ウォリアーズ 歴史を動かした男たち

ウォリアーズ 歴史を動かした男たち~徳川家康編/huluより引用

歴史ドラマ映画レビュー

英国人から見た家康と関ヶ原の戦い!BBC版『ウォリアーズ』は一見の価値あり

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BBC本気の関ヶ原、ハートを撃ち抜く砲弾!

いよいよ関ヶ原の開幕です。

うわぁ~。戦場が馬印と兵士であふれてる、いいなぁ~!

「関ヶ原は日本史上最大の合戦場となろうとしていた」

ナレーションとともに、カメラが移動。

カメラがどんどん動いても兵士だらけだ! これは大軍だ! 予算が、予算がここにあるぞー!! カメラが俯瞰すると両軍の兵士があふれていて、この規模の合戦は大河で可能だろうか、と嫉妬がわいてきます。

家康は秀忠の代わりに松平忠吉を参戦させ、直政をつけます。

松平忠吉/wikipediaより引用

直政が駆け抜ける場面。

そして画面にあふれる兵士の迫力。

嗚呼、なぜこれが大河ではないんだ!

兵士がぶつかるメインの合戦だけでも四十秒どころかかなり長い時間を割いています。

足軽だけではなく、馬防柵の間からの射撃、そして大砲と「サムライにとっての合戦はもはや槍や刀だけではなく、西洋渡来の兵器を使用していた」との説明がされます。

しかし秀秋は動きません。

三成は秀秋出陣を促すため、狼煙をあげます。そこで家康はついに大胆な策に出ます。

秀秋の迷いを読み取った家康。

「撃て!」

なんと鉄砲による威嚇射撃ではなく、松尾山めがけて砲撃しました。ここで大砲が豪華に火を噴きます。

「加勢を求める相手に砲弾を放つとは、まさに大博打!」

大博打の始まりじゃあーーーーー!!

博打というレベルを超越している気もしますが、絵的には豪華なので「まぁありかなぁ」という気分に。

小早川勢は西軍に突撃します。

この大博打こそショーグンの凄さだと主張するBBC版関ヶ原。NHKの大河では大博打といえば真田昌幸ですが、BBCでは家康担当でした。

ここでさらにナレーション。家康の強みは、秀秋の心を読み取ったことだというのです。

三成に対する不信感と、家康に対する恩義。それが秀秋の豊臣への忠義すら上回ったという分析です。こう分析される間も、人馬がぶつかりあいます。

 


武士の名誉より、我が子の命を選ぶ家康

家康の勝利から数日後、秀忠がやっと到着します。

この遅参は一族の恥。己を恥じた秀忠は「武士道は死ぬことと見つけたり」の教えに則って(いや、それは時代的におかしい)切腹しようとし、家康も「兄のように立派に腹を切れ」と促します。

本作では関ヶ原で負傷していない井伊直政が「しかし殿、今はもう天下は殿のものです。誰に憚ることがありましょう」と家康に助命嘆願します。

家康はこの言葉を受け、家康は我が子を止めます。

「21年前、私は主君に忠義を示さねばならなかった。しかし再び我が子を失うのは耐えがたい」

家康はそう告げ、静かに立ち去るのでした。

最後に、三成の捕縛と処刑、二年後に秀秋が正気を失い亡くなったこと、秀頼は21歳で家康に叛旗を翻し、敗北し自刃したと語られます。

そして家康は征夷大将軍として、250年にわたり日本を支配したと語られます。

時代考証はリーズ大学のスティーブン・ターンブル博士(日本史関連の著作多数)。

撮影協力は京都東映映画スタジオでした。

着付けで違和感を覚える人もいるかと思いますが、着付け、結髪、基本的な所作、殺陣指導などは日本側の協力者担当かと思います。

 


MVP:徳川家康

日本では否定的にとらわれがちの家康の狸ぶり。

それがBBC版では「これぞ天下を獲得した策!」と肯定的な描写なのが印象的でした。

策を楽しむ余裕、策の中身が「未来ある若者を殺してしまった負い目」である点。

信じられるか不透明な秀秋に賭けたところがクールに描かれているのが新鮮です。

イラスト・富永商太

 

総評

合戦シーンがよくてもトンデモなんじゃないか?

最初はそう思っていたのですが、よく出来ていると思いました。

人が省略されたり、衣装考証が甘かったり、いくつかの過程が飛ばされているのは仕方のない点でしょう。作る上での制限があります。

BBCの名誉のために付け加えておきますと、英国舞台の歴史劇においてはBBCの考証はかなり厳密かつ正確です。

他国の歴史を描いているというハンデはあります。NHKがシェイクスピアを映像化して、このレベルのものを作れるだろうか、ということです。

NHK他民放でも他国の歴史を扱うとなると、海外のドラマを流用した映像か、再現ドラマの合間にトーク形式が入るものだけでしょう。

全編ドラマパートだけで作ってしまうBBCは、やはりただ者ではないと思います。

プロットについて言えば、カットすべき点とそうではない点をわきまえています。

家康と秀忠を物語の中心に置き、家康の父として我が子を死なせた感情、忍従を際立たせ、常に信康の影がつきまとう。

家康の策ももちろんテーマですが、武士の美学である忠義と名誉は何であるかにも迫ろうとしています。

この世界観はある意味では日本人以上に厳格化されていて、それが秀忠切腹未遂につながっているといえるでしょう。

情報量を吟味し、そぎ落とすところは落としてテーマに焦点を絞っているわけで、脚本としてのレベルも高いのです。

そして合戦ですが、これはもう悔し涙で前が見えないレベルです。

カメラが移動しても移動してもあふれるサムライ。

駆け抜ける人馬、俯瞰して撮影しても画面いっぱいに映り込むサムライ。

大胆な砲撃、一斉射撃。

このワラワラ感が昨年の大河で再現されていたら……切なくなりました。

合戦以外でも、街の中を移動する場面であってもエキストラがあふれています。

ロケも多く、セットではなく寺社で撮影したと思われる場面も多く、全体的に豪華。予算と撮影技術の力を感じます。

大河も頑張ってはいると思いますが、BBCの圧倒的な力を見せ付けられてしまうとコメントできないような気持ちになります。

NHKの考証とBBCの撮影技術、予算を使ったら夢のようなドラマが出来そうです。

もういっそのこと、三浦按針を大河にして、BBCと合作したらどうでしょうか。そんなことを妄想してしまいます。

四十秒関ヶ原の虚しさを埋めようとしたら、もっと大きな穴が心に空いてしまった気がします。

いつか大河でもこのレベルの合戦を、お願いします!!


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著:武者震之助

【参考】
『ウォリアーズ 歴史を動かした男たち』(→hulu
『ウォリアーズ 歴史を動かした男たち』(→amazon

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