黒田基樹の戦国女性三部作

黒田基樹氏の戦国女性三部作/amazonより引用

歴史書籍

戦国時代の女性に正当な評価を!どうする家康を楽しむための書籍3冊

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『戦国「おんな家長」の群像』

「おんな家長」という言葉についての説明から始まり、18名の女性を取り上げたのが『戦国「おんな家長」の群像』(→amazon)。

男性に代わって家長権を行使した女性の大名や国衆を紹介します。

女性による家長権の行使は、昨今、注目が高まっていて、大河ドラマにおいても現れています。

1981年『おんな太閤記』
2002年『利家とまつ』
2006年『功名が辻』
2011年『江 姫たちの戦国』

上記のような過去の大河作品は、良妻賢母や内助の功を発揮する女性像を取り上げていました。

それが2017年『おんな城主 直虎』では、女性の家長権行使が重視されることに。

本書は、時代や地域を広げることで、女性の家長権行使が決して珍しいことではなかったことを伝えます。

むろん資料をつぶさに読み解かねば実像は見えづらい。丹念に読み解くことで、彼女たちの生涯をたどります。

『どうする家康』の舞台で、注目されるべき女性をピックアップしてみましょう。

寿桂尼

今川義元の母

・飯尾連龍の妻(お田鶴/椿姫)

徳川家康に抵抗して討死を遂げ、家康と築山殿が弔ったとされる女性

・浅井茶々

→クライマックスで家康と対峙する豊臣秀頼の母

本書をみていくと、徳川家康の人生というのは様々な女性との「戦い」でもあったことがわかります。

慈しみ、愛するだけではなく、学び、戦い、対峙する――そんな女性たちが家康の人生にはいました。

浅井茶々について読んでいくと、彼女のような「おんな家長」が消えていった過程もまとめられています。

徳川家康は江戸時代という太平の時代をもたらしました。しかしそれは「おんな家長」という存在が消えていく過程でもあったのです。

ドラマはじめフィクションでは、人物像が脚色されます。時代や視聴者の抱いている理想的な人間像も反映されます。

大河ドラマの解説本となると、そうしたキャラクター性が重視されます。

嫉妬深い築山殿。

凄絶に散るお田鶴の方

我が子を溺愛し、大局を見る目がない茶々。

そうしてキャラクター付けをされた解説をよく目にすることでしょうが、同時に見逃してしまうものもあったり、偏見が増幅されることもあります。現代社会に漂う女性に対する偏見も反映されたりする。

いくら名作といわれる大河ドラマであっても、あまりに女性像が古臭く、昭和や平成の時代を感じてしまうこともあるでしょう。

令和の大河ドラマにも、時代がもつ女性像が反映されます。

そうしたバイアスを抜きにして、資料から女性たちの姿を読み解くことで、明らかになるものもあります。

黒田先生の本は決して派手ではありません。しかし、だからこそ見えてくるものがあるのです。

 

『今川のおんな家長 寿桂尼』

『どうする家康』の特徴として、家康が今川家から薫陶を受けるという要素があるとされます。

今川義元から学ぶ統治の術――その背後には、義元の母である寿桂尼もいたことでしょう。

築山殿も寿桂尼を手本とし、女性としての権力に目覚めるのかもしれません。

寿桂尼がどう描かれるのか、注目したいところで、そのためにも本書『今川のおんな家長 寿桂尼』(→amazon)は最適です。

彼女は発給文書も多く、動向が追いやすい「おんな家長」の代表格です。それを読み解くことでリアルなおんな家長像が見えてくる。

寿桂尼の家臣団には男女双方がおります。

女主人とその家臣というと、大奥のイメージが広がってしまうかもしれませんが、そうした江戸時代以降のイメージを払拭するためにも本書は有用です。

この本は寿桂尼初の評伝であり、かつ黒田先生にとっても戦国女性初の本格的評伝となっています。

このあとも黒田先生はジェンダー史を掘り下げてゆき、その成果が私たちに届いているのです。

本書は「おわりに」にも注目です。

なぜ、彼が戦国女性の研究に取り組んでいったか。

それを講義で取り上げることで学生がどう反応したのか。

そもそものきっかけが何かについて書かれています。

そして、人間は男女半々で構成されているのに、なぜ、女性の活躍が見えにくくなっているのか――という疑念を抱いたことがわかります。

ドラマ制作現場で出会った女優との会話。女子学生の反応。そうした現実社会からも刺激を受けて掘り下げていく。

黒田先生のそんな姿勢こそが、学問をより深くしていくことがわかります。優れた研究者とはこうした姿勢にあるのだと、私は本書の「おわりに」を読み、しびれる感覚を味わいました。

ことあるごとに勧めたくなる。それが、黒田先生の戦国女性評伝なのです。

大河ドラマ『どうする家康』の放送前にも、後にも、是非とも読んでいただきたい、素晴らしい取り組みです。

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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考】
『家康の正室 築山殿』(→amazon
『戦国「おんな家長」の群像』(→amazon
『今川のおんな家長 寿桂尼』(→amazon

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