家康の正妻である築山殿。
彼ら夫妻と関わり深い今川家において女戦国大名と称された寿桂尼。
そして家康最後の敵となる浅井茶々(淀殿)。
2023年大河ドラマ『どうする家康』には上記のような個性的な女性が登場しますが、彼女らの世間的な評価はどうにも歪められてきた経緯があり、史実から見てどんな人物だったのか?という点については誤解が多かったりします。
そこで今回注目したいのが、研究者・黒田基樹氏が記した以下の三冊。
『家康の正室 築山殿』
『戦国「おんな家長」の群像』
『今川のおんな家長 寿桂尼』
※TOP画像が上記3冊の表紙/amazonより引用
いずれも偏見を無くした視点から記された力作で、当時の女性に関する正しい見識が深まること間違いなし。
一体どんなことが記されているのか?
僭越ながらレビューさせていただきますので、まずは『家康の正室 築山殿』から見て参りましょう。
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『家康の正室 築山殿』
江戸幕府を開いた三傑の妻でありながら、本書『家康の正室 築山殿』(→amazon)が初の評伝となるという築山殿。
考えてみれば不思議な話です。
浅井三姉妹の本は数多くあります。その末妹で、二代将軍・徳川秀忠の妻である“お江”は、2011年大河『江 姫たちの戦国』で主役を務めるほどでした。
一方、築山殿が注目された大河ドラマといえば、1983年『徳川家康』の池上季実子さん、2017年『おんな城主 直虎』の菜々緒さんぐらいでしょうか。2020年『麒麟がくる』では、第39回放送で小野ゆり子さんが演じ、その出番は一度きりでした。
同じくゲームでも出番は少なく、人気の『戦国無双』シリーズでは2021年の5において実装されているぐらいです。
天下人・徳川家康の正妻だというのに、なぜこうも人気がないのか?
織田信長の妹であるお市、あるいはその娘である浅井三姉妹と比べ、どこで差がついたのか。
大きな要因は、築山殿につきまとうマイナスイメージでしょう。
彼女は、ただ影が薄いだけでない。
常に悪女伝説がつきまとう。
そうした偏見や誤った伝承を訂正し、彼女の実像に迫っているのが本書『家康の正室 築山殿』です。
皆さんは、大河ドラマ『どうする家康』で有村架純さんが演じると知った時どう思われました?
あの嫉妬深い悪女と、有村さんの持つ可憐で清楚なイメージがミスマッチだとは思いませんでしたか?
こうした意外性の意味を考えつつ、本書を手に取ると色々と認識が変わります。
また、松本潤さんと有村架純さんという美男美女となれば、甘い夫婦をご想像されたりもしたでしょう。
二人は、今までの冷たい夫婦像を一変させるカップルになるのか?というと、史実ではそうなっていません。この夫婦はおよそ20年にわたり別居しているのです。
家康は彼女以外の女性との間に子を為しており、彼女は正妻としてその処断をしたことが記録されています。
この本は冷静です。
かつてはフィクションでなくとも、嫉妬深い悪女という前提で描いている記述があれば、その反動なのか同情的な記述のものもありました。
本書はどちらでもなく、資料から見える彼女の姿を淡々と追っていく。
著者ご自身の推察である展開は、その旨が書かれており明確。
そうして削ぎ落とした結果見えてる結論は、読む側の偏見を指摘するような明確明瞭なものです。
近代化以降、私たちは女性像や権限について偏見ありきで考えていなかったか?
そんな問題を考えるとき、典型例になるのが北条政子でしょう。
女性が政治的権力を行使しているだけで、とてつもなくでしゃばりで悪女だと思われてしまう。
正室が権限によって側室を咎めただけで、嫉妬深い女だとゴシップにされてしまう。
そういう偏見を抜きにしていくと、かつてあった女性の権限が見えてくるのではないか――本書が問いかけているのはそこです。
この築山殿の評伝は、大河のガイドとしてうってつけの一冊であり、それ以外にも意義があります。
2020年代は世界的にもジェンダー観点から偏見を取り除き、女性の権限や地位の見直しをはかることが重視されています。
黒田先生は、その点においても最先端をゆく方と言える。そのことがわかる一冊です。
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