や洛陽をめざして都を作って来た日本の歴史の特徴です。

では、長安や洛陽とはどんな都市だったのか?

そんな想像に応えてくれるのが『軍師連盟』であり、VFXを駆使して表示される洛陽や成都は壮麗です。

あの映像を見ながら、平安~鎌倉時代の人々の気持ちを想像するのもまた一興。

とはいえ実際の都市構造は両国で大きく異なり、都市防衛の設計にも差があります。

最近、中国産の戦国時代ゲームが増えていますが、広告動画を見ていると日本のものではないとわかる。

その大きな特徴が、都市を城壁で囲んでいることでしょう。

漫画アニメ『キングダム』でお馴染みですね。日本は中国ほど強固な城壁都市ではありません。

その差に気づいてないのでしょう。高い城壁で囲まれた戦国時代の街並みがゲームに出てしまうのです。

『軍師連盟』を見てから『鎌倉殿の13人』を映すと、都市防衛の甘さが理解できます。

しかしだからこそ「これではいけない」と考え、その後、日本の「城技術」は進んでゆきます。

◆兵器

兵器にも国ごとの違いがあります。

中国にはあって日本にはない武器として「弩」があげられます。

油を入れた壺を投石器で敵陣に投げ入れ火矢を放つような戦術は迫力満点。

個人の武勇よりも技術を重視する――そんな中国の兵法をふまえることで、日本の戦い方の特質がわかってきます。

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◆地形の差

船を用いた水上船も異なります。

技術的な問題だけではなく、河川の流れや幅により違いが発生します。

【赤壁の戦い】の再現となると、日本ではかなり困難でしょう。

◆筆記具

『軍師連盟』では主に竹簡が使われます。

紙が普及する前の姿がわかります。

日本の木簡との違いも興味深かったり。

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◆社会制度や成熟度

始皇帝により中国は統一されますが、秦は長続きせず。

その後、漢はおよそ四世紀に渡り続き、中国の基礎を作り上げたとされます。

しかし、その支配に限界があるのではないか? だからこその乱世ではないか?

それが『軍師連盟』の時代です。

日本は中国をお手本とし、国家を作り上げてきました。

とはいえ、それも京都での話。『鎌倉殿の13人』における坂東は異なります。

教育の普及度。衣食住。言語能力。そうしたものが洗練されていく過程です。

なんだ『軍師連盟』の方が千年も前なのに、『鎌倉殿の13人』より進んでないか?

そう思って調べ、考えることが歴史作品のおもしろさでしょう。

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国の発展速度が異なることは歴史では当然のことであり、日本史を学ぶためには、他国との比較が重要になります。

そうした学びや気付きをドラマを通して得て、さらに掘り下げていく。

それが歴史劇の持つ役割でしょう。

『軍師連盟』にせよ、『鎌倉殿の13人』にせよ。

登場人物に感情移入して「俺ってあの主役みたいなんだよね、気持ちわかる」とは言いにくい作品です。

結果的に自分と一族を守るためとはいえ、あまりにエゲつない策を実行に移してゆく主人公。

はつらつとしていた青年の顔色が徐々に悪くなってゆき、目から光が消えていく。

歴史劇とは、もしかしたら「人間のあやまちや窮地を分析するためにあるのかもしれない」という思いが浮かんできます。

全くスカッとしないドラマで何か得られるとすれば、それは人類の成長かもしれません。

 

それでも義時がマシに思える

『鎌倉殿の13人』を見ていて、回が進んで最終回を迎えるにあたりメンタルが疲れた――という方は少なくないでしょう。

信頼してきた人物が理不尽に斬られ、斬首されてしまう。

もう嫌だ……と考える方にこそ『軍師連盟』はオススメできます。

どれだけ北条義時とその周辺がドス黒くなっていこうと、司馬懿よりはマシだと思えるのです。

ネタバレも含みながら、その辺の要素をピックアップしてゆきましょう。

◆妻没後がマシだ

北条義時は不可抗力により、愛する妻を複数回失ってしまいます。

そうはいっても妻に辛く当たったりはません。

一方『軍師連盟』の司馬懿は愛妻家です。妻である張春華をこよなく愛しています。

張春華は、義時の妻よりも長寿ですが、そのぶん先立たれた司馬懿が加速度的に闇堕ちし、見るものの心をエグります。

義時はそこまで急激に落ち込むことはないでしょう。そのぶんは『鎌倉殿の13人』の方が安心できます。

◆息子がマシだ

司馬懿の息子として『軍師連盟』には司馬師、司馬昭、司馬倫が登場します。

このうち司馬師はそこまで悪くないものの、弟二人は史実に輪をかけて極悪非道の性格をしています。

あんな愛のある家庭で育って、なぜここまで腐りきっているのか?

最終盤、司馬懿の息子の下劣さを見ていると気分がどこまでも暗く沈んでゆきます。

それと比較すると、義時の嫡男は“堯舜”に喩えられた北条泰時です。

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泰時の聡明さと善良さが一筋の光となる――そう見出すためにも、司馬懿の息子のドス黒さを味わっていただきたい。

ドラマの後、まだマシな司馬師は、極悪弟よりも早く没してしまいます。どこまでも救いがありません。

◆政権簒奪の過程がまだマシ

三代目鎌倉殿・源実朝の暗殺は、義時にとっては予想外のトラブルでした。

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結果的に北条一族が執権として幕府を担うことになったものの、最初からそれを望んだわけではありません。

司馬懿は追い詰められてのこととはいえ、自発的に根回しして魏を食い潰します。

司馬懿と比較すれば、義時の裏切りはマシです。

◆頼りになる筆頭ヒロインが死なないからマシだ

義時は姉・政子と二人で難局を乗り切ります。

『軍師連盟』は、司馬懿は妻である張春華と二人三脚で困難に立ち向かいます。

前述の通り、この張春華は夫より先に亡くなり、そこから司馬懿は人としての心を捨ててゆきます。

義時は政子より早く亡くなります。

司馬懿ほどの転落はないでしょう。

『鎌倉殿の13人』を見て、

『こんな不愉快な歴史劇は誰が求めているのか?』

『なぜこうもしょうもない謀略を繰り返すのか?』

と悲しくなってしまったら、そんな時こそ『軍師連盟』です。

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