2024年にエミー賞を独占――世界で爆発的ヒットとなった『SHOGUN 将軍』をご覧になられたでしょうか?
舞台は日本の戦国。
それが世界で最も認められたドラマ作品になるなんて最高だな!
という声を各メディアで幾度となく見かけしましたが、不思議なことに「SHOGUN、ヤバすぎ、面白い!」とか「続編、はよ!!」といった、興奮する視聴者の声がほとんど聞こえてきません。
確かに、真田広之さんを称える声は途切れない。
されど、そうした関連記事やテレビと比べ、作品そのものに対する個人の熱い想いがSNSなどからも伝わってこないのです。
そこで『SHOGUN 将軍』を一話から最終回まで一気見したところ、日本ではあまり盛り上がっていない状況に納得すると同時に頭を抱えてしまいました。
礼賛記事を書かれた記者さんたちは、本当に全話を見たのでしょうか。
その上で褒め称えているんだとしたら、どういう楽しみ方だったのでしょう。
いや、世界的作品を楽しめない私の感覚が狂っているのかもしれませんが、ともかくそれには理由があるわけで、本記事にてまとめさせていただきます。
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ポスト『ゲーム・オブ・スローンズ』を求める時代
2024年、突如として世界的ヒットを成し遂げたような『SHOGUN 将軍』。
多くの方の目には、彗星のごとく現れた作品のように思えるかもしれませんが、実際はそうではありません。
『SHOGUN 将軍』は、2010年代で世界的に大ヒットを記録したドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』以降の流れに乗った作品と言えるでしょう。
『ゲーム・オブ・スローンズ』は、アメリカのHBO制作。
有料配信チャンネルであるため、性的、暴力的な描写を隠すことなく取り入れることができ、その過激さがヒットに繋がったとされています。
しかし過激さだけで世界的ヒットに繋がらないことはご理解いただけるはず。
『ゲーム・オブ・スローンズ』は人物相関はじめ歴史的背景やストーリー展開がとにかく複雑であり、それも人気の一因とされています。
アメリカでそうした作品が人気になったのは画期的なことでした。
同国では、建国の経緯から、近代以降の時代劇しか制作できないという事情があったからです。
『ゲーム・オブ・スローンズ』はドラゴンや魔法が登場するとはいえ、世界観は中世イングランドをモチーフとした物語。
過激な描写と中世の歴史観を組み合わせた配信ドラマというヒットの法則は、かくして生み出されたのです。
となると、当然、二番煎じ狙いが出てきます。
しかし、そう簡単にはヒット作品とはならない。
例えばファンタジーではAmazonプライムの『指輪物語』が気合を入れて制作されましたが、スマッシュヒットになったかというと、そうでもありません。
あるいは中世という舞台に目をつけ、日本史に着目した配信ドラマも実は制作されています。
2018年 Amazonプライム『MAGI』
2019年 Netflix『エイジ・オブ・サムライ:天下統一の戦い』
上記作品をご存知の方は、どれほどいらっしゃるでしょう。
こうした作品はそこまでヒットしておらず、シーズン続編が作られることはありませんでした。
そんな苦境の中で異例のヒットとなったのが『SHOGUN 将軍』です。
日本史で喩えるならば【ペリーの黒船】といったところでしょうか。
この作品がそれほどまでに画期的だった――という意味ではありません。
実はペリーが来航した当時の江戸幕府は、それ以前から日本各地の海岸に現れる外国船の影を捉えていました。いずれ幕府に接近してくることは予感していた。
しかし、事前に思い切った具体策は取らず、実際にペリーがやって来るまで見て見ぬふりをしてきたのです。
それが【黒船来航】の真実であり、今回の『SHOGUN 将軍』も同様に思えてなりません。
「黒船来航」をもたらした要素は
こうして見てみると『SHOGUN 将軍』に関する誤解が浮かんできます。
海外の配信ドラマが日本史に着目したのは、前述の通りこの作品が初めてではありません。
そこで日本へのリスペクトがあるかどうかも冷静に考えたい。
そもそもが『ゲーム・オブ・スローンズ』のバリエーションとしての人気であって、日本に着目したからこそ人気になったのか、敬意が表明されているのかどうか、そこは客観的になる必要があるのではないでしょうか。
『SHOGUN 将軍』はあくまでアメリカ人目線での長所が多い作品です。それを日本人がありがたがるかどうかは別のはず。
ヒットした要因としては、
・アメリカでも有名な原作付きドラマのリメイクであること
・主演の真田広之さんが同国でもある程度知名度があったこと
・主人公がイギリス人で、ヒロインがカトリックであること
こういった要素ありきです。
もしもこれを大河ドラマで放映されたら、果たして高評価を得られるのかどうか。
キアヌ・リーヴス主演の忠臣蔵こと『47 RONIN』と比べ、クオリティとしてそこまで差がつくとも私には思いません。
これがヒットして、日本でも受け入れられているとすれば、それは作品そのものが持つ魅力ではないと私には思えるのです。
「ポリコレ」なの? 日本文化に敬意はあるの?
『SHOGUN 将軍』に対しては、こんな感想もありました。
・ポリコレを無視してエログロ満載だからおもしろい
これは間違っていないと私は思います。
前述の通り、過激な『ゲーム・オブ・スローンズ』の流れを汲む作品です。
一方で、むしろポリコレに配慮したからこそ、特別だという意見もあります。
確かにそういうアピールはされています。真田広之さんの意見を取り入れているし、日本語の音声も多いのだから、多様性に配慮しているのだと。
これは半分正解で、半分不正解に思えます。
まず、真田さんに考証全てを任せているわけもありません。実際には海外の日本史研究者らが考証についています。
日本に配慮していることは確かにそうかもしれませんが、これまた客観的に考えてみたい。仮にあなたがこのドラマ制作者だとしたら、重視するのはアメリカ人の観客か、それとも日本人か?
答えは言うまでもなく、アメリカ人の観客でしょう。
主役はあくまでイギリス人であるブラックソーンです。
センスとしても「『ゲーム・オブ・スローンズ』みたいなやつが見たいのね」という需要にむしろ忠実。
作品を見ていれば即座に読み解けます。
画面はほぼ常に暗い。
蝋燭すらない灯明だという制作者のコメントはありましたが、それならなおのこと、どうしてこのドラマは夜間にばかり行動しているのでしょう。
日本人ならば、明るい春の光のもと、花を愛でたいと思う気持ちだってあるはず。
『47 RONIN』ではそのセンスを反映したのか、年がら年中桜が咲いていて、それはそれで問題がありました。
とはいえ、花鳥風月を愛でるほどの感性があるとも思えない『SHOGUN 将軍』ワールドよりはまだ良心的に思えなくもありません。
要するに、『SHOGUN 将軍』の世界観で生きる日本人は、薄暗い中で陰謀と殺戮、そして「マグワイ」ばかりしている野蛮な連中に見える。
近世文明が芽生えつつあるチューダー朝のイギリスから、野蛮な東の『ゲーム・オブ・スローンズ』ワールドに漂着した主人公奮闘記――それが『SHOGUN 将軍』です。
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