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珠世は医学進歩に光明を見出す
数は少なく、偏見のまなざしがあっても。
珠世が医者として生きていけるのが大正という時代です。
医学の進歩は、鬼を倒すことに繋がる――そう彼女が思えたのも、進歩がありました。超常現象を扱うフィクションでも、歴史の進化とストーリーは切り離せません。
鬼を倒す前に、珠世と愈史郎は目立たない生命維持を見いだします。
それが採血です。
江戸時代以前ならば、人の生き血をすする時点で許されなかったとは思います。明治の初期には「血税(=徴兵)」が採血であると誤解した混乱が社会に起こっておりますから。
珠世の採血システムは、その時代らしい素晴らしいものです。
国や時代によっては、奴隷の血を飲んで解決していたかもしれない。HBOドラマ『トゥルーブラッド』のように、現在や未来な設定ならば、人造血液ができるかもしれない。
『鬼滅の刃』の鬼とは歴史的に見てどんな存在だったか その背景にある問題提起
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血液を採取し、飲むということは、現在ではなかなか難しいもの。
たしかに自分の血液を売ることで利益を得る――そんな時代はあり、日本でも、1950年代から1960年代半ばまでは「売血」が輸血用血液の確保手段でした。
そういう歴史があればこそ、珠世の手段は説得力を持つのです。
◆ 黄色い血(→link)
“リケジョ”の呪縛とは、もう、さようなら
1960年代に消えた日本の「売血」のように、2020年代という時代において、消えてもよい概念もあるはず。
それが“リケジョ”ではないでしょうか。
『鬼滅の刃』連載前夜2010年代半ばには、STAP細胞をめぐる騒動がありました。
◆ 「STAP細胞はあります」から4年、地獄をさまよった小保方氏の今(→link)
あの騒動は、報道が異常であり、かつ理系女性が置かれる状況の過酷さを見せるようなものがありました。
割烹着だの、身に付けるアクセサリだの。
キャラクターとして消費しようという意識が先走ってしまい、どうしたって関係者に不可解な印象がつきまといました。
歴史好きな女性は、イケメン武将を好きな歴女。理系女子は、割烹着のリケジョね……って、どうしてそうなる。
純粋な気持ち、好奇心で理系の研究してはいけないのでしょうか。
ゲノム編集でノーベル化学賞を受賞した博士は二人とも女性です。
いったい日本はいつの時代なのやら。
それにしても、こういう刷り込みはどこからきたのでしょうか。
「女の子はいいの、算数なんてできなくて」
「女だったら文学でも、学べばいいんじゃないか」
「女が医学部? ダメダメ、モテなくなるよ〜」
珠世の時代から、どの程度進歩しているのか……考えると頭が痛くなるばかりです。
試しに“リケジョ”でニュースを検索してみてください。
「理系を学んでいるようなかわいくない女だと思った? どっこいそんな“リケジョ”が、たわわなバストをお披露目だ、ゴクリ!」
まだ、そういう段階です。
ただ、これは日本だけでもなく、世界的に認識されているので、それこそ玩具メーカーからクリエイターまで、女子をごく当然のものとして理系へ導く取り組みがなされています。
当たり前なのです。迷信、差別、偏見で道を閉ざされてきただけですから。
◆ 『ブラックパンサー2』ではティ・チャラ王がすでに故人となり、妹のシュリ(※優秀な発明者でもあります)が主人公になると報道――チャドウィック・ボーズマンの死去を受けて(→link)
◆ バービー人形で「女の子の潜在力引き出す」新プロジェクト発表(→link)
◆マイクロソフト エイダ・ラブレス(※人類史上初のプログラマー)フェローシップ(→link)
◆ 世界を変えた50人の女性科学者たち(→link)
そんな将来を生きていく女の子たちに漫画を読ませるとしたら?
いくら『るろうに剣心』の高荷恵が当時として先進的な女医だと言ったところで、無理はあります。
・患部にふれそうな髪型
無理もありません、実用性より見た目重視だから。
・曖昧な医学知識
なんとなく最先端技術とされますが、ちょっとわかりにくいところはある。
・誰もが恵に明治当時の偏見がないように思える
会津出身、女、行かず後家、麻薬製造に関わっていたのに?
でも、連載当時平成の偏見はある。
・キツネ呼ばわりで茶化される
おいしい料理で胃袋を掴める女アピール。
・年下の弥彦や左之助あたりにバカにされても、そこまで怒らないし、嗜めるわけでもない。
・局面において、さして役に立っていない
恵が敵の撃破に必須となる何かを発明するわけでもない……。
こうした諸々の特徴ですが、別に作者の和月先生だけが悪いとは思いません。
連載当時は編集部も読者も、明治女医の直面するリアルな苦悩なんて想定していないし、別に読みたくもなかったのでしょう。
『るろうに剣心』高荷恵~色っぽい大人の女設定は会津女性としてどう?
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では、珠世は?
『るろうに剣心』で引っかかる部分が尽く解消されています。
・患部にふれそうな髪型
珠世は当時の服装規範に沿い、かつ医療従事者らしい髪型です。
・曖昧な医学知識
鬼であるならなんでもありというわけでもなく、どうすれば解決できるのか、西洋由来の技術由来のことを説明できる。
・誰もが恵に明治当時の偏見がないように思える
自分を「人」とみなした炭治郎に驚きを見せています。鬼ですので人とは違った差別を受けてきたことでしょうが、だからこそ言動に見えます。
・キツネ呼ばわりで茶化される
珠世様を茶化すことなど絶対許さない、そんな愈史郎がいるから安心です。むしろ誉めよ讃えよひれ伏せ!
・年下の弥彦や左之助あたりにバカにされても、そこまで怒らないし、嗜めるわけでもない
愈史郎に教育的指導をきっちり入れて、反省させています。
・局面において、さして役に立っていない
彼女抜きにしては勝てない!!
要は、キャラクター描写にアップデートがかけられているんですね。
それはワニ先生はじめ、作り手の配慮なのでしょう。
珠世のみならず、彼女と共に薬を調合する胡蝶しのぶも薬学が大得意。
いずれ少女の読者たちをこう導いてくれるかもしれません。
「珠世やしのぶみたいな、薬物を調合する、カッコいい女性になりたいなぁ」
「理科の実験をしているあの先生、珠世さんみたい」
「ふーん、薬作る勉強するの? しのぶみたいだね」
マンガが子供たちに与える影響力を考えれば、そうあり得ない話でもないでしょう。
その点『鬼滅の刃』は秀逸で、最先端で、これから楽しむ作品として、消えぬ輝きがあることがわかります。
エンタメなんだから、難しいことは持ち込まないで、ぱーっと楽しめればいいよ!ってワケでもないんですね。
今を生きる子どもたちは、面白さだけではなく、世界を見る目を変えるような作品を楽しんでいるのです。
少年漫画のこうした進歩は止めることはできません。
津田梅子の5千円札を使い、『鬼滅の刃』を読む人々は、過去とは決別していく。できれば私達もついていきたいものです。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考】
『鬼滅の刃』21巻(→amazon)
『鬼滅の刃』アニメ(→amazonプライム・ビデオ)